2024年03月28日

「キレる老人」にならない、“自律神経の老化”を防ぐ簡単な方法とは?

【名医が解説】「キレる老人」にならない、“自律神経の老化”を防ぐ簡単な方法とは?
小林弘幸:順天堂大学医学部教授、
        日本スポーツ協会公認スポーツドクター
2024.3.26 13:00 ダイヤモンドオンライン

若い店員の対応にイチャモンをつけたり、子どもの声がうるさいとどなったりと、昨今は「キレる老人」が話題にのぼる。
キレやすくなる原因は自律神経の老化だ。
そんな自律神経をいつまでも若く保ち、落ち着いた大人になるにはどうすればいいのか。
本稿は、小林弘幸著『老後をやめる 自律神経を整えて生涯現役』(朝日新書)を一部抜粋・編集したものです。

自律神経の乱れでキレやすくなる
キレる→さらに乱れるという悪循環
 若い店員に暴言を吐く、駅員に暴力をふるう、ベビーカーがじゃまだといって怒鳴りつける。
最近、こうした「キレる老人」の存在が取り沙汰されています。

 なぜ、年をとるとキレやすくなるのでしょうか。
ここにもまた、自律神経の老化が関係しています。

 自律神経が老化すると、ブレーキをかける副交感神経の働きが低下するので、ちょっとした刺激でも交感神経が興奮状態になります。
脳に十分な酸素と栄養が行き渡っていないため、感情のコントロールもうまくいきません。

 そのため、思わず大声を出したり、手を出したりすることになるのです。

 キレることで、自律神経はさらに乱れます。いったん乱れた自律神経は、しばらくもとには戻りません。
そのため、ますますキレやすくなる……。まさに、悪循環そのものです。

 もし、自分はそうなりたくないと思うなら、次のことを試してみてください。
 キレそうになったら、とにかく黙るのです。
そして、そのまましゃべらずに6秒間がまんすれば、衝動的にキレることはなくなります。
 なぜなら、どんなに頭に血が上っていても、怒りのピークは6秒間しか続かないからです。
 人は怒りを覚えると、体内からアドレナリンというホルモンが分泌されます。
心拍数や血圧を上げて、体を戦闘モードにするためです。このアドレナリンのピークが6秒と言われているのです。

 6秒さえ乗り切れば、体内からアドレナリンが消失していきます。
副交感神経が働くようになるので、衝動的な行動をせずにすみます。
 でも、6秒たたないうちに、何かをしゃべってしまったらおしまいです。
「怒りに火がつく」とよく言いますが、しゃべることでアドレナリンに火がついてしまうからです。

 また、相手から言い返されたり、無視されたりしたら、それもアドレナリンに火をつけることになります。
 もし、どうしてもがまんできないことなら、6秒たって落ち着いてから冷静に気持ちを伝えるとよいでしょう。

 そのときは、いつにも増して「ゆっくり」話すようにしてください。
 ただでさえ、怒りにとらわれているときは早口になってしまうもの。
「ゆっくりすぎる」と思うくらいのスピードでちょうどいいのです。

運動しないと食と睡眠の質低下
元気な高齢者はステーキも食べる

 自律神経の老化を防いで、若々しくいるためには、食事・睡眠・運動の3点が重要になります。
 当たり前のことだと思う人もいるかもしれませんが、では、この3つのうちどれがいちばん重要か、答えることはできますか?
 答えは「運動」です。
なぜなら、「動かない」は「食べられない」「眠れない」に直結するからです。
 とくに定年を迎えると、運動量がガクッと減ります。
意識して動くようにしないと、「今日も一日、一歩も外に出なかった」なんて毎日を送ることになりかねません。

 動かなくなると、どんなことが起こるでしょうか?

(1)まず、お腹がすかなくなります。
 ただでさえ年をとると基礎代謝が落ちるので、必要とするカロリーは少なくなります。
そのうえ動かなかったら、体が食事を必要としなくなるのは当然です。

 年をとっていても、体を動かしている人はたいていよく食べるものです。
冒険家でプロスキーヤーの三浦雄一郎さんはお肉が大好きで、1〜2週間に一度は600〜800グラムのステーキを食べるそうです。
 2021年に亡くなられた、小説家で尼僧の瀬戸内寂聴さんも、亡くなる直前まで毎日のようにステーキを食べていたといいます。

(2)次に、眠れなくなります。
 一般的に、年をとると睡眠時間が短くなるといいますが、どうしてだかおわかりでしょうか。
自律神経やホルモンの問題もありますが、いちばん大きな理由は、日中の活動量が低下するからです。
 それでも、規則正しい生活ができていればいいでしょう。
私も睡眠時間は短いほうで、一日4時間くらいしか寝ていませんが、寝る時間は12時、起きる時間は4時と決めています。

 問題なのは、生活リズムが崩れることです。
夜になっても眠くならずに、就寝時間が朝方になってしまったり、翌日やることがなくて、昼ごろまで寝てしまったり。こうした生活を続けていると、自律神経が乱れてしまいます。

 若い人でも、ひきこもりと呼ばれる人は、昼夜逆転している人が多いようですが、日中、体を動かしていないことが大きな理由でしょう。

 このように、「動かない」は「食べられない」「眠れない」につながります。「食べられない」「眠れない」とエネルギーがなくなり、自律神経のコンディションも乱れて「もっと動かない」へと進行します。

 こうした負のループにおちいらないよう、年を重ねた人ほど意識して動くことが重要です。

ジョギングよりもウォーキング

帰宅や買い物ついでに歩く

 では、どんな運動をしたらよいのでしょうか。みなさんからよく聞かれる質問の一つです。
 私は適度なウォーキングをおすすめしています。
毎日20〜30分くらい、近所をゆっくりマイペースで歩くだけでかまいません。
 ウォーキングは全身の血流をよくしますし、外の空気を吸うことでリラックスもできます。
何よりお金もかからないのですから、やらない手はありません。


 時間のない方には「ついでウォーキング」をおすすめしています。これは私もよくやる方法です。

 たとえば、いつもより5分早く家を出て、少し遠回りして駅まで歩いてみる。
帰りは最寄りの駅の一つ手前で降りて、家まで歩いてみる。通勤のついでにウォーキングをしてみるのです。

 これなら、わざわざスポーツウェアに着替えて、スニーカーをはいて外に出るというひと手間がはぶけます。
いつもと違う道を歩くことで、新たな発見もあるかもしれません。

 あるいは、ショッピングモールに買い物に行ったとき、1階から最上階まで、すみずみまで歩いてみるのも楽しいかもしれません。
「こんなお店があったんだ」といった新しい発見がありますし、雨や猛暑といった天候にも左右されません。

 ウォーキングをする時間帯は、できれば朝よりも夜がいいでしょう。朝は交感神経が高まる時間帯なので、血管が収縮し、筋肉が硬くなっています。そのため、ケガをするリスクが高まります。

 副交感神経が優位になる夕食後から、寝る1時間前までの間にウォーキングをすることで、全身の血流がよくなり、眠りの質の改善や、肩こり、腰痛の軽減にもつながります。

 歩き方は「ゆっくり」を意識して、「1、2、1、2」と一定のリズムで歩くことがポイントです。
 たまにウォーキングが苦しいとおっしゃる人がいますが、明らかにオーバーペースです。
苦しくて続けられないのなら、苦しくないペースで歩けばいいのです。

 のんびり散歩しているような感じになるかもしれませんが、それでかまいません。そのうち筋力も心肺機能も上がって、少しずつ速く歩けるようになります。

書影『老後をやめる 自律神経を整えて生涯現役』(朝日新聞出版・朝日新書)
『老後をやめる 自律神経を整えて生涯現役』(朝日新聞出版・朝日新書)
小林弘幸 著

 呼吸も「ゆっくり」を意識するようにしてください。
ゆっくり呼吸をすれば、自然と深い呼吸になります。4秒かけて鼻から吸い、8秒かけて口から吐くのがおすすめの呼吸法です。

「ジョギングはどうですか?」と聞かれることもよくあります。楽しんで走っている方には申し訳ありませんが、私としてはあまりおすすめしていません。

 もちろん、長年、習慣的にジョギングをやってこられた方は別ですが、ジョギングは運動量が多いため、どうしても呼吸が速く、浅くなり、副交感神経の働きが低下してしまうからです。

 加齢で自律神経が乱れている方には、下がりぎみの副交感神経の働きをさらに下げてしまうジョギングよりも、深い呼吸で血流をよくし、体のすみずみまで酸素と栄養を届けることができるウォーキングがぴったりなのです。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする