2023年08月19日

安倍政権でさえ忘れる日本...我々は歴史から学べないのか

安倍政権でさえ忘れる日本...我々は歴史から学べないのか
8/18(金) ニューズウィーク日本版

<忘れられたニュースを問う石戸諭氏のコラムの最終回。安倍元首相死去から1年の区切りでも、メディアは山上容疑者の動向などを追うばかり。賛否が分かれた憲政史上最長の政権を検証する動きはあまりにも乏しい>
安倍晋三元首相が亡くなってから7月で1年を迎えた。
この間、私にとっての驚きは1年の節目が安倍政権とは何だったかという議論よりも、手製の銃で安倍氏を撃った――現段階では厳密に言えば「撃ったとされる」だが――山上徹也被告の近況や、山上被告の母親が入信している旧統一教会の話題がメディア上での主要なトピックになったことだった。

それ以外ではせいぜい自民党の最大派閥で保守色の強い旧安倍派を今後、誰が束ねるのかが話題になっていたぐらいだろう。

今の日本社会において亡くなってしまうということは、存在そのものが過去になってしまうという現実をまざまざと見せつけられた。
安倍氏は日本の憲政史上、最も長く権力の座に就いた政治家だ。
それも正統かつ民主的な選挙を重ねて選ばれてきた。
その功罪の議論が盛り上がらず、過去になっていくのは忍びないものがある。

■政策的にリベラルな面もあった
生前に長時間インタビューを重ねて出版された安倍氏の回顧録は順調に増版し、ベストセラーになってはいる。
だが、それを基にして「アベノミクスの功罪」「集団的自衛権の解釈変更の是非」にまで議論を発展させている論客は限られるし、マスメディアが適切に議題を設定できているとは言い難い。

私個人の見解で言えば、安倍氏がアベノミクスで進めた金融緩和は労働市場にも好影響を与え、明らかに良い効果があった。デフレ脱却という面から見れば、欧米ならリベラル、左派政党が主張するスタンダードな政策だ。
むしろ旧民主党政権がこの方向に舵を切れなかったことが、同政権や下野した旧民主党系勢力への幻滅を生んだ一因になっていると考えている。

だが、税率が5%から8%、10%になった消費増税は金融緩和というアクセルと同時に景気のブレーキを踏むようなものだったし、効果的な財政出動も十分とは言い難かった。
ここは野党が突くべき論点なのに、一部を除き相変わらず漠然とした「アベノミクスか否か」ということばかり議論している。

安倍政権という「歴史」を問う姿勢が必要
また、集団的自衛権を認めるのならば、真正面から改憲を問うのが筋だったのではないかと思う。
東日本大震災からの復興、新型コロナ禍での政治......。
安倍氏に問えることはもっとあったし、安倍氏自身も語りたいことがたくさんあっただろう。

野田佳彦元首相が追悼演説で語ったように「安倍晋三とはいったい、何者であったのか。あなたがこの国に遺したものは何だったのか」を問うことは今でも必要だ。

長期政権から教訓を引き出し、学ぶという意味でも。そして政治家に限らず、人間は暴力によって命を奪われてはいけない。この点を忘れないためにも、私も安倍政権という歴史を問うていきたいと思う。

当コラムはこれが最終回である。インターネット時代のニュースは常に更新の波にさらされる。
だが、本当に必要なのは波に流されず、じっと考える時間だった。
それを理解してくれた読者――と支えてくれた編集部――への御礼で締めたい。
ご愛読ありがとうございました。
また、どこかで。

石戸諭(ノンフィクションライター)
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする