2023年06月21日

「もう日米同盟だけでは日本は守れない」…その事態に呼応する自衛隊・NATOの連携強化と「プロとしての間合い」を習得していない中国軍との「偶発的衝突のリスク」

「もう日米同盟だけでは日本は守れない」…その事態に呼応する自衛隊・NATOの連携強化と「プロとしての間合い」を習得していない中国軍との「偶発的衝突のリスク」
鈴木 衛士 元航空自衛隊情報幹部
2023.6.20 :現代ビジネス

NATO創設以来最大の空軍演習
北大西洋条約機構(NATO)加盟31ヵ国のうちの23ヵ国に日本とスウェーデンを加えた25ヵ国が参加する空軍演習「エアー・ディフェンダー23」が6月12日からドイツ国内で行われている。
ドイツ空軍の説明によると、今回の空軍演習は、航空機約250機、人員約1万人でNATO創設以来最大の規模であるとしており、23日までの日程で実施される。
この空軍演習「エアー・ディフェンダー(空の守り人)」は、2018年から始められ、NATO加盟国の領土が侵略を受けた場合にNATOが連携して防御作戦を遂行することを目的としている。

今回は、特にドローンや巡航ミサイルを使った攻撃に対する防御態勢の強化を図ることを目指しているとのことだ。
ドイツのピストリウス国防相は「われわれの安全保障と自由にとって脅威となる勢力に対抗し、NATOとドイツ空軍が自分たちを守る準備のできていることを明確にすることが目的だ」、と述べており、これがロシアのウクライナ侵略を念頭に、プーチン大統領に明確なメッセージを送るためであることは明白である。
なお、航空自衛隊の参加について、ドイツ空軍の報道官によると、「航空機は参加しないが、将官クラスの自衛官がオブザーバーとして参加する」と述べていた。

防衛省や航空自衛隊からは、19日現在、本演習への細部に関わる参加態様の発表は行われていないものの、航空幕僚長が19日から23日までの間、ドイツおよびフランスへ出張し、20日にはドイツのシュレースヴィヒにおいて「エアディフェンダー23」のDVデイに参加することが公表されており、これを含めて複数の幹部自衛官が本演習にオブザーバーとして会議などに出席するものと見られる。
このような細部の参加態様はともかく、やはりNATOの演習でわが国が、「ショウ・ザ・フラッグ(旗を掲げること)」が、何よりも(わが国の)脅威となる国家に対して有効な抑止効果をもたらすことにつながる、ということなのだろう。

海上自衛隊では、従前より、北朝鮮籍船舶の「瀬取り」を含む違法な海上活動に対する警戒監視活動において、欧州のNATO加盟国とも連携してこれに対応しているとともに、米海軍が主導する「FONOP: Freedom Of Navigation OPeration(航行の自由作戦)」においても、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた取り組みとしてこの多国間の枠組みで参加してきた。
そして、最近になって、航空自衛隊もこのような海上自衛隊の活動と連携するように、NATO加盟国などとも海・空共同訓練などを積極的に実施するようになった。

昨年9月28日には、初めてドイツ空軍の戦闘機ユーロファイター2000×3機がドイツ空軍総監インゴ・ゲルハルツ中将とともに来日し、航空自衛隊百里基地の戦闘機F-2×3機と共同訓練を行った。
また、本年6月7日から10日にかけては、米国主催大規模広域訓練2023(LSGE23)の一環として行われた、日米仏共同訓練(MBDE:Multi Big-Deck Event)に参加した。
このMBDEには、米海軍から空母2隻「ロナルド・レーガン(CVN-76)」「ニミッツ(CVN-68)」、巡洋艦3隻「アンティータム(CG-54)」「ロバート・スモールズ(CG-62)」「バンカーヒル(CG-52)」、駆逐艦4隻「ラファエル・ペラルタ(DDG-115)」「ディケイタ―(DDG-73)」「ウェイン・E・メイヤー(DDG-108)」「チャンフーン(DDG-93)」の計9隻、米空軍から戦略爆撃機B-52×1機が参加した。
これに、初めて来日したフランス海軍最新鋭の多任務フリゲート「ロレーヌ(D-657)」が加わり、海上自衛隊からは航空機搭載護衛艦「いずも(DDH-183)」及び護衛艦「さみだれ(DD-106)」が、航空自衛隊からは那覇基地の戦闘機F-15×4機が参加した。

空軍機の参加形態を見ると、航空自衛隊の戦闘機は、米空軍戦略爆撃機の援護任務を演練したものと見られる。

中国海空軍の危険性
なお、本訓練は沖縄東方の海空域で行われた。
まさに、6月9日の拙稿『中国ロシアの「核兵器搭載可能な爆撃機」が初めて2日連続で日本海を飛行…日常化する中露の「2大核保有国による核恫喝」がヤバすぎる』は、この開始直後に行われたものであり、7日の飛行経路を見ても、この訓練を意識した中露による示威行動であったことは間違いないだろう。
このように、これだけの規模の共同訓練を実施しているさ中に、これと同じ海空域で示威行動を実施するようなところに、中露合同軍の危うさがある。

特に、今回中国軍は、中露の爆撃機に多数の援護戦闘機を随伴させるとともに、海上では戦闘艦艇2隻をこの海域へ派遣した。これは、とても危険な行為である。
南シナ海における、米海軍艦艇や航空機などへの中国海軍艦艇による危険な異常接近とも合わせて、このような行動は直ちに止めるようわが国も関係国と連携して、厳重に申し入れを行う必要があろう。

歴史ある成熟した軍隊であれば、示威行動を行うにせよ、偶発的な衝突を避けるためにも、今回のような場合、微妙に時期や海(空)域をずらすのが軍事的常識である。
筆者は、若いころ旧ソ連の軍事活動の情報収集に携わっていたが、旧ソ連軍がわが国やわが国周辺の米海空軍に対して示威行動を行う際には、この辺りの微妙なさじ加減はしっかり心得ていた。

それに比べて、21世紀に入って急成長した中国人民解放軍の海空軍の行動は極めて危うい。
未成年の不良のような無謀さがある。
海や空といったフィールドにおける相手国との「間合い」というものを良く理解していないのではないか。

筆者の現役時代、米空軍の情報将校も、中国軍は「アン・プロフェッショナル(軍人として未熟だ)」と嘆いていたが、昨今の台湾や南シナ海を巡る情勢で、それがますます顕著になっているように見受けられる。
このようなことを繰り返していると、いつか必ず偶発的な事故などから軍事衝突を惹起することになろう。
これを避けるためにも、わが国は米国はもとよりNATO加盟国などとも結束して、中国人民解放軍の挑発的な行動を糾弾していかなければならない。
posted by 小だぬき at 12:00 | 神奈川 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「アメリカ軍が沖縄から撤収の動き」が加速中…ついに「日米同盟だけでは日本は守れない」事態が現実に?《嘉手納から54機のF15が退役、以後「戦闘機の常駐ナシ」の計画》

「アメリカ軍が沖縄から撤収の動き」が加速中…
ついに「日米同盟だけでは日本は守れない」事態が現実に?《嘉手納から54機のF15が退役、以後「戦闘機の常駐ナシ」の計画》
6/20(火)  現代ビジネス

 北大西洋条約機構(NATO)加盟31ヵ国のうちの23ヵ国に日本とスウェーデンを加えた25ヵ国が参加する空軍演習「エアー・ディフェンダー23」が6月12日からドイツ国内で行われている。
ドイツ空軍の説明によると、今回の空軍演習は、航空機約250機、人員約1万人でNATO創設以来最大の規模であるとしており、23日までの日程で実施される。
日本の参加としては航空自衛隊によると、トップである航空幕僚長自らが本演習の会議に出席することになった。

そして実は海上自衛隊では以前から、北朝鮮籍船舶の「瀬取り」を含む違法な海上活動に対する警戒監視活動において、また米海軍が主導する「FONOP: Freedom Of Navigation OPeration(航行の自由作戦)」においても、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた取り組みとしてNATOとの協力関係を築いてきたという経緯がある。
 今回の合同軍事演習は、この海自の動きを追うような形で、空自がNATOとの連携を強めたとも、見ることができる。
これは何を意味しているのだろうか。

米軍による沖縄からの撤収の動き 
 前述のように、海上自衛隊だけでなく、航空自衛隊が遠く離れた欧州のNATO加盟国とも連携を深めようとしているのには、それなりの理由がある。
それは、台湾情勢がますます緊迫化してきている昨今において、航空自衛隊が日米同盟のみに頼ることの危険性を意識し始めたからである。
このきっかけとなったのが、米軍の「沖縄からの撤収」の動きである。

 米軍は、本年1月26日、沖縄に駐留する海兵隊約4,000人の移転先となる米領グアムの基地「キャンプ・ブラズ」の発足式典を開き、正式に運用を開始した。
そして、来年以降、沖縄からの部隊移転が始まる。
これは、沖縄の米軍による負担軽減策として日米が合意の上で進めてきたものであるのだが、米軍の沖縄からの撤収の動きはこれを契機に加速しつつある。

 昨年の11月には、沖縄の米空軍嘉手納基地を拠点とする計54機のF15戦闘機が、2023年以降老朽化に伴い退役することに関連し、F-15 の退役後は、戦闘機を嘉手納基地に常駐させず、アラスカからステルス戦闘機F-22が6ヵ月ごとに入れ替わるローテーション方式で沖縄に飛来することになったと、内外のメディアが伝えた。これはおそらく事実であろう。

 日米同盟に頼る「日本のリスク」
 つまり、米国は、中国から沖縄を射程に入れた精度の高い数百発に上る弾道ミサイルなど各種ミサイルによる飽和攻撃を受けた場合、完璧な防御は不可能であると判断し、根拠基地として戦闘機を常駐させることを止めようとしているのである。
これは、航空自衛隊にとって憂慮すべき事態である。
 なぜならば、常駐して常に基地周辺で訓練を実施している部隊と、ローテーションで本国から飛来してくる部隊とでは、空域特性や周辺環境などに関する認識に差があるので、防空能力にも影響してくる。
ローテーションで飛来して間もない部隊なら、航空自衛隊との連携も常駐部隊の時のようにうまくは行かないだろう。

 米国側の事情により、ローテーションがうまく回せず、一時的に米軍の戦闘機が不在になることも十分考えられる。
これは、わが国にとって大きなリスクである。
このリスクを軽減するために、米軍だけに頼らず、欧州のNATO加盟国空軍などとも連携することが必要になってきたのである。
 これは、もちろん航空自衛隊だけの問題ではない。

わが国は、日米安全保障を国防の根幹としているが、もはや現在のわが国周辺情勢にかんがみると、日米同盟だけに頼っていては、国の防衛がおぼつかなくなってきているのである。

「中国包囲網は幻?」ブリンケンの訪中
 バイデン米大統領の中国に対する外交政策を見ても、どこか腰が引けているような気がしてならない。
というのも、この18日から、ブリンケン米国務長官が北京を訪問し、バイデン大統領が熱望している中国の習近平国家主席との首脳会談を実現しようと模索したようであるが、これはまさに中国にとっては米国が「三顧の礼をもって首脳会談を求めてきた」と解釈される類の外交であり、6月7日付の本誌、浅香豊氏の『バイデン政権が見せる「対中姿勢」の大いなる矛盾…西側による「中国包囲網」はもはや幻想にすぎない』に書かれているようなことが、現実味を帯びてきたような気がするのである。

 わが国がNATOの連絡事務所を東京に設置しようとする動きに対して、フランスのマクロン大統領が反対しているようであるが、これは中国を斟酌してのことであろう。
これも、中国の巧みな外交がNATOの加盟国にも影響を及ぼしているということなのだろう。
しかし、逆に言えば、このような動きは、わが国がNATOと連携することを中国が脅威に感じているということでもある。  今後もわが国は、軍事的に「相手の嫌がる体制を強化するのが抑止力につながる」ということを念頭に、NATOだけではなくインドやオーストラリアなど、同じ価値観を共有し、中国の脅威に直面している民主主義国との軍事的つながりを強化することに尽力する必要があろう。

 後編記事『「もう日米同盟だけでは日本は守れない」に呼応する自衛隊の「NATOとの連携強化」と「プロとして示威行動の間合い」を習得していない「中国軍の危うさ」』につづく。

   鈴木 衛士(元航空自衛隊情報幹部)
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする