大沢たかお、日本のタブーに触れる衝撃の漫画『沈黙の艦隊』実写化にかける思いを明かす
2023.9.28 現代ビジネス
かつて、そのテーマ性の高さと世界規模の予測不可能なストーリー展開によって、社会現象となった漫画があった。
1988年から1996年まで『モーニング』で連載されていた、かわぐちかいじ氏の『沈黙の艦隊』である。
本作が今秋、30年以上の時を経て、満を持して実写化される。
物語の舞台は、限りなく現実に近い架空の現実世界。
日本近海で海上自衛隊の潜水艦がアメリカの原子力潜水艦(原潜)に衝突し、沈没。乗組員全員死亡という衝撃のニュースが日本中に流れたが、事故は日米両政府による偽造工作であった。
日米政府の真の目的は極秘に建造した高性能原潜〈シーバット〉に、海上自衛隊員たちを秘密裏に乗務させること。
その艦長を任されたのが海自一の操艦を誇る海江田四郎である。
だが、日米両政府の期待とはうらはらに、海江田はシーバットに核ミサイルを積載し、突如反乱逃亡を開始。
自身を国家元首とする独立戦闘国家「やまと」の建国を全世界に宣言する――やまとを核テロリスト認定し撃沈を図るアメリカ、海自ディーゼル艦〈たつなみ〉を用いてアメリカよりも先に「やまと」を捕獲しようと追いかける日本政府。
その両者のあいだを複雑にすり抜けて目的遂行へと動く「やまと」。
三者の思惑が複雑に絡み合っていく。
緻密な潜水艦のセット その圧倒的スケールから、長きにわたり“実写化不可能”と目されていた『沈黙の艦隊』。
作者であるかわぐちかいじ氏も撮影現場へ見学に訪れたという。
主人公・海江田を演じ、本作のプロデューサーも務める大沢たかお氏は語る。
「かわぐち先生は潜水艦内部のセットがどのような仕上がりになるのか、とても気にかけておられました。
大がかりなセットになるため、丁寧につくることができるのか、ご不安があったのだろうと思います。
けれども、実際にセットを見にいらして、すごく喜んでくださり、安心していただけたのかな、と思いました。
その際に、かわぐち先生の話を聞いて驚いたのが、かわぐち先生は『沈黙の艦隊』を描くにあたって防衛省や海上自衛隊の人に話を聞いたり潜水艦の現物を見に行ったり、そうしたリサーチをほとんどしていないそうなんです。
公開されている書類や写真を見ながら、それだけであの壮大で緻密なストーリーを考えておられたと知り、衝撃を受けましたね……」
上の世代の決定に振り回されるのを嫌悪した
30年以上の時を経て実写化されることで、連載当時には生まれていなかった世代も本作に多く触れることになる。
そんな世代と、主人公である海江田を、大沢氏は重ね合わせる。
「今世界では問題が頻発していて、その問題が大きくなったときに影響を一番受けるのは今の若い世代です。
そういう意味では、そうやって上の世代の決定に振り回されることをもっとも嫌悪したのがこの主人公なんです。
大人から見ると『なんだ、こいつ。おかしいな』と思っても、若い子からすると『もっとやれ!』と思うかもしれない。
海江田は現状を悪くしようと思って突飛な行動を起こしているわけではなくて、自身の使命感からイチかバチかの勝負に出ている。
それは意外と若い世代のほうが、すんなりと受け入れられちゃうのかもしれない」
核や戦争について考えるきっかけに
実写化にあたっては「いま、このテーマだ」という直感のようなものもあった、と話す大沢氏。
昨今の揺らぐ世界情勢とも不思議と重なり合う本作が、社会に投げかけるテーマとはどのようなものなのだろうか。
「核に対して、戦争に対しては、制作チームのなかでもいろいろな考え方がある気がしていて、それは全部バラバラで然るべきです。
ただ、世の中がマイナスになればいいとは思っていないはずだし、次世代の子どもたちがより良い暮らしになることを願っているはずで、それは制作チームのみならず、世界中みんなに共通していることだと思います。
それでもずっと戦争は無くならなくて、そのことをみんなどこかで疑問には思っているんですよね。
でも、自分の生活に追われるなかで、なんとなく見て見ぬふりをしてしまう。
映画は楽しいものなので感想は『かっこいい』とか『すごい』とか何でも良いと思っています。
あくまでエンターテインメントの枠組みのなかで『そのような疑問を突き詰めて、現実を直視した主人公がいた』ということを伝える。
核や戦争について考えるきっかけになる作品になることを願っています。」
やまとは戦闘中にモーツァルトの交響曲を大音量で海中に響かせる。激しい戦闘バトルと優雅なクラシック音楽と言う鮮やかな対比も本作の魅力のうちのひとつである。
五感を包まれるような映画の悦楽のなかに、私たちが向き合わなければならない現実の問題が潜んでいる。
本作は9月29日(金)より、全国の映画館で公開される。