2024年11月03日

【少数与党で新たな日本政治を】連立ではない政策協議が生み出すもの、総選挙が可能にした政治実験を成功させよ

【少数与党で新たな日本政治を】連立ではない政策協議が生み出すもの、総選挙が可能にした政治実験を成功させよ
冷泉彰彦
11/2(土)  Wedge(ウェッジ)

 10月27日に投開票が行われた衆議院総選挙は、政権与党である自公が大きく過半数を割る中で、連立もしくは連携の工作が進行している。
そんな中で、現時点では部分的な提携による少数与党内閣が成立する、そんな可能性も出てきた。
 例えばであるが、国民民主党が首班指名の決選投票で事実上棄権に回るというのは、石破茂内閣の成立をアシストすることになる。
ただ、それでは、1970年代末以降の自民党が度々やってきたような、閣僚ポストと引き換えに全政策を一致させるフルの連立政権にはならない。

 このケースにおける国民民主党は、悪く言えば政権与党の責任を負わないことになるし、離反すれば少数与党である自民・公明党を行き詰まらせることができる。
だとしたら、国民民主党が政策における事実上のキャスティングボードを握るわけで、責任をフルで負わない中では卑怯だという評価も可能だ。

 けれども、現時点では、フルでない、パーシャルな連立あるいは連携というのが現実的になってきている。理由は2つある。

存在感を見せ続けたい国民民主

 1つは、冷静に考えてみれば国民民主党にはフル連立を組めないテクニカルな理由があるからだ。
どういうことかというと、今回総選挙が終わったということは、残り9カ月となった次回の参院選へ向けて政局の号砲が鳴ったことを意味するからだ。
 国民民主党にとっては、この時点でフルの連立を組むというのは公党としては自殺行為になる。
例えば自民党は、一気に減った党勢を補うために、いわゆる「裏金議員」とされる保守系無所属議員とは、比較的早期に統一会派を組むとしている。
フルの連立を行えば、この統一会派を認めざるを得なくなる。
さらにフルの連立のためには政策をほぼ完全に一致させることが必要だ。

 そうなれば、大昔に新自由クラブや自由党がたどった道、つまりフル連立を組むことで与党に埋没して最後は吸収される道しか残らない。
仮に議員たちがプロ集団であれば、個々の議員は与党に吸収されても各選挙区で勝ち抜いていけるであろう。
けれども、国民民主党はまだ政党として若く、議員一人ひとりの経験値は少ない。
そんな中で、25年7月の参院選で存在感を見せるには党の独自性を維持する必要がある。

少数与党で生まれる議論
 2点目は、仮にフルの連立で当面の過半数を確保しない場合でも、今回の衆議院の議席配分においてはリアリズムの政党が圧倒的ということがある。
仮に、安全保障や経済政策で、全く異なる立場の政党が拮抗しつつ、誰も過半数を取れないといった場合は、確かに日本の政治は不安定になるであろう。
 けれども、自公に国民民主、維新の会、そして野田佳彦氏率いる立憲民主、ここまでのグループに関しては、多くの政策において差があるといっても、是々非々で合意が可能な範囲である。
仮に少数内閣が成立してしまい、個々の政策においては、その都度過半数の合意を取り付ける交渉が必要となっても、非現実的なイデオロギー論争に終始することは少なそうだ。

 ということは、これまでは自民党の党内組織や自公の党首会談で決まっていた政策が、もっと多様な政党が参加する中でオープンに議論される可能性が出てきた。
その一方で、現在の参院の勢力分野としては自公が過半数を持っているという「ねじれ」の問題もある。
だが、参院の多数を握っているとはいえ、衆院では少数与党になるということは、野党の意見を聞かねば政策は進まない。

 議院内閣制を採用した国としては、かなり珍しいケースとなるが、この際、少数与党という体制を実験的に進めてはどうかと思う。
例えば「103万円の壁」にしても、もちろん決して小さくない財源は必要だ。
その場合に、投資に見合う消費活性化、少子化の好転、現役世代の活力向上による生産性向上など、リターンが取れるかどうかは、ファクトだけでなく政治思想や経済思想がなくては判断ができない。
また世論を説得するコミュニケーション能力も必要だ。

 そうした賛成反対の論戦に加えて、実行が可能かどうかの統治能力の問題も、少数与党であれば野党との切磋琢磨となっていく。
例えば、本稿の時点では自民党執行部は、国民民主の政策を「ほぼ丸呑み」する姿勢という報道がある。
仮にそうであれば、小が大を呑むような政治力学が生まれ、そうなれば7月の参院選にも影響が出るであろう。

 その場合は、自民党の命運が本当に尽きるかもしれない。
切磋琢磨の迫力を欠き、丸呑みに走るようでは国民の付託に応えることはできないからだ。

日本の政治に改革を
 例えば「ニューヨーク・タイムス」などは、今回の選挙結果を「カオス」だとして、安定していた日本の政治が流動化しているとして危機感を煽っている。
また、米国の国務省筋には、日米安保における地位協定の問題が政治的論点になっていることに不快感を示す向きもあるようだ。
しかし、そのような雑音は言わせておけばよく、外圧を恐れて政治を「小さくまとめる」ようでは最終的に民意は離反してゆくであろう。
 総選挙後30日以内に首班指名をせよという、憲法上の期限にはまだ時間がある。
何よりも、数日後に迫った米大統領選の結果も日本の政局に影響を与えるのは間違いないであろう。

 その結果として、次の内閣としては思いがけない人物が、思いがけない政党の組み合わせによって担がれる可能性は残っている。けれども、仮に石破首相が少数与党に甘んじるという政治的賭けに出て、国民民主など中道政党が実験的にパーシャル提携に乗るのであれば、それはそれで意味のある政治的実験になると考えられる。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☔ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする