タモリさんの予言した流行語 「新しい戦前」を「戦中」にしてはいけない(ラサール石井)
11/9(木) 日刊ゲンダイ
【ラサール石井 東憤西笑】#179
今年も流行語大賞のノミネートが発表された。
並み居る流行語の中に、ひっそりとたたずむ「新しい戦前」を見つけた。
ご存じタモリさんが徹子の部屋で発した言葉、去年の暮れに「来年はどんな年になるかしら」と問われた答え。
はやっては廃れる流行語の仲間に加えるにはもったいない、今の時代を映した普遍の表現だ。
あれから1年、まさにタモリさんの予言通り、時代はますます「新しい戦前」の様相を呈している。
ウクライナ、そしてガザでは市民を巻き込む悲惨な戦闘が行われ、日本の政治家は、次は台湾有事で血を流す覚悟をしろと訴える。
マイナンバーカードにはあらゆるものが紐付けされる。
それは戦前に医療や建設など特定の労働者を把握する目的の「職業能力申告手帳」が作られ、戦争に備えて必要な人材を必要な時に連れて行ける「国民徴用令」が施行され、さらに拡大して「国民労務手帳」となったのに酷似している。
「徴兵制」につながる流れだ。
東京新聞に今年93歳で、毎月3日に国会前に立ち続けるノンフィクション作家、澤地久枝さんの記事が出た。
澤地さんは終戦当時、満州で14歳。ゴリゴリの軍国少女だったが、ソ連軍の侵攻で関東軍は住民を置いて逃げてしまい、ソ連兵にレイプされかけるなどしながら命からがら帰国。
それから自分を反省し、一貫して反戦を訴えてきた。
大江健三郎氏らと始めた「九条の会」も今は澤地さんだけになった。
2015年から毎月3日には雨の日も風の日も、要介護4の体をおして国会前に立ち続ける。
澤地さんには、「戦死という『異形の死』を日本に繰り返させてはならない」という強い願いがある。
「戦死はほかの死とは違う。権力者の命令に従って戦場へ送り込まれ、自分では何も選べないまま殺されてしまうの」と言う。
ミッドウェー海戦での日米の全戦没者3418人の細かい資料を調べ上げた。
アメリカの遺族も積極的に協力してくれた。
夫をミッドウェー海戦で亡くし、遺児の息子をベトナム戦争で亡くした女性がいた。
「これこそが日米の戦後の違いですよ。戦後の日本に戦死者がいないのは、憲法9条があって、再び戦争をさせない歯止めになってきたからです」
日本でもアメリカでも「お国のために戦死してよかった、と言った遺族は一人もいなかったもの。
戦死しては駄目なんです」
今はイスラエルの侵攻にも反対する。
国会前には毎月3日に200人ほどの人が集まる
英国、フランス、ドイツ、インドネシアでは、街を埋め尽くすほどの人々がデモをしているのに。日本人には「お上には逆らえねえ」根性が染み付いているのか。
澤地さんに若者たちが続かねば。いざ「戦前」が「戦中」になってしまってからではもう手遅れだ。
(ラサール石井/タレント)