高額療養費制度があれば「がん保険」はいらない?…ステージ4末期がんの宣告後、森永卓郎氏が出した〈がん保険不要論〉への「最終結論」
9/5(木) HE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン)
昨年末に膵臓がんであることを公表した、経済アナリストの森永卓郎氏。
しかし、再検査を行ってみると膵臓がんではなく、原発不明がんへと診断が変わる衝撃的な結果がでることになりました。
今回、森永氏の著書『がん闘病日記』(三五館シンシャ発行、フォレスト出版発売)より、現在も精力的に執筆活動を継続する森永氏の、がん治療にかかるお金や「がん保険」についての考え方について、見ていきましょう。
都道府県「医療費」ランキング…
標準治療と自由診療
がんの治療には、莫大なお金がかかると思い込んでいる人が多い。
だから、がん保険には根強いニーズが存在する。
ただ、実際には、標準治療の範囲内で行なうのか、自由診療で治療を行なうのかによって、自己負担額は天と地ほどの差が出る。
まず、健康保険の適用が認められていない自由診療の場合、医療費は全額自己負担になる。たとえば、毎月200万円の医療費がかかったとすると、200万円すべてを自腹で支出しなければならない。
唯一の救いは確定申告の際の医療費控除だが、医療費控除の上限は年間200万円と決められているので、毎月200万円の医療費がかかると、たった1ヵ月で控除枠を使い果たし、あとは純粋な全額自己負担になるのだ。
一方、標準治療の場合は、次の3つの優遇策がある。
(1)医療費の3割負担
(2)高額療養費制度
(3)医療費控除
健康保険の加入者は、医療費の3割を自己負担すればよい。
後期高齢者で所得の低い人の場合は、1割から2割の負担で済む。
たとえば、一般のサラリーマンの場合、3割負担だから、200万円の医療費がかかった場合でも、自己負担は60万円で済む。
また、健康保険には高額療養費制度というのがあって、70歳未満、標準報酬月額(年収を12で割ったもの)が53万〜79万円の人の場合、1ヵ月の自己負担上限は16万7,400円+(総医療費-55万8,000円)×1%となっている。たとえば1,000万円の治療費がかかった場合でも、自己負担の上限は、26万1,820円ということになる。
しかも、自己負担した額は医療費控除の対象になる。
年間で自己負担が200万円を超えることはまずないから、実質的な自己負担額は月間10万円台でとどまるケースがほとんどになる。
莫大な医療費がまるまる自己負担としてかかってくる「自由診療」と、毎月10万円台にとどまる「保険診療」、その差はとてつもなく大きいのだ。
保険治療だけでがんに打ち勝った人はたくさんいる。
だから、個人的には健康保険の範囲内での治療を勧めている。
新しい治療法「血液免疫療養法」にチャレンジ
ただ、私はオプジーボを使った保険診療に加えて、自由診療を併用することに決めた。
それは少なくとも半年程度の延命がしたかったからだ。
東京の病院への2週間の入院を決断したときの最大の動機は、9割方書き上げていた『書いてはいけない』の原稿を完成させることだけだった。
幸運なことに入院後の厳格な医療管理によって体調が回復し、思考能力と言語能力を取り戻すことができた。
そして、IT技術者をしている次男が、私が口述筆記した録音のテキスト化を手伝ってくれたこともあり、書籍の原稿は無事完成した。
それで当面の目標が達成され、あとはゆっくりと標準治療の範囲内でがんと向き合おうと思ったのだが、事態はそう簡単には進まなかった。
ひとつはラジオリスナーからの猛烈なラブコールだった。
私はいま6本のラジオのレギュラー番組を持っていて、入院中も病室から生放送を続けていたのだが、ラジオのリスナーは家族のような存在で「早くスタジオに戻ってきて、出演を継続してほしい」とのメッセージがたくさん寄せられたのだ。
また、ニッポン放送は私が快復したら、「モリタク歌謡祭」というイベントを開催してくれるという。
「歌謡祭のチケット、2枚予約します」というリスナーさんからのメールは心に響いた。
もうひとつは、教鞭を取っている獨協大学の1年生のゼミ生の扱いだった。
獨協大学では1年生の秋にゼミ生の選抜をし、2年生の春からゼミの授業が始まる。
すでに1年生の選考は終了しているのだが、まだ一度も授業をしていない。
頑張って集中的なトレーニングをすれば、最短半年で「モリタクイズム」を伝えることはできる。
だから、4月から9月までの半年間は生きていたいと思った。それがゼミの新入生に対する責任だと考えたのだ。
もちろん、彼らが卒業する3年後まで生き残ることが理想だが、もともと私のゼミは年次の壁を取り払って、上級生が下級生を指導する体制を作っていたので、そこまでが必須というわけではない。
とりあえず半年生き残ることが最優先なのだ。
そこで私は、保険治療が認められていない新しい治療法にチャレンジする決意をした。
「血液免疫療法」といって、自分の血液を採取して培養し、がんと闘う免疫細胞を大量に作り出して、自分の体に戻すのだ。
ただこの方法はお金がかかる。
血液免疫療法の1ヵ月の治療費は100万円程度、3ヵ月続けるだけで300万円の費用負担となる。
もちろん全額自己負担だ。
オプジーボの自己負担やその他の検査や治療の費用を加えると、3ヵ月で400万円を超えるのは確実だ。
がん罹患後に森永氏が思う「やっておくべきだったこと」
いままでお金の専門家としても仕事をしてきたのでとても恥ずかしいのだが、私は自分の収入には無頓着だった。
テレビの出演料や本の印税はすべて私の会社に入れており、会社からは役員として定額の給与をもらっているだけだ。
そのため会社には比較的大きなお金があるのだが、個人としてはさほどでもない。
しかも理由はよくわからないのだが、税務署との関係で、役員の給与は年度途中で勝手に増額できない。
それでも、がんとの闘いが数年にわたって続くことはあまりないので、やりくりをすれば資金はなんとかなるだろうと考えた。
もちろん、がん保険に加入しておけば、自由診療を受けることになっても安心だとは言える。
ただ、私はがん保険に加入していなかった。
なまじ高額療養費制度の存在を知っていたものだから、保険診療の範囲内であれば、まったく問題はないと考えていた。
まさか、自分が原発不明がんになるとは夢にも思っていなかったのだ。
だから、私のような原発不明という特殊なケースが起きた場合や、無理をしてでも延命をしなければならないことが想定される場合は、お金をある程度貯めておくか、がん保険の加入を検討しておくことが必要になるだろう。
話が混乱するかもしれないが、私は「医療保険やがん保険に入ったことがない」とメディアに伝え続けてきたものの、じつは会社が私にがん保険をかけていたことが、その後、判明した。
もし私が1年以内に死亡すると、会社は結構な金額の保険金を受け取ることができるので、会社の経営は安泰だ。
ただ、その保険金は、会社のものなので、私の治療費を払うことには使えないのだ。
いずれにせよ、がんとの闘いは、かなりの確率であと半年以内に決着するだろうと思う。
由診療の治療費は、著書という“遺書”を残し、ラジオリスナーとの交流を守り、そしてゼミ生を育てるために支払ったコストだと考えている。
森永卓郎
経済アナリスト