2024年07月01日

防衛省・自衛隊70年=回答・松浦吉剛(社会部)、中村紬葵(政治部)

なるほドリ・ワイド
防衛省・自衛隊70年=回答・松浦吉剛、中村紬葵
毎日新聞
2024/6/30 東京朝刊

日本周辺における主な兵力の状況

 防衛省(ぼうえいしょう)の前身となる防衛庁と、陸上・海上・航空の各自衛隊(じえいたい)が1954年7月1日に発足してから、まもなく70年を迎えます。
憲法(けんぽう)9条の下、「平和国家」として歩んできた日本は、相手から武力攻撃を受けた時に初めて防衛力を使う「専守防衛(せんしゅぼうえい)」を掲げてきました。
でも、憲法の解釈が変更されたうえ、日本を取り巻く安全保障環境も大きく変わり、自衛隊は岐路(きろ)に立っています。

◆「集団的自衛権」認めて変わったの?

防衛省・自衛隊 70年の歩み

記者
日本はアジア各国を侵略したことへの深い反省から憲法9条で、戦争をしない、軍隊を持たないと定めています。
このため、自衛隊は「外国が武力で攻撃してきた時、国を守るための必要最小限度の防衛力」として存在しています。
 一方で、1995年の阪神大震災(はんしんだいしんさい)や2011年の東日本大震災(ひがしにほんだいしんさい)をはじめとする数々の大規模災害に派遣されました。
被災地における献身的な支援活動を通じ、国民の支持を地道に広げてきました。
91年に中東のペルシャ湾にまかれた機雷を除去したり、さまざまな国連平和維持活動(こくれんへいわいじかつどう)(PKO)に参加したりするなど海外にも展開しています。

 今年は、14年7月1日に政府が「集団的自衛権(しゅうだんてきじえいけん)」の行使を限定的に認めることを閣議で決めてから10年の節目でもあります。
海外での武力行使はしないとしてきた自衛隊の活動が大きく変わるきっかけとなった出来事でした。

 Q 集団的自衛権って?

 A 平たく言えば、自分が攻撃されていなくても、仲間が攻撃された場合は一緒になって、相手と戦う権利です。
これに対し、自分が攻撃された時に、自分で相手に立ち向かう権利は「個別的自衛権(こべつてきじえいけん)」と呼ばれます。
政府は長年、個別的自衛権は使えるけれど、集団的自衛権は憲法9条があるので使えないと解釈していました。

 でも14年7月の閣議決定で、当時の安倍晋三(あべしんぞう)政権は、親密な国が攻撃を受けるなどして、日本の主権や国民の生命が脅かされる「明白な危険」がある場合、集団的自衛権は使うことができると憲法の解釈を変えました。
「国のかたち」を大きく変えることになった決定には、「憲法違反だ」との強い批判が起きました。
15年には集団的自衛権を使うことを認め、自衛隊の役割を拡大する安全保障関連法も成立しました。

 Q なぜ見直したの?

 A 中国が軍事力を拡大したり、北朝鮮が核・ミサイル開発を加速させたりするなど日本周辺を取り巻く安全保障環境が厳しさを増しているとの認識がありました。
同盟国・米国との関係強化をアピールする象徴的な意味合いも大きかったです。
自民党などは憲法9条を改正し、自衛隊を明記することを目指しています。

Q 自衛隊の役割はどう変わったの?

 A 政府の説明に基づくと、たとえば、日本上空を通過して米国に向かう弾道ミサイルを自衛隊が迎撃できるようになりました。
また、多くの石油タンカーが通る中東のホルムズ海峡が機雷で封鎖された場合には「日本への経済的な影響が大きい」として、機雷を除去することもできます。

 政府が「日本の平和と安全に重要な影響がある」と認定すれば、地球上のどこでも、戦闘中の米軍を含めた他国の軍隊に対し、物資を補給するなどの後方支援ができるようになりました。
自衛隊が戦闘に巻き込まれ、海外で武力を使ってしまうリスクが高まったとも言えるでしょう。

 ◆防衛費急増の理由は?

日米連携、「新領域」への対応も

 Q 大きな変化だったんだね

 A さらに政府は22年に安全保障の戦略や計画を示す文書を新しくしました。
たとえば、ミサイル攻撃を受けるのを防ぐため、相手国にあるミサイル発射基地を直接攻撃する「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有が明記されました。
米国との協力関係をさらに深める狙いがありました。

 実現に向けて、日本政府は、23年度からの5年間で防衛費として、それ以前の水準の1・5倍となる43兆円の予算を確保します。
27年度には防衛費などの関連予算を国内総生産(GDP)比で2%にします。

 Q 一気に増えたね。

 A 科学技術の発展で、これまでの陸、海、空に加えて、宇宙やサイバー、電磁波といった「新領域」への対応を迫られているのも理由の一つです。
サイバー領域では、攻撃される前に先手を打つ「能動的サイバー防御(ACD)」導入に向けた議論が始まっています。

 宇宙空間でも、各国が情報収集能力に優れた衛星や、他国の衛星を破壊する兵器の開発競争を加速させています。
航空自衛隊は名前を「航空宇宙自衛隊(こうくううちゅうじえいたい)」に変えることになっています。

 自由や民主主義の価値観を共有する米国や韓国といった国々の軍隊と、自衛隊との共同訓練の回数も大幅に増えています。

 一方、国内では少子高齢化が加速度的に進んでいます。
自衛隊員の確保が大きな課題となっています。

回答・松浦吉剛(社会部)、中村紬葵(政治部)
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする