2023年09月11日

なぜ「月曜日の朝」は会社に行くのがツラいのか…医師が「7割の人に当てはまる」と指摘する"休日の悪習慣"

なぜ「月曜日の朝」は会社に行くのがツラいのか…
医師が「7割の人に当てはまる」と指摘する"休日の悪習慣"
2023年09月11日 PRESIDENT Online

休み明けにやる気が出ないのはなぜか。
脳神経内科医の田中伸明さんは「月曜日の朝に会社に行きたくなくなるのは、一人暮らしの若い人に多い。
十分なケアが必要なケースもあるが、相談に来る人の7割は『生活パターンの乱れ』に原因がある。
週末の夜更かしや寝だめはやめたほうがいい」という――。
※本稿は、田中伸明『自分のやる気が上がるのは、どっち?』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

■休みが長かった分、憂うつな気分も増す
週末の休日が終わる頃、ちょうど日曜日の夕方になると、「明日は仕事か……」と憂うつな気分になることがあります。
「サザエさん症候群」「ブルーマンデー症候群」と呼ばれる症状です。
この症状は学術的に裏付けのあるものではありませんが、多くの人が抱えていると見られ、休み明けは朝からやる気がしないと悩む人も少なくありません。
とくにゴールデンウィークやお盆休み、正月休みの後は、休みが長かった分、憂うつな気分も増すため、気持ちを切り替えて仕事に取りかかるのが難しくなります。

連休明けにやる気が出ない人は、次の2タイプのどちらかではないでしょうか。
@連休を楽しく過ごし、充実した時間を送った人
A連休明けにストレスのある用件がある人

@の連休が充実していた人は、休みが楽しかった分、連休明けの日々への期待値が相対的に低くなるためモチベーションは上がりません。
Aの連休明けに難しい仕事や人とのつき合いが入っている人は、それを乗り越えられるか不安であり、失敗することを想像してどんどん暗い気持ちになります。

@とAのいずれか、もしくは両方に該当している場合、連休最後の日の夜や休み明けの朝は憂鬱な気持ちに支配されることになります。

■「休みの日」と「働く日」の関係を見直す
では、連休明けをやる気のある状態で迎えるには、どうしたらいいかを考えてみましょう。
例えば、最悪の連休を過ごすというのも1つの解決策になるかもしれません。
「早く会社が始まらないかな」「これなら仕事に行っている方が楽しいな」と思えるひどい休日をあえて演出していくのです。
とはいえ、それではせっかくの休みが台無しになってしまいますから、この方法は現実的ではありませんね。

まじめな提案としては、人生を長い時間軸でとらえて、「休みの日」と「働く日」の関係を見直すことをお勧めします。
どういうことかというと、1日単位で休みの日と働く日を捉えるのではなく、5年とか10年単位で考えてみるのです。
すると人生には懸命に働く繁忙期と、調子が悪くパッとしない閑散期があることに気づきます。
実際私も、30代までは医師としてコンサルタントとして、しゃにむに仕事をしていました。
しかし、その後ベンチャーの起ち上げに参画していた40歳のときに大腸がんになり、強制的に自分の生き方を見つめ直す時間をもつことになりました。
人生には波があることを再認識すると、「休み」も「仕事」もどちらも楽しめるようになります。
働けるときは全力で働き、休めるときは全力で休む──。
そんなふうに、自分と休み、自分と仕事の関係性を見直すと、やる気が大きく上下動することはなくなるはずです。

■原因の多くは、週末に乱れた睡眠サイクル
誰にでも「今日は会社に行きたくない」と思う日があるでしょう。
そんなときはいっそ休んだ方がいいのか、それとも頑張って行ったほうがいいのか? 皆さんはどちらだと思いますか?
脳科学的には、「休んだ方がいいケースが多いが、休まずに行ったほうがいいケースも少なくない」となります。
私のクリニックにも、「会社に行くのがツラい」と相談に来る人が多いですが、ツラいと感じる理由を聞いた上で、休む・休まないを判断し、アドバイスしています。
月曜日の朝になると会社に行きたくなくなる、週明けになると仕事がイヤで会社を辞めたくなる……と訴える患者さんが一定数います。
一人暮らしの若い人に多い相談です。 もちろん、深刻な原因があり、十分なケアが必要なケースもありますが、7割の人は生活パターンの乱れに原因があります。
本人は「上司との関係が悪いからだ」「会社との相性が最悪だから……」と不調の原因を挙げてきますが、じっくり話を聞くと、週末に睡眠のサイクルがずれており、それが月曜日の不調の原因となっている場合が多いのです。

■「時差ボケ」のような状態が月曜の朝をツラくする
実際、金曜や土曜日の夜に夜更かしをして、次の日は昼まで寝ているような生活を送れば睡眠のサイクルは崩れていきます。 そのまま日曜の夜になって「明日は会社だから」と早めに寝ようとしますが、当然眠くならないわけです。
結局、睡眠不足で月曜日の朝を迎えることになり、体はだるくて動かない……。
自業自得にもかかわらず、「このダルさの原因はきっとストレスだ」と考えて、仕事や会社での人間関係などに原因を求めるのです。
原因を誤解するのは、寝不足で遅刻をしたり、ミスをすることが多いため、上司からの評価が下がり、その下がった状態をとらえて「自分は上司に嫌われている」と思い込んでいるからでもあります。
こうしたケースは、週末の生活パターンを立て直すだけで解決します。
週末に、あなたが引き起こした“時差ボケ”のような状態が、月曜日の朝をツラくさせているだけ──。
そう説明すると、不満げな表情になる人もいますが、実際に生活サイクルを整えると多くの人はツラさがだいぶ解消されます。
月曜日の朝になると、会社に行きたくないと感じる人は、週末の生活を見直してみることをお勧めします。
見直さないまま会社を休んでしまうと、ずるずると火曜日も水曜日も休み続けることになりかねないので、注意が必要です。

■医師がサラリーマンに休職を勧めるケース
一方、医師として会社を休んだり、休職することを提案するケースもあります。
本人が無理して出社したものの、普段のように働くことができず、頑張っているのに評価が下がってしまう場合です。
ツラさの原因は、対人関係の悪化や仕事の分量の問題、人事異動など環境の変化にあることが多いですが、本人がそれをうまく言葉にできないときは、質問をしながら原因を探っていきます。
そしてひとまず休むことを提案します。

休息による心身の回復が必要だからです。
その後休職した場合は、休みながら次のステップを探っていきます。
上司との人間関係が原因なら、部署を変える方向で復職を目指すなど、休みが明けた後のことを見据えて動いていきます。
復職後の対策をしないまま、ただ休み続けるのは避けたほうがいいです。休むことで体がラクになったとしても、休職した原因が解消されていなければまた同じことが繰り返される可能性が高いからです。

■面談の時間を取ってツラさの原因を探っていく
人間とは不思議なもので、会社の椅子に座るまでは「会社がイヤだ」と感じていても、作業が始まると集中できるというケースもあります。
一見、仕事に意欲的に取り組んでいるように見えるため、上司は部下のメンタル不調に気づくことができません。
もしあなたの部下が「調子が悪い」「会社に行きたくない」などと相談してきてくれたときは、聞き流さず、しっかりと向き合ってほしいと思います。
「2、3日休んで、様子を見て」「もうひと頑張りしたら、繁忙期も過ぎるから」などと適当にアドバイスするのではなく、面談の時間を取って一緒にツラさの原因を探ってあげてください。

「会社に行くのがツラいときは休んでもいい? 休まない方がいい?」という問いに対する正解はなく、1人ひとりのツラさの原因に応じた対応の仕方があるのです。

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田中 伸明(たなか・のぶあき) 脳神経内科医
posted by 小だぬき at 08:28 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ジャニーズのタレントやメディアを支配した「空気」とは何なのか? なぜ日本人は「空気」に縛られるのか?

ジャニーズのタレントやメディアを支配した「空気」とは何なのか? なぜ日本人は「空気」に縛られるのか?
亀松太郎 記者/編集者 9/10(日) 

ジャニーズ事務所の性加害問題をめぐり、藤島ジュリー景子前社長らが9月7日、記者会見を開いた。
4時間に及んだ会見。藤島前社長や東山紀之新社長らは被害者たちへ謝罪し、反省する姿勢を示したが、その中で出てきた「空気」という言葉が気になった。
ジャニーズのタレントやメディアを支配し、被害の拡大を招いた「空気」とはいったい何なのか。

噂に触れてはいけない「空気」があった
「空気」という言葉を口にしたのは、ジャニーズアイランド社長の井ノ原快彦氏だ。
ジャニー喜多川氏の性加害について認識したのはいつごろか? そんな質問に対して、井ノ原氏は、小学校6年生ごろにジャニーズ事務所に入ったときに、そういう噂を聞いていたとしつつ、「被害に遭われた方が、相談に乗ってくるとか、そういうことができない空気はあったと思います」と振り返った。

「小学生とか中学生の自分たちが『それ、ちょっとおかしいんじゃないか』『噂、、、聞いたぞ』というようなことが言えなかったのは、本当に今となっては後悔していますが、言い訳になるかもしれませんけれども、なんだか得体の知れない、それには触れてはいけない空気というのはありました」(井ノ原氏)

ものを言えない「空気」で何もできなかった
また、藤島前社長も、叔父であるジャニー喜多川氏の性加害を知らなかったというのは信じられない、という指摘に対して「空気」という言葉を使った。
ジャニー氏の姉であり、事務所の副社長だったメリー喜多川氏を母にもつ藤島前社長は、ジャニー氏の性加害問題に関する暴露本や雑誌の存在は知っていたが、その内容が真実なのか確かめようとしなかったと釈明。
事務所の実権を握っていたジャニー氏とメリー氏に対して、自分の意見を表明することができなかったと説明した。

「その2人に、私が親族であっても、ものを申せなかったという空気が弊社の本当にいびつなところだったと思いますし、それを親族だからこそもっとなにかできることがあったのではないかというのは、もちろん反省しておりますが、当時は何もできなかったです」(藤島氏)

ジャニーズ事務所の中の「空気」が所属タレントや関係者を支配し、ジャニー氏の性加害問題を追及させない状況を作り出していたと言える。

戦後80年たっても「空気」に押し流されている
ジャニーズ事務所の記者会見を論評する討論番組の中でも「空気」という言葉は登場した。
会見後に放送されたネット番組「ABEMA Prime」で、ジャーナリストの佐々木俊尚さんは、今回の性加害問題はジャニー喜多川氏の責任であると同時に、それを許してきた社会の「空気」にも注目する必要があると述べた。
佐々木さんは、評論家の山本七平が書いた著名な書籍『「空気」の研究』に言及しながら、その内容を紹介した。
「日本が太平洋戦争に突っ込んでたのも空気に圧力だったと。
御前会議をやって、戦争やりましょうという話になって、みんな内心では『これは無理だよね、アメリカ相手に戦争なんて』と思ってたんだけど、結局、誰も言えない。
空気に押し流されて。家に帰ってから、将軍が奥さんに『いやぁ、俺はダメだと思うんだよね』とボソッとこぼすみたいな。でも、会議の上ではそういったことを言わない。
そういう空気の圧力があったという話をしている」

佐々木さんは「戦後80年たっても、いまだに同じようなことをやっている」と指摘。
そのような空気に対して、メディアが抵抗するどころか、むしろジャニーズ事務所の意向を忖度して、空気を助長する側に回っていたと批判した。

「空気」とは、我々が抵抗できない「何か」
佐々木さんが紹介した山本七平の『「空気」の研究』は、1977年に発表された。
40年以上前の書物だが、いまも読み継がれている。
そこにつづられているのは、次のような言葉だ。

<「空気」とはまことに大きな絶対権をもった妖怪である。一種の「超能力」かも知れない>
<もし日本が、再び破滅へと突入していくなら、それを突入させていくものは戦艦大和の場合の如く「空気」であり、破滅の後にもし名目的責任者がその理由を問われたら、同じように「あのときは、ああせざるを得なかった」と答えるであろうと思う>
<「空気」とは何であろうか。それは非常に強固でほぼ絶対的な支配力をもつ「判断の基準」であり、それに抵抗する者を異端として、「抗空気罪」で社会的に葬るほどの力をもつ超能力であることは明らかである>
<「空気」とは、一つの宗教的絶対性をもち、われわれがそれに抵抗できない何か≠セということになる。もちろん宗教的絶対性は、大いに活用もできるし悪用できる>

山本は、日本社会を支配する「空気」について、このように述べながら、西洋文明との対比を通じて、その発生原理や対処法を明らかにしようと努めている。
今回のジャニーズ問題は、日本人の行動をいまだに支配している「空気」について、改めて考える良い機会といえるのではないか。

ABEMAの番組の中で、佐々木さんは「この空気の圧力をどうやって破壊するか」が課題だと指摘した。
その上で、メディアが信頼を取り戻すためには、「なぜ我々が報じなかったかということを、洗いざらい明るみに出すしかないのではないか」と述べている。
posted by 小だぬき at 05:25 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

総理大臣も防衛大臣もその存在を知らない…元自衛隊幹部でも恐れる闇組織「別班」最大のタブー

総理大臣も防衛大臣もその存在を知らない…元自衛隊幹部でも恐れる闇組織「別班」最大のタブー
2023年09月10日 PRESIDENT Online

冷戦時に海外で諜報活動をするため米軍の発案で作られたという自衛隊の“影の軍隊”「別班」。
その実態は謎に包まれていた。
石井暁共同通信編集局編集委員は「取材を続けるうちに、別班が今も存在しているという感触を得たが、記事を出すには自衛隊関係者の証言が必要だった。
2011年、思い切って旧知の陸上幕僚長経験者に質問を投げた」という――。
※本稿は、石井暁『自衛隊の闇組織 秘密情報部隊「別班」の正体』(講談社現代新書)の一部を再編集したものです。

■防衛大臣すら知らない存在を誰に証言してもらえるのか
現在に至るまで、陸上自衛隊が独断で、別班に海外での情報収集活動をさせてきたことについては、取材を通じて徐々に確信を深めていった。
考えたのが、証言だ。
防衛省・自衛隊の高級幹部たちに別班の存在と海外情報活動について認めてもらい、さらに具体的に話してもらう。
OBでもやむを得ないが、できれば現役幹部がいい。
欲を言えば、匿名ではなく実名での証言が望ましい。
さらに、証言者の地位は高ければ高いほどいいし、証言者は単数より、複数(それもできるだけ多数)が望ましい……。
では、具体的にどのポストをターゲットに取材をしていけばいいのか。
防衛省・自衛隊の長である防衛大臣(旧防衛庁長官)については、取材の結果、関係者が一致して「内閣総理大臣、防衛大臣は別班の存在さえもまったく知らない」と証言しており、当初から対象外だった。

■取材拒否が続いた後、陸上幕僚長経験者に切り込んだ
自衛隊幹部、OBらの相次ぐ門前払い、取材拒否に喘ぎながら、なんとかたどり着いたのが、陸上幕僚長経験者だった。
旧知の間柄でもあるこの陸上幕僚長経験者とは、何度も酒席をともにし、一緒にカラオケを歌ったこともあった。
しかし、会うのはいつも呑み屋。冗談以外の会話を交わした記憶がない。
真面目な取材を申し入れること自体、違うような気がして、これまでなんとなく敬遠していた。

2011年7月16日午後9時、室内の灯りがついていることを確認してから、初めてこの陸上幕僚長経験者(以下、Bとする)の自宅のチャイムを鳴らした。
東京都内の閑静な高級住宅地。
はたして、チャイムの音に反応して玄関を開けて出てきたのは、B本人だった。
「石井さん、どうしたの」 部屋着姿でリラックスしていたBは、いつもとは違うこちらの様子に怪訝な表情を見せた。

緊張を隠すため、笑顔で「今日は、珍しく真面目な取材をさせてもらいに来ました」と努めて明るく言うと、「まあ、お上がりなさい」と応接間へ通してくれた。
Bも緊張をほぐすためか、ご家族に缶ビールを持ってこさせ、「暑い。暑い。1杯ならいいでしょう」と言ってコップに注いでくれた。

■実在を把握したら、万が一の時に責任を問われてしまう
形だけの乾杯のあと、ビールを一口含んだところで「別班についてうかがいたい」といきなり切り込んだ。
いつものようにBとだらだら呑み始めたら、肝心のことが聞けなくなる、と焦ったからだ。
すると、Bはそれまでとは違った厳しい口調になり、「もう、別班はないんじゃないか」と曖昧な表現で否定。
続けて「別班だけじゃないでしょう。あの組織はいろいろ名前を変えているので……」と逃げを打とうとしてくる。
そこですかさず、「そうですね。DIT、MIST、別班、特別勤務班、ムサシとたくさん通称名を持っていますね」と相槌を打つと、「俺よりよく知っているな。あそこは何回も組織改革をしているので、現状はどうなのか詳しくは知らない」とようやく別班の存在そのものについては、率直に認めた。

Bはまさに竹を割ったような、真っ直ぐな性格の“軍人らしい軍人”。差しで眼を合わせ、真剣なやり取りをしている中で、嘘をつくことなどできないことは、わかりきっていた。
その後は、覚悟を決めたのか、別班の海外拠点、海外での情報収集活動について、率直に話してくれた。
「陸上幕僚長に就任前も就任後も詳しく聞いた事はなかったし、聞かないほうがよかった。
万が一の事態が発生した時、聞いていたら責任を問われてしまう」
まさに“驚くべき本音”だが、さらに畳みかけるように、陸上幕僚長がどんな責任を問われるのかと尋ねてみた。

■別班は自衛官の身分を離れ海外で諜報活動をしている
「もっとも(別班の)彼らは自衛官の身分を離れているので、陸上幕僚長の指揮下ではないので問題はない。
万が一のことがあっても大丈夫にしてある」
陸上自衛官の身分を離れる方法については、「詳しくは知らない。知らないほうがいい」と明かした。
別班の収集した海外情報をどう評価するのか、との問いには、「陸上幕僚長は毎日、戦略、戦術情報の報告を受けている。
どの情報が別班が収集したものか、駐在武官が収集したものか、情報本部電波部が収集したものかわからないが、そのチーム(別班)の情報も有用と考えていた」と事実上、別班の海外情報収集活動を認めた。 そこで、陸上自衛官が身分を離れて海外で活動することの危険性について質問すると、こう言い切った。

「別に強制されてやっているのではない。俺はオペレーション(運用=作戦)一筋の人間だから本当のことはわからないと思うが、情報職種の人なりのやりがいがあるのだろう。
そうでなくては、危険な任務はできない。
われわれは軍人だから、危険な任務は日常だ」

■別班を指揮しているのは政府や外務省、もしくは…
話題を少し軟らかくするために「別班の本部に行ったことはあるか」と尋ねると、「ないない。(本部は)何回も移転しているからなあ」と笑いながら話したが、一方で「石井さんもいろいろ面白い記事を書いているけど、情報が出ると、情報の出所はけっこうわかってしまうよ」とブラフめいたことも口にした。
別班が陸上幕僚長の指揮下でないなら、いったい誰が指揮していたのか。
運用支援・情報部長か、それとも、その下の情報課長、地域情報班長なのか。

「そうじゃないんだ。もっと違うもの。
政府とか内調(内閣情報調査室)とか外務省とか……」 なんとも中途半端な回答だった。
時間も相当経過していたため、残念なことに最終的にこの場では詰め切れなかった。
だが、Bが最後に継ぎたかった言葉は、「米軍」ではなかったか――私はそう想像した。

何しろ別班は、米軍が自衛隊の情報工作員を養成する目的で始まった、軍事情報特別訓練(MIST)を母体に創設された秘密組織だ。
1975年、日本共産党は別班長の内島が週5日、米軍キャンプ座間に通勤していることを確認している。
その誕生から、米軍が別班を育成してきたとも言えるのだ。
未だにその関係が継続していても不思議ではない。
この日の取材で、いくつか残った疑問については、再度取材させてもらえばいい、と軽く考えていたが、現時点に至るまで再取材の機会はやってきていない。

■「特定秘密保護法案の通過前に」とタイムリミットに焦る
そしてついに、別班取材の成否を決する日がやってきた。
2013年4月16日の衆議院予算委員会で、安倍晋三首相は情報漏洩を防ぐため、罰則規定を盛り込む「特定秘密保全法」の整備に意欲を示し、「法案を速やかに取りまとめ、国会提出できるように努力したい」と述べていた。
加えて、政府は日本版NSC(国家安全保障会議)設置に向け、国の機密情報を流出させた国家公務員への罰則強化を盛り込んだ特定秘密保護法案を秋の臨時国会に提出する方向で調整に入ろうとしていた。
法案成立への流れは急速に激しさを増している。もう余裕はない――。

同年7月16日、情報本部長経験者のFと対峙(たいじ)した。
以前、別班について糺(ただ)した時には、別班が現在も存在することだけでなく、別班、現地情報隊と特殊作戦群の一体運用構想についても認めていたが、肝心の別班の海外展開については回答を得られなかった。
そのリベンジを果たすべく、意気込んで取材に臨んだ。

■かつては旧ソ連、韓国、中国の3カ所に拠点があった
決心を固め、真正面から「すいぶん前にもうかがったが、例の別班の海外展開先はどこなのか」と切り込むと、さまざまな話を持ち出して迂回(うかい)しながらも、最終的には海外展開を認め、歴史的経緯と変遷にも言及した。
「かつては旧ソ連、韓国、中国の3カ所だった。
冷戦終結後はロシアの重要性が著しく低下して、韓国、中国が中心になった時期もあった。
現在の最新の拠点については詳しくは知らない」

また、海外での具体的な任務については、「別班員が海外でやっている仕事はいわゆる、ケースオフィサー(工作管理官)だ」と話してくれた。
決定的証言だ――心の中のガッツポーズを見破られないように、冷静に受け止めたそぶりをした。
そして、少し間を置いて「失礼します」と告げるとトイレに駆け込み、メモ帳を広げてボールペンでキーワードを走り書きした。
決して上品な行為とは言えないが、この日は不自然なほどトイレに立っては、走り書きを繰り返した。6
Fからは怪しまれていたに違いない。
何しろ、防衛省・自衛隊の情報収集・分析機関のトップを経験したほどの男だ。
私がトイレに行った回数や時間を冷静にカウントしていても不思議ではない。
しかし、そんなことに構ってはいられない。まさに必死だった。

「別班の海外情報は防衛省内でどう扱われるのか」
こう問いかけると、Fは詳細を明かしてくれた。
「別班長から、地域情報班長、運用支援・情報部長、陸上幕僚長の順に回す。
陸上幕僚副長と情報課長には回さない。
万が一の時(副長と課長が)責任を免れるためだ」
まったくの初耳で、まさに当事者しか知り得ない具体的な証言だった。

■海外で暗躍する別班員の身分もわかり、決定的な証言を得た
収穫はほかにもあった。
非公然情報組織の別班の存在についての認識を求めると、率直に告白してくれた。
「運悪く新聞に書かれたら、自衛隊を辞めるしかないと覚悟していた」

さらにシビリアンコントロールの問題で、首相、防衛相(旧防衛庁長官)の関与についてただしたところ、
「(歴代の)総理も防衛大臣(旧防衛庁長官)も存在さえ知らされていない」と断言。
海外展開する別班員の身分についても、裏の事情まで教えてくれた。
「海外要員は自衛官の籍を外し、外務省、公安調査庁、内調(内閣情報調査室)など他省庁の職員にして行かせる。
万が一のことがあっても、公務員として補償するためだ」

「陸幕(陸上幕僚監部)人事部に別班担当者が一人いて、別班員の人事管理を代々秘密裏に引き継いでやっている」
もう十分だろう――取材はこれ以上ないほどの成果を上げることができた。

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石井 暁(いしい・ぎょう)
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする