2023年12月25日

日本人は「国民負担」の増加にもっと怒っていい、税収増加で財政規律が弛緩している

日本人は「国民負担」の増加にもっと怒っていい、税収増加で財政規律が弛緩している
12/24(日) 東洋経済オンライン

税収の増加が顕著だ。
最近はインフレによる効果が強い。
この結果、財政規律が弛緩し、必要性の疑わしい施策が行われている。
本来は、将来の高齢化社会に備えた財政運営が不可欠だ。
昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。
野口悠紀雄氏による連載第110回。

■数年間の税収の増加が顕著
 2024年度の税制改正では、所得税の減税が行われる。
これは、妥当性について多くの疑念が提起された政策だ。
それにもかかわらず減税が行われるのは、この数年間の税収の増加が顕著という背景があるからだろう。

 財務省の資料(税収に関する資料、一般会計税収の推移)によれば、2023年度の一般会計税収額(補正後予算額)は69.6兆円だ(注1)。
2022年度、2021年度(決算額)は、71.1兆円と67.0兆円であり、それまで数年間には50兆円台、多くても60.8兆円(2020年度)であったのに比べると、大きく増加している。

 一般会計税収のこれまでの推移を見ると、1990年度から2005年度ごろまでは増減を繰り返していたが、全体として減少気味だった。
 ところが、2009年度に38.7兆円のボトムとなり、その後は増加に転じた。
2014年度には消費税の増税が行われ、税収が一挙に増えた。
2016年度以降は、消費税に加え、所得税、法人税も順調に伸びた。
これは、この当時の経済が、順調に成長していたからだ。
 2019年度には、所得税収や法人税収も落ち込んだ。
しかし、2020年度には、税収は増加に転じている。
そして、その後、冒頭で述べたような顕著な税収増となったのだ。
 2021年後半からは物価が上昇したので、この影響と思われる。
所得税は累進税率になっているので、名目所得が増えれば、名目成長率以上に税収が増える。
消費税は比例税だが、名目消費額が増大したため、税収が増加したと考えられる。

■国民負担率が5割近くに上昇
 この結果、国民負担率が上昇している。
ここで、国民負担率とは、国税や地方税の租税負担と年金や健康保険の保険料などの社会保障負担の合計を、国民所得で割った数字だ。
 財務省の資料によると、財務省の国民負担率の推移によると、昭和50年度の国民負担率は25.7%だった。
その後上昇して平成2年度には38.4%になった。
その後若干低下したが、平成21年頃からは増加の一途をたどっている。
そして、2023年度の国民負担率は46.8%になる見通しだ。

 国民負担率が上昇する主要な原因は、これまでは、社会保障負担の増加だった。
国民負担率と社会保障制度が密接に関連していることは、国際比較からも確かめられる。
 財務省の資料によると、2020年度の国民負担率は次のとおりだ(財務省、国民負担率の国際比較(OECD加盟36カ国))。 ・アメリカ 32.3% ・イギリス 46.0% ・ドイツ 54.0% ・フランス 69.9% ・スウェーデン 54.5%  日本の数字は、ヨーロッパ諸国と比べれば低いが、アメリカよりは大分高い。

 アメリカの国民負担率が低い大きな原因は、公的な医療保険制度がなく、医療保険は民間のものだけであることだ。
したがって、国民負担率が低い半面で、医療費の自己負担が高額だ。
 その半面で、スウェーデンとフィンランドの国民負担率はかなり高くなっている。
それは、福祉サービスが充実していることの反映だ。

 日本の場合にも、国民負担率が上がったのは、社会保障費の影響が大きい。
今後、高齢化社会はさらに進行する。
2025年には団塊世代が75歳以上となり、高齢化率はますます高まる。
高齢者を支える現役世代の人口が減少するため、増税や社会保険料の値上げが必要になるだろう。
これは、先のような自然増ではとても賄えない。

 以上のように困難な状況が将来に予想されるにもかかわらず、実際の予算では、バラマキが行われている。
国債を含めた潜在的国民負担率を財務省が計算している(財務省、国民負担率(対国民所得比)の推移)。
これでみると、2022年度は61.1%、2023年度は53.9%であり、日本はすでにヨーロッパ並みだ。
 このように、税収増にもかかわらず、国債を増やした。コロナが異常な事態であったために、異常な財政支出が容認されてしまった面がある。
しかし、定額給付金や雇用調整助成金の特例措置などが本当に必要だったのか、それがどのような効果をもたらしたかの検証が必要だ。

 2023年補正予算でも、必要性の疑わしいバラマキ的施策が行われている。
基金がいくつも設立されているが、これらは、税収が順調なうちに、とりあえず支出権を確保しようとする動きのようにも見える。
税収が増えているために、財政規律が弛緩している可能性がある。

■公平な税制確立の必要性
 必要なことは、支出の見直しだけではない。
税制の見直しも、不可欠の課題だ。
本来であれば、 インフレが生じたときに自動増税が生じないように、税率をどう調整すべきかが、考えられなければならない。
とくに所得税率は累進制なので、これが重要だ。

 所得税減税をするのであれば、それに先だって、この点に関して十分な検討が必要だった。
実際に行われる定額減税は、あまりに粗雑な考えに基づくものといわざるをえない。
 負担率が高まれば、公平の確保は極めて重要だ。

 現在の日本でとくに問題なのは、資産所得と 政治資金に対する課税だ。
いずれも、社会的な強者が、不当に優遇されている。
 いま、パーティー収入のキックバックが問題となっている。
この報道に接して、政治資金はなぜ非課税なのかと、多くの国民が怒りを抱いたに違いない。
こうした不公平な制度をそのままにして、負担だけが際限もなく増えていく社会は、絶対に阻止しなければならない。

 野口 悠紀雄 :一橋大学名誉教授
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする