住所もヤバければ、名前もヤバい、マイナカード問題の難しさ
6/28(水) ニューズウィーク
<本来ならシステムを作る段階で名前、住所のデータ様式は統一しておく必要があった>
マイナカードの運用がうまく行っていないようです。
これについて河野デジタル相は、「日本の住所はヤバい」とか、「マイナを推進したのは旧民主党」だなどという発言をしています。
どちらも間違ってはいませんが、責任回避のように聞こえる発言は、かえって信頼を悪化させるだけと思われます。
かといって、河野大臣のように実務への理解能力のある閣僚を外して、理解も説明もできないような政治家が担当大臣になるようなら、迷走は深まるばかりになる危険があります。
河野大臣は今こそ「突破力」を発揮して、この問題への信頼回復を果たして頂きたいと思います。
具体的にどうやって信頼回復をするのかというと、大規模なDXの推進を「人海戦術」でやるなどということはあってはなりません。
そうではなくて、できるだけデータをクリーンにして、シンプルかつ強力なシステムを確立して安定した運用を実現するのが先決です。
その際に問題になるのが、紐づけするデータの一致です。
その際に、河野大臣の言う「日本の住所はヤバい」という問題は、笑って済ませられる話ではありません。
住所に関するデータが不統一では、個人を特定する際に、紐づけが難しくなるからです。
仮にマイナと金融機関、マイナと保険や年金などを紐づけする際に、照合した住所が間違っていたら、もしかしたら別の人物かもしれないわけで、そこでチェックをかけることができます。
■地番表記の段階から「ゆれ」がある
現在はおそらく多くの現場では、その「同一人物」チェックを人手で行っているわけですが、できるだけシステムによるエラーチェックを掛ける必要があります。
その際に、データが不統一であると、エラーばかりになってしまいます。
それ以前の問題として、マイナの住所が間違っていたら、重要な書類が本人に届きません。
ですから、「日本の住所がヤバい」というのは、これはもっと真剣に考えるべき問題です。
日本の住所というと、例えば京都の独特の通りを基準とした住所表記であるとか、地方によっては大字(おおあざ)がどうとか、難読地名など、色々と面倒な例外があるわけです。
これは確かに複雑ですが、今回はこの問題は例外ということにしておきましょう。
そうではなくて、もっと幅広く、全国にわたる問題としては、まず「地番の書き方」があります。
例えばですが、「1丁目1番地1号」を「1−1−1」と書くとか、「1丁目1−1」と書くことがあります。
これだけでも3通りあるわけです。
エラーチェックを効率的にかけるには、こうしたデータの標準化が必要です。
さらに言えば、「建物名」が必要かという問題があります。
「1−1」という地番が「Aマンション」と「1対1対応」をしているのなら良いのです。
確かに「Aマンションは全部が1−1」というケースがほとんどだというのは、事実でしょう。
ですが、小さなマンションなどで「1−1」という同じ番地には「Aマンション」も「Bマンション」もあるという場合は、建物名が必要になります。
<基本データが不揃いならデータ照合は難しい>
最大の問題は、そもそも住所のルールが一定でないということです。
戸籍は番地までで「号」はないという問題がまずあります。
つまり「1丁目1番」までで、「1号」は入りません。
では、住民票はどうかというと、一応「号」まで入るケースが多いと思います。
問題はその先で、集合住宅の「部屋番号」を住所の枝番として入れるかどうかは「任意」という自治体が多いようです。
つまり、「1丁目1番1号Aマンション101号室」に住んでいる人の住所データについて、「1丁目1番1号Aマンション101号室」で統一するのか、いちばん簡単な「1−1−1−101」にするのか、あるいは部屋番号は入れないで「1−1−1」にするのか決まっていないのです。
あとは下宿や間借りをしている人の場合に「誰々方」という表示をする場合があります。
この「方」というのは、郵便の配達住所としては必要な場合がありますが、戸籍には入れないし、住民票も普通は登録しません。
ですが、これもハッキリさせておくべきだと思います。
そう考えると、せっかく巨額の経費を投入してシステム開発をしても、そもそも基本となるデータが不揃いであり、入力ミスをほかのデータとの照合などで修正するのも難しいとなると、DXによる省力化、生産性向上には限りがありそうです。
■フリガナも英文表記もない
河野大臣は「AIを使って住所表記の『ゆれ』を吸収する」などと発言していますが、「日本の住所はヤバい」という問題の深刻度を本当に認識しているのかは怪しいと言わざるを得ません。
マイナで問題なのは「住所」だけではありません。
実は「名前」も「ヤバい」と言えます。
まず、日本人の場合ですが、マイナカードに入るのは、漢字(またはカナ混じり)の戸籍名だけです。
恐ろしいことに、カタカナのフリガナも、英文ローマ字表記もありません。
フリガナがないということは、銀行の口座名義人との自動紐付けも、名寄せによるチェックもできないということです。
保険証データとの照合も、こうした問題のために「手入力」が起きているのなら問題です。
また英文ローマ字表記がないということは、パスポートの英文表記との照合は不可能です。
仮に現在のマイナのシステムは、このままでは使えないということになり、巨額の資金を投入してシステムを改修するのであれば、マイナにカタカナのフリガナとローマ字表記も入れて、運用するようにするということも考えられます。
そうすれば、個人の特定ということの精度は高まります。
とにかく日本の場合、住所も名前も「ヤバい」のであって、本来はシステムを作る過程で制度も変更して、相当な程度クリーンなデータにしてから登録するという運用が考慮されるべきだったと思います。
冷泉彰彦(在米作家)