2023年11月09日

なぜ物忘れが酷くなる? 医師が語る「記憶力が低下する」真の原因

なぜ物忘れが酷くなる? 医師が語る「記憶力が低下する」真の原因
11/8(水)  PHPオンライン衆知(THE21)

加齢とともに発想の柔軟性や記憶力の衰えを感じている人が多いだろう。
しかし、実は脳の最盛期は40代後半から50代。さらに60代以降も、使い方次第で成長を続けるのが本来の姿だ。
一方で、「いつまでも古い考え方や価値観にしがみついていると、脳はどんどん老化していく」と、脳内科医の加藤俊徳氏は指摘する。
「老化知らずの脳」を手に入れるコツをうかがった。(取材・構成:塚田有香)
※本稿は、『THE21』2023年12月号特別企画『50歳を過ぎても若々しい人、一気に老け込む人』より、内容を一部抜粋・再編集したものです

脳の働きのカギを握る8つの「脳番地」
どのような「脳の使い方」が大人の脳を成長させるのか。
それを理解するには、脳の仕組みを知ることが必要です。
脳には1000億個を超える神経細胞が存在し、同じような働きをする細胞同士が集団を形成しています。
そしてこの集団は、自分たちの得意分野ごとに脳内に拠点を作っています。
私はこれを「脳番地」と名づけました。
脳全体では120の脳番地が存在しますが、中でも重要なのが次の8つです。

@思考系脳番地…思考・意欲・想像力などを司り、何かを考えるときに働く
A伝達系脳番地…コミュニケーションを通じて意思疎通を行なう
B感情系脳番地…喜怒哀楽を感じ、表現する
C運動系脳番地…身体を動かすこと全般に関わる
D視覚系脳番地…目で見たことを脳に集積させる
E理解系脳番地…目や耳から入ってきた情報を理解する。あるいはわからないことを推測して理解しようとする
F聴覚系脳番地…耳で聞いたことを脳に集積させる
G記憶系脳番地…情報を蓄積させ、使いこなす。海馬の周囲に位置し、ものを覚えたり、思い出したりするときに働く

この8つの脳番地の連携を強化し、使いこなすことで、"脳力"をどんどん高めていけます。
例えば「最近もの覚えが悪くなった」と感じた場合、「だったら記憶系脳番地を鍛えればいいのか」と思うかもしれません。 しかし、大人の記憶系脳番地は、単独ではなかなか働きません。
思考系や理解系が何かを考えたり、決断しようとしたときに、過去の記憶を取り出して情報提供するのが記憶系の役目です。 だから思考系や理解系がしっかり働き、「考えるために過去の経験と比較検討したいから、必要な記憶を探してきて」と頼まないと、記憶系の出番は減ってどんどん怠け始めます。
すると私たちは「記憶力が落ちた」という錯覚に陥るのです。

使う脳番地が偏ると頭が固くなってしまう
この例に代表されるように、8つの脳番地はお互いに影響を与え合っています。
思考系はいわば脳番地のリーダーで、各脳番地に指示を出して仕事をさせます。
理解系は聴覚系や視覚系、記憶系から入ってくる情報を把握し、思考系と相談して情報を取捨選択し、必要なものを記憶系に渡します。
感情系は思考系と相関関係にあり、感情がたかぶれば思考は目まぐるしくなり、感情を抑えれば冷静な思考ができます。
また記憶系とも密接な関係があり、喜怒哀楽の感情が動く出来事があると、海馬はそれを重要な情報だと判断し、長期記憶として保管します。
伝達系はインプット機能を持つ理解系や記憶系、聴覚系と密な連携ルートを形成し、集まった情報をアウトプットする役割を果たします。
インプットする情報を集めるには、運動系を働かせて行動しなければいけませんし、行動を起こせば視覚系と聴覚系も働き出します。
そして運動系・視覚系・聴覚系が得た情報は、思考系・理解系・記憶系へ渡され、それをもとにまた考えたり、決断したり、記憶を保存したりするわけです。

こうして神経細胞同士が連携し、チームワークを発揮することで、脳力はどんどんアップします。
よって8つの脳番地がそれぞれの役割を十分に果たせる環境を作ることが、脳を成長させて若々しさを保つための重要なポイント。
一部の脳番地だけをオーバーワークさせたり、逆に怠けさせたりすると、連携がうまくいかず本来の脳力を発揮できません。

ところが実際は、社会人経験が長くなるほど使う脳番地が固定されていきます。
営業職は伝達系、研究職は理解系、秘書は記憶系といったように、職業ごとに仕事でよく使う脳番地が決まってくるからです。
40代や50代になると、経験を積んでスペシャリストとして評価される反面、自分の仕事と関係ない情報には興味を示さなくなったり、柔軟な発想ができなくなったりします。
これは脳番地の働きが偏っている証拠。

頭が固くなり、新しいものや自分とは異なる考え方を受け入れなくなったら、それこそが老化の始まりです。
よって50代以降も若々しくいたければ、仕事で使う機会が少ない脳番地を意識的に働かせることが重要です。

「経験のないこと」が理解系を鍛えてくれる
中でも老け込みやすいのが、理解系脳番地です。
年齢を重ねると、自分の経験の範囲内だけで物事を理解しようとする人が増えます。
聴覚系や視覚系から新しい情報がもたらされても理解しようとせず、自ら理解の範囲を狭めてしまうのです。
もし皆さんが、よく考えもせずに「これはこうだ!」と決めつけたり、「社長が言うことなら正しいだろう」と鵜呑みにする傾向があるなら、理解系が老化している可能性大です。

「若い人とコミュニケーションして、新しい情報を教えてもらう」という行為は、理解系を働かせる習慣としても非常に有意義です。
過去の経験や世間の常識といったバイアスを取り払い、新鮮な情報をそのまま受け取ることで、凝り固まった理解系脳番地が解きほぐされます。

新しい情報に触れる方法は他にもあります。
行ったことのない場所へ行く、食べたことのないものを食べる、聴いたことのない音楽を聴く。こうして絶えず新しい情報を脳に取り入れることで、理解系が刺激されます。
特に毎日が自宅と会社の往復で、日常生活がルーティン化している人は要注意。
いつもとは違う通勤ルートを使う、電車の乗車位置を変える、初めての店でランチを食べるなど、ちょっとしたことでいいので「経験のないことをしよう」と意識することが大切です。

理解系を鍛えるには、デッドラインを決めるのも有効な方法です。
「15分間で企画書のタイトルを考える」「外出前の5分間でカバンの中身を整理する」といったように、期限を決めてから物事に取り掛かる習慣をつけると、限られた時間内で「現状」と「これからすべきこと」を瞬時に理解する力が養われます。

「ほら、アレ」が増えたら思考系を働かせる習慣を
思考系が老化した場合も、様々なサインが現れます。
決断が遅くなったり、新しいアイデアが出なくなったり、複数のことを同時にこなせなくなったりしたら、思考系の働きが弱っている可能性が高いでしょう。
また思考系は記憶系とつながりが深く、思考系がうまく働くと言語に関する知識をスムーズに出し入れできます。
人の名前をすぐに思い出せなかったり、「ほら、アレだよアレ」としか言葉が出ない場面が増えたら、加齢が原因ではなく思考系が怠けている証拠です。

思考系を働かせるには、朝起きたら今日の目標を20字以内で表現する習慣をつけるといいでしょう。
1日の予定をシミュレーションすることで思考系が活性化し、字数を制限することで端的な表現に適した言葉を引き出す訓練になります。
同僚や部下、家族など、身近な人の長所を3つ挙げるトレーニングも効果的です。
その人物を多面的に捉えたり、人となりについて深く考えたりすることで、思考が動き出します。

一方、記憶系を働かせるには、感情系や伝達系と連動させるのがコツです。
記憶系の中枢を担う海馬は、感情が大きく動く出来事があるとその情報を長期記憶として保管するため、記憶が定着しやすくなります。
特にワクワクするようなポジティブな感情を浴びると、海馬からシータ波と呼ばれる脳波が出て、記憶系はより活発に働きます。
よって仕事や学習で覚えたいことがあれば、楽しく前向きな感情で取り組むことが大事。
お気に入りのカフェで大好きなコーヒーを飲みながら資料を読んだり、「この資格試験に合格したら海外を旅行しよう」と自分へのご褒美を用意するなどして、ワクワク感を高めましょう。

またアウトプットするつもりでインプットすると、記憶系の働きはさらに強化されます。
脳には、一度取り込んだ情報を思い起こそうとしたときにより強く記憶される「出力強化性」が備わっているためです。
例えば本を読むときも、「誰かに内容を伝えるとしたらどう説明するか」「要点を3つ挙げるとしたら何か」などを考えながらインプットし、実際に人に話したり、ノートにまとめたり、SNSで発信したりするといいでしょう。
アウトプットの際に働く伝達系と連動させることが、記憶系を活性化させるカギです。

加藤俊徳
(脳内科医/医学博士/加藤プラチナクリニック院長)
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする