無意識に信頼関係を損なっている「3つのNG行動」
あなたの部下はなぜ本音を話してくれないのか
田尻 望 : 株式会社カクシン 代表取締役 CEO
2024/03/09 東洋経済オンライン
「部下や顧客との間に壁がある気がする」と感じていませんか?
キーエンス出身のコンサルタントである田尻望氏は、「無意識に3つのNG行動をしている可能性があります」と言います。
同氏の著作『いつでも、どこでも、何度でも卓越した成果をあげる 再現性の塊』から一部抜粋・再構成のうえ、相手の真のニーズを聞き出すための方法をご紹介します。
信頼関係がなければ本音を話してもらえない
本稿では「相手のニーズを捉える(聞き出す)具体的な方法」について解説していきます。
相手のニーズを聞き出す前に、とても大切なことがあります。それは「相手にニーズを話してもらえるような状態」になってもらわなければならない、ということです。
ここで重要になってくるのが、相手との「信頼関係」です。
信頼関係があれば、相手はニーズを話してくれます。
逆に信頼関係ができていない状態で、「あなたのニーズは何ですか?」「あなたは、本当は何がしたい(欲しい)のですか?」と聞いても、相手は本当のニーズを正直に話してくれません。
正直にニーズを話してもらえないとき、そこにはある障壁が立ちはだかっています。
それは「ああ、この人にはあまり本音を話したくないな」という気持ちです。
私はそれを「感情の壁」と呼んでいます。
例えば部下に、「本当は将来どうしたいんだ?」と聞いたとき、はぐらかされてしまった経験はないでしょうか。
そういう態度をとられてしまうのは、「感情の壁」を越えられていないことが多いのです。
感情の壁が立ちはだかっている状態で、「あなたの本音を教えてください」と言っても、「いや、別にありません……」「それって、本当に言わなきゃいけないことですか?」と、相手は心の窓を閉ざしてしまうのです。
信頼関係を築くときに「やってはいけない」3つのこと
では、「感情の壁」を取り払い、信頼関係を築くにはどうしたらいいのでしょうか?
答えをお伝えする前に、「やってはいけないこと」から先に説明します。信頼関係を築くときに「やってはいけないこと」が3つあります。
1つ目は「正論を言う」ことです。
例えば次のようなパターンです。
上司: 「最近何だか浮かない顔しているけど、何か悩みでもあるのか? 正直に話してみろよ」
部下:「実は、今この問題に困っているんです」
上司:「そうか。その問題は、どう考えても〇〇のようにしたほうがよくないか? 普通に、合理的に考えると当然そうだろう。そう思わないか?」
上司がこのように答えるとどうなるでしょうか?
「感情の壁」がどんどん厚くなってしまうことが容易に想像できると思います。
相手との信頼関係を築きたいなら、最初に「正論」を言ってはダメなのです。
「やってはいけないこと」の2つ目は、「アドバイスする」ことです。
「〇〇したほうがいいよ」「その考え方はやめたほうがいいよ」などとアドバイスをすると、「私の話を聞いてほしいだけなのに……。この人は私のことをわかってくれないのか。本当のことを話すのはよそう」と「感情の壁」が厚くなり、ますますニーズを話してくれなくなります。
そして、相手との信頼関係を築くうえでやってはいけないことの3つ目は、「共鳴する」ことです。
共鳴とは次のようなものです。
部下:「この問題に悩んでいるんです」
上司:「そうか、私も昔同じようなことがあって、ずいぶん悩んだものさ。例えば〇〇のようなこととかね。あと、こんなこともあったな、例えば……(自分の経験談を語る)。だから、そんなに悩む必要はないよ」
このように、相手の悩みに対して「自分事」として捉えて話すパターンは、絶対にNGというわけではありませんが、ニーズを聞き出す対応としては不十分です。
相手が「そうですか。あなたもその体験をしたんですね。私のことをわかってくれるんですね」と思ってくれる場合もありますが、「別にそこまでの話じゃないんだけどな」「勝手に解釈しないでほしいな」というように、ネガティブに感じてしまう人もいるため、注意しなければなりません。
では、「正論」「アドバイス」はダメ、「共鳴」もダメ、となるとどうしたらいいのでしょうか?
「感情の壁」を取り払って相手のニーズを聞き出すために、何よりも最初にするべきことは、相手の感情に「共感する」ことです。
「共鳴」と「共感」、同じような意味に捉えられがちですが、微妙に違います。
どちらも「私もあなたと同じ状態になれば、同じように感じます」という気持ちを表すことですが、「共鳴」には「私も〇〇なんだよね〜」という、自分の意思や考え、解釈が含まれています。
「共鳴」ではなく「共感」が大切
一方で「共感」は、自分の考えは一切入れずに、ひたすら相手の気持ちになって(立場に立って)、「そうなんだ。わかるよ」と言ってあげることです。
相手の感情に「共感」する受け答えとは、次のようなものです。
部下:「今、仕事でこんなことに悩んでいるんですが」
上司:「そうか。会社の命令やお客様の要望、いろいろ聞かなきゃいけないのって大変だよね。○○さんの立場に立ったとしたら、その気持ちはよくわかるよ」
このように「共感」することで、2人の間に立ちはだかっている「感情の壁」が徐々に消えていくはずです。
感情の壁がなくなった、つまり「ああ、この人は私の気持ちを理解してくれている」と思ってもらえたあとで、「本当は将来どうしたいんだ?」という質問をすれば、部下は、「実は、私は将来こういうふうに生きていきたいと思っているんです」と本音を話してくれるでしょう。
「この人は私の感情を認めてくれる」「私の思いを受け止めて(受容して)くれる」と思ってもらえる状態、つまり、この「感情の壁」がなくなった状態こそが「信頼関係」が生まれていると言えるのです。
信頼関係が築けて初めて、相手の本当のニーズを聞き出せます。
「部下はなぜ本音を話してくれないのか?」と悩まれている上司はたくさんいらっしゃると思います。
部下の本音としては、「上司にこんなことを言ったら、怒られるか笑われるに違いない」と思っているのです。
日々の行動の中で、何かを相談したときに、共感ではなく、いつも正論や一方的なアドバイス、自分の経験談で返してくる。そんな人に対して部下が本音を話すはずがありません。
相手の本当のニーズを聞きたいなら、その人が話している言葉の裏側にある感情に対して、しっかりと共感を示さないといけません。
上司と部下の間だけでなく、お客様に対しても同じです。
お客様に、「御社の課題を教えていただけますか?」と聞いたときに、「いや、課題と言われても、とくに思い浮かぶことはないですね」と返ってくるのであれば、お客様との間に、しっかりとした信頼関係が築かれていないことを意味しています。
どのような会社であっても、絶対に何かしらの課題があります。
信頼が得られていないから、お客様は課題を言ってくれないのです。
ニーズを聞く前には、必ず強固な信頼関係を構築しなければいけない。これはニーズを捉えるうえでの必須条件だということを、ぜひ覚えておいてください。
相手の本音を聞き出す3つのプロセス
相手の「真のニーズ」、つまり「ニーズの裏のニーズ」をうまく聞き出すには、ある明確なプロセスを踏む必要があります。「共感」「関心」「質問」という3つの行動を繰り返し行うのです。
例えば、お客様とエステのトリートメントメニューについてヒアリングするとします。
もしお客様が、「リラックスできるトリートメントがいいんです」と言ったとしたら、まずその顕在ニーズを受け止め、「トリートメントって本当に気持ちいいですよね。リラックスできますし、私も大好きなんです」と「共感」することが大切です。
次が「関心」と「質問」です。
この過程で「ニーズの裏のニーズ」と、それが生じた「背景」を、次のような会話で聞き出します。
ちなみに、相手によってどちらが先に出てくるかはわかりません。
あなた:「○○さんが考える『リラックスできるトリートメント』って、具体的にはどのようなものをお望みですか?」(関心・質問)
お客様:「アロマの香りがして、ゆっくりとしたマッサージが受けられるのがいいですね」
質問に対する答えが返ってきたら、再び共感し、関心を示して質問をします。
あなた:「アロマの香りとゆったりとしたマッサージですね。とってもリラックスできると思います」(共感)
「ちなみに、今回、リラックスしたいというのは、どのような理由があるのでしょうか?」(関心・質問)
「ニーズの裏のニーズ」は「感動」と結びついているので、このような会話で、「リラックスしたい」というニーズが、どのような感動につながっているのかを探っていきます。
ここで単刀直入に、「なぜ(Why)?」という疑問文で聞きづらければ、「リラックスすることで、どのような気分になりたいんですか?」という聞き方をすると、「ニーズの裏のニーズ」が出てきやすくなります。
そう聞けば、お客様は次のように答えてくれるかもしれません。
お客様:「最近、仕事がとても忙しくて、人間関係も疲れて、ストレスが溜まっているんです。もう本当、心と体をリフレッシュしたいと思って」
この答えで、お客様が本当に叶えたい「ニーズの裏のニーズ」は、「仕事と人間関係のストレスからのリフレッシュ」だということがわかりました。
あなた:「ああ、そうだったんですね。お仕事のストレス、人間関係も大変ですよね。そのお気持ち、とってもよくわかります」(共感)
「少しでも心と体をリフレッシュさせるための最適なトリートメントと、施術をさせていただきますね」(関心)
また、「過去」の話を聞いていくことも、「ニーズの裏のニーズ」を捉える際のポイントです。
あなた:「もし差しつかえなければ、過去に受けたエステやマッサージの中で、とくに心地よかったものはありますか?」(質問)
このように「過去」の話を聞いていくと、「ニーズの裏のニーズ」の「背景」がより明確に見えてきます。
これがわかれば、過去の最高の体験を知ることができ、お客様が体験したことのないサービスを提供するためのヒントになります。
あなた:「施術が終わったあとは、すっきりとした感じや、ポカポカした感じなどさまざまなアロマで調整できるのですが、どんなリラックス状態になっていたいですか?」(質問)
「ニーズの裏のニーズ」をうまく聞き出すために
「過去」と同時に、時間軸を「現在」「サービス直後」に広げると、「ニーズの裏のニーズ」がさらに深く、広く探索できます。
このように、相手の「ニーズの裏のニーズ」をうまく聞き出すためには、「共感」「関心」「質問」を繰り返し行うことが大切です。
「共感」「関心」「質問」の3つを繰り返すことで、本当に叶えるべきお客様のニーズを、かなり細かく洗い出せるのです。