2024年10月11日

マンション住民を直撃する「3つの値上げ」、管理組合がやるべき防衛策とは【専門家が解説】

マンション住民を直撃する「3つの値上げ」、
管理組合がやるべき防衛策とは【専門家が解説】
10/10(木) ダイヤモンド・オンライン

● マンション管理に影響する 3つの「値上げ」とは

 物価の上昇が続いている。
帝国データバンクによると、2024年10月に値上がりする食品は2900品目を超え、4月以来の大きな値上げラッシュが予定されているという。
また食品以外にも私たちの生活に影響を及ぼすことは確実だ。
さらに日本郵便でもこの10月、30年ぶりに封書の料金が値上げされる他、先発医薬品の一部でも負担増が予定されているのだ。

 長引く物価高騰の波はさまざまな部分に及び、私たちの暮らしや日常生活のコストに直接的な影響を及ぼしつつある。
なかでも、マンション暮らしや管理組合の運営に大きく関わってくるのが(1)損害保険料、(2)人件費(3)金利、これら3つの「値上げ」要素だ。
それぞれの「値上げ」について詳しく見ていこう。

 値上げ(1)マンション損害保険料の改定

 マンション管理組合で加入し、共用部分の損害(火災をはじめ、風水害などその他のリスクも含まれる)をカバーする保険料の全国平均が13.0%引き上げられた(※参考純率)。
10月1日以降の新規契約・更新で適用されることとなっている。
エリアや建物の構造、築年数により改定率は異なるものの、従来と比較するとかなり大きな値上げ幅となる改定だ。

 この改定の背景には、近年の自然災害頻発による支払いの増加に加え、資材価格・人件費の高騰などによる修繕コストの上昇も関係している。
また水災保険料率も改定され、水害リスクに応じて市区町村別により細かく5段階で評価されることになった。
つまり水害リスクの高い地域は、保険料が高く設定される仕組みに改定されたというわけだ。
このように、今後も保険料の上昇傾向は続いていくものと考えられる。

● 保険内容が新築時のままなら 再度の見直しが重要

 時勢を考えると、保険料の改定はやむを得ない部分が大きい。
だからこそ今、あらためて契約内容の見直しを行うことが重要となる。
自分たちのマンションの現状に適した見直しを行うだけでも、保険料の抑制につなげられる可能性もあるからだ。

 そもそも、新築時から一度でも保険内容の見直しを行ったことがあるだろうか。
入居当初、管理会社から提案された内容のまま契約し、そのまま期間満了のたびに更新し続け、保険内容の見直しが手つかずとなってはいないだろうか。
その場合は次のようなポイントに着目したうえで、再度契約内容をチェックしてみてほしい。

<保険料が割安になる長期契約(最長5年)となっているか>
 <水災補償の見直し>

 ハザードマップなどからマンションの立地に付随する水害リスクを再確認しておく。
丘の上など、ある程度高い場所などの水害が想定されていないエリアでは、過度な水災補償は不要になる場合も考えられる。
一方、想定以上に水害リスクが大きい立地の場合には、補償内容を手厚くしなければならない可能性も。
自分たちのマンションの現状にあった形を再度検討することが大切だ。

 <保険約定金額の割合(付保割合)の確認>

 保険契約の対象と同等のものを新たに建てたり、取得したりするために必要な資金を「再調達価額」という。
保険約定金額(具体的な保険金額)は、「再調達価格」と「付保割合」を基に計算される。
この付保割合とは保険契約において、どの程度の割合を保険金として保障するかを設定する割合にあたる。

 ただ、建物の再調達価額に対してどれくらいの割合で保険をかけるか、という判断はとても難しい。
というのもマンションで火災があったとしても、共用部分がすべて燃えてなくなるということはまず考えづらいためだ。
いいかえると、全額(100%)の保険が必要なのかを再考しなければならない、ということになる。
割合が下がれば、当然保険料も抑えられることにはなる。
しかし修繕積立金の蓄えや保険に対する備えの必要性はマンションそれぞれで異なるため、個別の事情を考慮しながら判断することになる。

 <個人賠償責任特約の解約を検討>

 マンションの管理組合が加入する保険には、居住者が第三者に与えた損害を包括的に補償する個人賠償責任保険が付保されていることがほとんどだ。
しかし区分所有者それぞれが個別に個人賠償責任保険に加入していれば、管理組合が特約をつけるメリットは少なくなる。
特約分を外せば、保険料が下げるメリットもある。

 では、個人賠償責任保険はどのようなケースで適応となるのだろうか。
例えば給排水管などから水漏れがあり、階下に被害が出た場合、管理組合が加入する保険の個人賠償責任特約によって支払われるケースが一般的だ。
逆に特約を外した場合は、居住者それぞれの責任において支払う必要があるのだ。
仮に個人で個人賠償責任保険に加入していなかった場合は、多額の修繕コストを負担しなければならなくなる。

 個人賠償責任の特約を外すことは、保険料節約のための有効な手段の一つとなる。
ただし、区分所有者が適切な保険に加入し、個人賠償責任を十分にカバーすることの重要性を周知することが前提条件であり、それは管理組合の役割でもある。
特約を外す場合は、将来的なトラブルを防ぐ意味で区分所有者への通知はもちろん、売買があったタイミングで次の買い主へ伝えていくなどの配慮を心がけたい。

● 管理委託費の値上げ提案があっても 管理会社の変更は慎重に

値上げ(2)日々の管理業務を担う人材の人件費

 2つめの「値上げ」は10月から最低賃金が全国平均で50円アップすること、つまり人件費の上昇だ。

 賃金上昇は消費者視点では「明るい」ニュースと言ってもいい。
しかし、管理員、清掃員、コンシェルジュなど、マンションに関わる人材のコストが上がるのもまた事実だ。
インフレの加速や人手不足などの要因から、今後賃金上昇傾向が続くのは確実だろう。
人材コストを抑えるためには、管理業務の見直しを適切に行うなどの対策が必要となる。

 例えば、管理会社による共用部の点検が年に12回行われている場合、それを6回に減らせるか…といった共用部の点検や定期清掃の回数など小さな見直しも大きな意味を持つ。
どのような業務の見直しで人件費の上昇分をカバーするのかという視点が重要になってくる。

 人件費上昇に伴い、管理委託費値上げの提案があった際も、管理会社の変更には慎重になってほしい。
今後の流れを考えると最低賃金が下がるとは考えにくく、人件費の高騰が管理委託費に与える影響はどの管理会社にも共通の課題となっているからだ。

 管理委託費の値上げが提案された際には、しっかりと理由を確認し、交渉を経た上で、双方が合意できた内容で承認することも重要なポイントとなる。
加えて「管理委託費の値上げ」が許容できるかどうかは日々マンションの収支を理解しているかも関係してくるだろう。

 管理組合の役員を担う立場ならば、管理会社から提出される月次の収支報告書をしっかりとチェックし、予算通りに推移しているかを把握しておきたい。
区分所有者も年に一度の定期総会で提示される収支報告書を通じて、年間の収入と支出をチェックする必要がある。
支出が収入を上回る状態は、単年度の「赤字」であり、収支改善のサイン。自分たちのマンションで管理費の値上げが必要かどうかを見極める材料としても、「日々のお金の流れ」をこまめに見ておかなければならない。

● 進むマンション管理の「二極化」 早め早めの対策が不可欠

 値上げ(3)金利上昇の影響

 最後の「値上げ」は、皆さんご存じの「金利」上昇について。
金利は不動産の売買において、特に住宅ローンに大きな影響を与える要因となる。
住宅ローンの条件は、マンションの資産性にも深く関係してくる部分だ。

 マンション管理組合としては資金運用の視点も忘れてはならない。
例えば、修繕積立金の代表的な運用方法として「マンションすまい・る債」という債券がある。マンション管理組合が行う修繕積立金の計画的な積み立てをサポートするために発行されている債権で、住宅金融支援機構が国の認可を受けて提供している。

 このように金利の上昇に伴い、利率がアップするなどでプラスの影響を受けるマンションも多く存在する。
その一方で、住宅金融支援機構から修繕資金を借り入れる時の金利も上昇しているため、修繕積立金に余裕がなく、借り入れを行って修繕をする必要があるマンションは金利負担が重くなってしまう。

 修繕積立金が潤沢なマンションは金利上昇の恩恵を受け、修繕積立金不足が生じているマンションは金利上昇が負担になるということだ。
財政状況が危ういマンションに関しては手をこまねいていると、より深刻な事態となりかねないため、迅速に対策を講じる必要がある。

 先手を打ち、将来の大規模修繕などに向けて修繕積立金の資金運用や保険内容の見直しを実行し、資産価値を高めているマンションと、借り入れを検討せざるを得ないほどの財政状況になっており、各種値上げによって更なる会計のひっ迫が予想されるマンション。
まさに二極化の様相を示している昨今、マンション管理組合運営において計画的な準備と早期の対策が求められている。

(株式会社さくら事務所創業者・会長 長嶋 修)
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする