2024年07月02日

「心の病かも」精神科の受診を検討する5つの基準、家族は「患者からのシグナル」を見逃さないで

「心の病かも」精神科の受診を検討する5つの基準、
家族は「患者からのシグナル」を見逃さないで
7/1(月)  東洋経済オンライン

日々、多くのストレスにさらされる現代社会では、「心の病」はけっして特別な病気ではないと、精神科医の広岡清伸氏は指摘します。
それでは、誰もがかかる可能性のある「心の病」を早期に発見し、有効な治療を受けるためには、どうすればいいのでしょうか。
これまで1万人を診察してきた経験をもとに、精神科への受診を検討する基準と、患者が送っている「心の病」のシグナルについて、広岡氏が解説します。
*本稿は広岡氏の著書『心の病になった人とその家族が最初に読む本』から一部を抜粋・編集してお届けします。

■家族が「心の病」になったら、まず何をすればいいか

 家族の誰かが心の病になったときに、気がかりなのが、心の病の患者となった当人とどのように接すればよいか、ということでしょう。

 アプローチの仕方は「家族間の関係性」「悩みの原因」「病状の重さ」「病気の認識の有無」によって異なってきますが、共通する大切なことがあります。

 もしも、家族の誰かが、近頃、様子がかなり変だと思ったら、精神科への受診を慎重に勧めてほしいのです。
精神科の専門医に相談すると、きっと苦悩をやわらげられることを丁寧に伝えてください。

 まず、家族は心が病んでいる人の味方になって、そばに寄り添うことが重要です。

 次に、家族は心が病んでいる人に「あなたが苦悩していることに気づいている」「家族として心配している」「力になりたいと思っている」ということを、伝えることが大切です。

 大半の患者さんは、何か原因があって苦しんでいます。
近所からの脅威に対して怯えていたり、学校でいじめを受けて苦しんでいたり、仕事で失敗したことで叱責を受けていたりします。
恋人との破綻で悩んでいることもあります。
家族は、何が原因で苦しんでいるのか理解しようとすることが大切です。

 そこで、「悩みを聞かせてもらえないか」「協力できることはないか」と話しかけま
ただし、根掘り葉掘り聞きだすのは良くありません。

 家族ができる範囲で、患者さんの症状を理解するように努めます。
なお、家族には話したくないけど、信頼できる他人にだったら話せる方も多いので、その場合は家族以外の誰かに協力を仰いでもいいでしょう。

 ここで留意してほしいことがあります。

 ・家族の温かな心と患者さんの病んだ心が触れ合うことで良い方向に向かいます。
 ・大切な家族であることを伝えます。仲間であることを伝えます。心の病の患者さんの味方であることを言葉で伝えます。
心の病の患者さんを守り、支えます。
 ・頭ごなしに、心の病の患者さんの言動を否定しない、見下さないでください。
 ・放っておかないことが大切です。
いつの間にか5年、10年経ってから相談される家族が多いのです。
できるだけ受診が早いほど、悪化を防ぎ、回復も早いのです。
 ・家族は、患者さんが精神科を受診できるように、くり返し説得し続けてください。

■病院での受診を拒まれたら、家族だけで抱え込まない

 ただし、症状が重いと、患者さん自身に「自分が病気である」ことの認識が乏しいために、家族からいきなり精神科への受診を勧めても受診を拒むケースがあります。

 このような場合、家族は頭ごなしに患者さんの言動を否定せず、何を恐れているのかを丁寧に聞いてあげてください。
家族は患者さんの苦しみを受けとめてあげるのです。
平常心を持った家族が、平常心の弱り切った患者さんと交流を持つことが大切です。
ポジティブな心と触れ合うことで患者さんの意識も変化します。

 家族のポジティブな思いが強ければ、患者さんの心の中に残っているポジティブな部分と共鳴して、患者さんも病院を受診してみようと思えるようになります。
心の病状を客観視できるようになるのです。自身の苦悩を精神科医によって取り除いてもらいたいと思うようになります。

 ただし、家族間の信頼関係が弱っていると、受診につながらない場合も多いです。

 受診を嫌がっている場合には、地元の保健所や精神保健福祉センターに相談するとよいです。
きっと、ケースワーカーや保健師や嘱託医が良い助言をしてくれるでしょう。

 私は、受診を拒んでいる患者さんの住所が近隣である場合には往診することがあります。
平常心を持ったドクターが、平常心の弱った患者さんと交流すれば、患者さんにも前向きな気持ちが芽生えて、その翌日精神科を受診することも可能になります。

 万が一、自殺の懸念がある場合や他人に著しい攻撃的な言動がある場合には、在宅生活の継続と在宅治療の導入は難しいので、必要に応じて一時的に入院治療を勧めます。
家族と主治医は、できるだけ、患者さんに入院治療が必要であることを理解してもらえるように働きかけます。

 緊急性がある場合には、都道府県の精神科救急医療システムを利用します。
そして、精神科救急情報センターや警察の協力を得て強制入院になります。
この場合でも、できる限り、患者さんに入院の必要性を理解してもらえるほうが、入院のトラウマが小さくなり、病状の回復が良くなります。

■精神科への相談を考える「5つの兆候」
 それでは、どういう症状が現れたら精神科医に相談するといいのでしょうか。
基準とされているのは5つです。
2週間以上前から、次の症状がある場合は要注意です。

 @多弁になったり、悲観したり、人と接するのが苦痛になるなど、心に何らかの異変が生じている
 Aイライラしたり、多量飲酒や過度の買い物をしたり、ふさぎ込んだりなど、行動に何らかの異変が生じている
 B眠れなかったり、おなかの調子が悪かったり、体がだるかったり、頭痛が続いたりなど、睡眠障害や食欲障害などがある
 C強い不安に怯えることがあったり、異様に強気になることがあったりなど、異常に情緒が不安定である
 D会社や学校に行けなくなったり、仕事がまったく手に付かなくなったりなど、日常生活、家庭生活、社会生活に支障をきたしている

 患者さん本人ではなく、身近にいる家族や友人に気づいてもらいたいのが、次の6つです。
患者さんが送られているシグナルと言ってもいいでしょう。

 @怒りやすくなっている、イライラしている
 A気がふさいで、会社や学校に行きたがらなくなっている
 B家族との会話がなく、部屋に閉じこもる
 C家族にあたってくる。家族にクレームが増える
 D多弁になったり、大騒ぎしたりなどの異常な行動が目につく
 E大量にお酒を飲んだり、異常な買い物をしたりなど、何か依存することがある

 うつ病かどうかを見極めるのも簡単ではありません。
というのは、患者さんに現れる症状は、うつ病の診断基準にある症状の一部であることも多いからです。

 ですから、患者さんや家族が、1つでも2つでも心の病の症状に気づいたり、おかしいなと思ったりしたら、クリニックを受診してほしいと思います。
そのためにも、心の病の症状や特徴を知ることはとても大切なことです。
とくに患者さんの家族は知っておくべきことだと思います。

■何よりも、気になったらまずは相談すること
 患者さんから送られているシグナルを心の病の症状として受け入れることができれば、治療にも前向きになれます。
比率まではわかりませんが、家族と一緒に受診する人はかなりいます。

 昔は、「お子さんは統合失調症ですから治療が必要です」と言うと、怒り出して診察室を出ていく親もいました。

 心の病に差別意識があった時代は、家系に心の病を患っている人がいると困るということで、精神科病院に預けっぱなしの親もいました。
 しかし、いまは心の病を専門とするクリニックはどこにでもある時代です。
 気になったら相談する。
家族は、患者さんをクリニックに連れてきた段階で成功だと思ってください。

 もし、患者さんが受診することに抵抗がある場合は、まず家族だけで相談に行くのもいいでしょう。

 一番大事なのは、あなたの悩みや相談に親身になってくれる医師を探すことです。

■「肯定的なマインド」を育んでくれる医師を探す
 ただし、一部の医師や精神療法家のなかには、自分たちが信じる療法を「絶対的に正しいもの」という前提で、患者さんの置かれている状況や、患者さんのたどってきた生き方を考慮せずに、マニュアル的に診療を進めてしまうケースもあり得ます。

 また、簡単な問診と薬を処方して、あとは経過観察だけという医師もいます。

 もしも、医師と話してみて、その医師が自分の悩みと向き合い、受け入れてくれないと感じたのならば、その場合は別の医師にかかることを検討してみてもよいかもしれません。

 患者さんの心に、肯定的なマインドを育める医師と向き合うのが、心の病を治す一番の近道です。
とはいえ過度な心配はいりません。
日本の精神科医の大部分は患者さんと真摯に向き合っています。

 世の中には、心の病を治すことを専門とする人たちがたくさんいます。治す方法もいろいろあります。

 しかし、大切なのは、どこまで患者さんに寄り添える治療者かどうかです。
そうした精神科医なら、きっと患者さんを心の病から救うことができるはずです。

広岡 清伸 :精神科医
posted by 小だぬき at 12:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | うつ病について | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

「値上げ地獄の夏」が庶民を襲う…

「値上げ地獄の夏」が庶民を襲う…
物価も金利も上がるのに実質賃金だけが上がらない日本人の不幸
2024年07月01日 PRESIDENT Online

■庶民の生活は楽になりそうにない

5月、国内195の食品メーカーが行った食品値上げは417品目だった。
6月は614品目に増加した。
足許で、“物価の優等生”と呼ばれた、もやしや卵の値段も上昇している。
広い範囲で、価格上昇になかなか歯止めがかからない。

今年の夏も“値上げラッシュの夏”になりそうだ。
その背景にあるのは、主に人手不足やエネルギー価格、さらには一部の穀物価格の上昇がある。
6月中旬、中東の紅海でフーシ派による攻撃で、タンカー運賃も上昇した。
それはいずれ原油価格の上昇につながる。

物価上昇に対する警戒感は、政府・日銀内部でも高まっている。
7月、日銀は金融政策を修正し、国債の買い入れ額を減らすとみられる。
財務省は金利上昇に備え、国債の発行計画を見直す方針と報じられた。

低インフレ、超低金利という過去30年以上続いた、日本経済のパラダイムは変わりつつある。
物価上昇分の賃上げがないため、わが国の実質賃金は増えていない。
当面、私たち庶民の生活は楽になりそうにない。

いちばん安い「もやし」が2倍以上に上昇

過去2年に続き、今年の夏もモノからサービスまで値上げが続きそうだ。
肉類やもやしなどの生鮮野菜、卵、菓子類、冷凍食品などの食料やコーヒー、さらにウイスキー、トイレットペーパーや洗剤などの日用品、自動車などの耐久財、飲食、バス料金などのサービスも値上げが続く。
企業間の取引でも物価上昇圧力は高まっている。
業務用の海藻類や汎用合成樹脂の原料であるポリスチレンの取引価格は上昇している。

“物価の優等生”と呼ばれた品目の価格も上昇している。
代表例はもやしだ。
もやしは“スーパーで一番安い野菜”とも呼ばれてきたのだが、最近、それが少し崩れつつある。

家計調査などを見ると、1990年代以降、国内のもやし価格は15〜30円程度(1袋、200g)で推移した。
ところが、足許、その価格が40円前後になっているようだ。
今後、さらに値上げを検討している生産者も多い。

卵の価格も不安定だ。
2022年秋に、鳥インフルエンザの発生で供給は減り、卵価格は上昇した。
2023年後半、供給が徐々に回復し価格上昇は弱まったが、年初以降は再度、卵価格は上昇傾向を辿っている。

■3年連続「値上げラッシュ」の夏になる

豚肉の価格も上昇した。
過去1年間、輸入豚肉は国内の卸値が1年間で4割上昇し、国産もおよそ40年ぶりの高値をつけた。
東南アジアの新興国で豚肉の需要は増えている。
国内の食肉企業が、海外勢に買い負けるケースも増えていると聞く。

人手不足による賃上げや、2024年問題による物流(トラック輸送)のコスト上昇などで、飲食、宿泊、交通などの価格も上昇傾向だ。
5月、総務省の消費者物価指数は前年同月比2.8%上昇した。
電力価格の上昇もあり、国内の物価上昇圧力は強い。
現在の状況が続くと、3年連続で値上げラッシュの夏になりそうだ。

世界的に資源や穀物の価格が上昇していることは、国内の物価状況に大きな影響を与える。
原油や天然ガスなどのエネルギー資源、小麦など一部の穀物の供給は不安定化している。

年初から6月中旬までの間、WTI原油先物価格は約13%上昇だった。
中東情勢の緊迫化で供給不安は高まった。
中東地域ではイスラエルと親イラン派のハマス、ヒズボラの戦闘が起きた。
中東の紅海では、イランが支援するフーシ派による商船攻撃も増えた。

■十分な原油が調達できなくなる恐れ

中東情勢がさらに緊迫化すると、イランが“ホルムズ海峡”を封鎖すると警告するリスクは高まる。
同海峡は、世界の原油や天然ガス輸送の大動脈と呼ばれる。
封鎖リスクの上昇は、原油供給減少懸念を高める。
米国では、脱炭素で化石燃料関連プロジェクトへの銀行融資が手控えられた。
シェールガスやオイルの生産を行う、“リグ”の稼働数が伸び悩んだ。
サウジアラビアやロシアは減産幅の縮小方針を撤回する可能性も示唆した。

4月以降、欧州やアジアなどで天然ガスの価格上昇も鮮明だ。
ウクライナ紛争で、ロシアから欧州諸国への天然ガス輸出は寸断した。
欧州各国は、米国、中東、北アフリカなどから、天然ガス調達を増やし、世界的に需給は逼迫気味だ。
一方、AIデータセンターが急増し、発電用の天然ガス需要は増えた。

■資源が上がり、物流費が上がり、輸入物価がさらに上がり…

エネルギー資源の上昇は、物流の料金を押し上げる。
紅海での商船攻撃で一時鈍化したタンカー運賃も上昇し始めた。
原油価格の上昇などで肥料の生産コストも増えた。
国連食糧農業機関(FAO)によると、前月比で5月の穀物価格は6.3%、乳製品は1.8%上昇した。
世界的に供給体制の不安定化懸念から、在庫を積み増す企業は増えているようだ。

米国では想定以上に金利が上昇するリスクも高まった。連邦準備制度理事会(FRB)の想定以上に労働市場はタイト気味であり需要も旺盛だ。
6月、米金利の先高観から、ドル/円の為替レートは161円台に下落した。円安は、輸入物価の上昇をもたらすことが懸念される。

エネルギー資源や穀物などの価格上昇、さらには円売り圧力で、わが国の輸入物価は上昇する恐れがある。
今後も消費者物価は上昇傾向を辿りそうだ。
政府と日本銀行はそうした展開に警戒を強めている。

■日銀はついに金利上昇を促す方針へ

日本銀行は7月に開催される金融政策決定会合で、「今後1〜2年程度の具体的な減額計画を決定する」と発表した。
月間6兆円規模の国債買い入れを減らすことで、日銀は物価の上昇に合わせて金利上昇を促すものとみられる。
7月以降、日銀が利上げを行う可能性もある。
緩和的な金融政策の修正で、いくぶんか円売り圧力は弱まるだろう。それは、一時的に輸入物価の上昇を抑えるために必要だ。

金利上昇リスクに対応するために、財務省は国債の発行年限を短期化することを検討するという。
一般的に、残存期間が長い債券のほうが金利上昇時の価格下落率は大きい。
財務省は、投資家の金利上昇警戒感に配慮して政策経費を調達し、政府の利払い負担の抑制も目指しているとみられる。

これからも物価上昇で金利は上昇するだろう。
わが国で、変動型住宅ローン金利や企業向けの貸出金利が上昇する可能性は高まる。
金利が上昇すると、家計、企業の利払い負担は増える。
経済がデフレ気味に推移し超緩和的な金融政策が続いた環境から、モノやサービスの価格と金利が上昇する局面へわが国経済の状況は変化しつつある。

■国民は急な政策に対応できるのか

懸念されるのは、社会と経済体制の変化に、国民がしっかりと対応できるか否かだ。楽観はできない。
5月の実質賃金の確報値は前年同月比1.2%減だった。
春闘での賃上げがあったものの、食料品などと同じか、それを上回る賃金上昇を、持続的に実現することは容易ではない。

人材流出の阻止に、やむなく賃上げする中小企業も多い。
実質賃金の上昇が難しい中で金利が上昇すると、株価は調整し、個人消費の停滞懸念も高まるだろう。

フランスでは物価の上昇、景気停滞などへの不満から、極左、極右の政党へと支持が移っている。
それは、わが国にとって他人事ではない。
物価上昇と金利上昇で、消費者心理は悪化するだろう。
景気停滞懸念も高まる。
そうしたリスクを抑えるために、わが国には経済の実力である潜在成長率を引き上げることを再優先の課題と考えるべきだ。
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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする