2024年12月02日

日本全体が「貧困化」しているのか?「低・中所得者」が大幅に増加している現実を読み解く

日本全体が「貧困化」しているのか?「低・中所得者」が大幅に増加している現実を読み解く
12/2(月) 現代ビジネス

日本には人が全然足りない…データが示す衝撃の実態

なぜ給料は上がり始めたのか、人手不足の最先端をゆく地方の実態、人件費高騰がインフレを引き起こす、「失われた30年」からの大転換、高齢者も女性もみんな働く時代に……

話題書『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』では、豊富なデータと取材から激変する日本経済の「大変化」と「未来」を読み解く――。

(*本記事は坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』から抜粋・再編集したものです)

労働参加の急拡大と低所得者の急増

日本ではこれまで周縁労働者と考えられてきた女性や高齢者の労働参加が急速に進んでいる。
このような急速な労働参加の拡大は、日本人の賃金の動向にも大きな影響を及ぼしてきたと考えられる。

続いて、国税庁「民間給与実態統計調査」から、1年以上継続勤務者の賃金分布の変化を確認する(図表1-29)

すると、この四半世紀ほどで日本人の賃金構造はかなり変化していることがわかる。
まず、低・中所得者が大幅に増加している。
年間200万円以下の給与を得ている人は2000年の825万人から2021年には1126万人に、200万円から400万円の層も1464万人から1696万人に増えた。

年収水準が低い労働者の増加はどのように解釈できるだろうか。
低所得者が増えているのだから日本全体が貧困化しているのだと主張する人もいるかもしれない。

しかし、さまざまなデータを分析していくと、日本において貧困問題が深刻化している様子や格差が急拡大している姿は見えてこない。
マクロの平均時給は足元では伸びてきており、むしろ非正規雇用者をはじめとする低所得者の待遇改善の方が先行して進んでいるのである。

さまざまなデータを組み合わせて考えてみると、年収水準が低い労働者が増えている理由の多くは、女性や高齢者が労働市場に急速に参入してきたことや、労働時間が短くなっていること、あるいはこれまでであれば自営業者として働いていたような人が雇用されて働くように変わってきていることなどによってかなりの部分が説明できると考えられる。

実際に同図表をみると、年収400万~600万円の人数は1143万人から1341万人へと中間所得者層のボリュームも大幅に増えている。

厚生労働省「賃金構造基本統計調査」から性・年齢別の年収水準を取ると、女性や高齢者の賃金は全体平均よりかなり低くなっている。
こうした人たち労働力のプールが枯渇したとき、賃金はさらに高騰する。

近年の日本で就業率が急速に上昇してきたのはなぜか。

女性であれば保育所の拡充や育児休暇の拡充といった各種制度、高齢者であれば継続雇用制度の義務化など政府の政策による影響は大きいだろう。
あるいは女性や高齢者であっても働くことは当たり前だとする人々の意識の変化や、高齢者であれば年金の給付水準の抑制といった財政的な事情も大きな影響を与えているとみられる。

こうしたなか、労働市場のメカニズムから考えれば、本来は賃金水準も労働者の就労の意思決定と関係しているはずである。

労働者側の視点からすれば、たとえば定年後の人が新たな仕事を探すとき、時給800円の仕事しか見つからないのであれば、多くの人が働かずに引退しようと考える。
しかし、時給1200円の仕事が見つかるのであれば、それより多くの人が引退せずにしばらくは働き続けようと考えるはずである。
このように、賃金水準の上昇は労働参加を拡大させる効果を持つ。

一方、企業の視点で考えれば、労働市場に潜在的な労働力が大量に存在するのであれば、人手確保のためにわざわざ高い水準に賃金を設定しなくてもよいと考える。
女性や高齢者が労働市場に参入しやすくなっている環境においては、企業が積極的に賃金を上げなくても、大量の労働者が自然に市場に流れ込んでくるからである。
そう考えれば、これまで日本の労働市場は、大量に存在していた潜在的な労働力のプールが日本人の賃金水準を抑え込んでいた側面もあったのだと考えられる。

このように賃金水準と労働参加の動向は相互に関係している。そして、近年の日本の労働市場においては、わずかな賃金上昇であっても労働参加が急拡大するという意味で労働供給量は賃金に対してかなり弾力的な状況にあったのではないかと推察される。

しかしその一方で、ここまでの現象はあくまで過去の日本の労働市場において起きたことである。
つまり、これまでの賃金や就業率の水準においては、労働供給が賃金に対して弾力的であったということであり、これ以降もそうであるという保証はない。

今後の労働市場を考えたときに焦点になるのは、日本人の就業率の上昇余地があとどれくらいあるのかということになる。

総務省「労働力調査」から就業者と就業希望者、失業者の推移をとってみると、これまでの局面ですでに就業希望者の多くが就業者に移行しており、失業者数も低い水準を維持している(図1-30)。
こうしたデータをみると、潜在的な労働力のプールが枯渇に向かっていることは確かだろう。

将来、労働参加が限界まで拡大し、就業率が天井を迎えたときには、いよいよ賃金が上がっても労働供給量が増えない局面が訪れることになるはずだ。
生産年齢人口が急速に減少する一方で医療・介護需要が増え続ける未来において、日本経済は労働供給が賃金に対して弾力性を失う局面をおそらく経験することになる。
そうなれば、賃金上昇率はこれまでよりも加速することになるだろう。

それがいつになるかまではわからない。
しかし、2010年代半ば以降そうした兆候は少しずつ顕在化してきている。

就業率の推移をみていると、特に高齢者については労働参加の余地がまだ十分に残っているような感じもするが、70歳を超えても80歳を超えても現役世代と同じように働き続けられる高齢者はそう多くはない。
相対的に健康な高齢者は既にかなりの程度働きに出ているとも考えられるだろう。

そう考えれば、労働力のプールが枯渇することで賃金がさらに高騰していく未来は、そう遠くない先に訪れるかもしれない。

坂本 貴志
(リクルートワークス研究所研究員・アナリスト)
posted by 小だぬき at 12:23 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

生活保護「家族に“扶養照会”しないと受けられない」は“ウソ”…行政に課せられた“正しい運用ルール”と「どうしても知られたくない場合」の対処法【行政書士解説】

生活保護「家族に“扶養照会”しないと受けられない」は“ウソ”…行政に課せられた“正しい運用ルール”と「どうしても知られたくない場合」の対処法【行政書士解説】
12/1(日) 弁護士JPニュース

「貧困」が深刻な社会問題としてクローズアップされるようになって久しい。
経済格差が拡大し、雇用をはじめ、社会生活のさまざまな局面で「自己責任」が強く求められるようになってきている中、誰もが、ある日突然、貧困状態に陥る可能性があるといっても過言ではない。
そんな中、最大かつ最後の「命綱」として機能しているのが「生活保護」の制度である。

しかし、生活保護については本来受給すべき人が受給できていない実態も見受けられる。
また、「ナマポ」と揶揄されたり、現実にはごくわずかな「悪質な」不正受給が過剰にクローズアップされたりするなど、誤解や偏見も根強い。
本連載では、これまで全国で1万件以上の生活保護申請サポートを行ってきた特定行政書士の三木ひとみ氏に、生活保護に関する正確な知識を解説してもらう。

今回は、生活に困窮した人が生活保護を申請する際にネックとなりうる、行政による親・きょうだい等への「扶養照会」の問題と、その対処法について紹介する。(第2回/全8回)

※この記事は三木ひとみ氏の著書『わたし生活保護を受けられますか 2024年改訂版』(ペンコム)から一部抜粋し、再構成しています。

家族への「扶養照会」は、生活保護申請の“最大の障壁”

生活に困窮した人は、それぞれ様々な事情を抱えている

生活に困窮した多くの方々に、生活保護申請を、長年にわたりためらわせてきたのは、生活保護の業務を担当する自治体の福祉事務所の職員等が、親・きょうだい・成人した子などの親族に連絡し、経済援助できるかを問い合わせる「扶養照会」です。

今回は、私が生活保護行政にかかわるようになってから、最も多い相談、質問の一つである「扶養照会」について、詳しく説明します。

扶養照会とは、生活保護の申請を受けた福祉事務所が、親族の経済的な状況などを聞き取り、生活保護の申請をした人への経済的な援助などができないかを親族に問い合わせることです。
これは、生活保護を利用するうえでの「最大の障壁」となっていると言っても過言ではありません。

「きょうだいには、生活保護の申請を知られたくない。それでも生活保護を受けられますか?」

「絶対に、家族に役所から連絡されては困ります!」

「生活保護を申請したら、親に連絡が行きますよね?」

これらは、最も多く受ける相談です。
扶養照会の相談や質問を受けなかった日というのは、私が生活保護行政にかかわるようになってから、1日たりともなかったように思います。

たびたび問題になる「扶養照会の強行

扶養照会について、厚生労働省は、「20年間音信不通の場合」には親族に照会しなくていいとされていた運用を「10年程度」と改めるなど、柔軟に運用すべきとの通知(2021年2月26日付)を自治体向けに出しました。

生活保護制度運用の法令上、それ以前は「親族からDV や虐待を受けていた」「20年以上連絡を取っていなかった」など、限られた場合にのみ、扶養照会はしなくてよいとされていたのです。
つまり、福祉事務所の職員は、「三権分立」に基づき法にのっとった仕事をしなければならず、親族からの暴力など差し迫る危険がなく、かつ、直近20年間に連絡を取っている親族については、扶養照会をするというのが、自らがすべき仕事、職責でした。

しかし現実には、生活保護を申請する人には個別にさまざまな配慮すべき事情があります。
そこで、そういった現実に即し、扶養照会の要件が緩和されたのです。

とはいえ、この扶養照会緩和の通達が出された後にも、「10年以内に連絡を取っていたのだから、本人が拒絶しても、扶養照会します」と強行しようとした自治体のケースが報道され、話題になりました。

このケースは、扶養照会を実施しないことを書面で求める申出書を生活保護申請時に提出しようとしたところ、窓口担当者から「申出書を出すなら、生活保護申請手続きは進められない」と言われたというものです。

やむなく扶養照会を拒む申出書の提出を断念したところ、本人の意に反して扶養照会が強行されてしまった、というものです。

「親族への扶養照会をしないでほしい」という“理由”を明記した申請書を提出
行政書士 三木ひとみ氏

役所の職員から「親族への扶養照会は必要です」などと言われた場合、多くの人は、言葉通りに受け止めるしか術(すべ)がないと思い込んでしまうかもしれません。

しかし、福祉事務所もその事情をくんで臨機応変に対応してくれることがあります。

たとえば、生活保護申請書を作成するとき、依頼者の希望で「親族への扶養照会をしないでほしい」という要請を記載することは多々あります。

実際そうした理由を明記した申請書を提出し、受理されたケースで、扶養照会が申請者の意に反して勝手になされたことは、私の知る限り1つもありません。

申請書を作成するときは、「扶養照会を拒絶する申出書」ではなく、申請書そのものに扶養照会を拒む明確な文言を、理由とともに書き入れます。

以下は、その一例です。

「扶養親族である姉には心配をかけたくないので、生活保護申請のことを絶対に知られたくありません。

家族の関係性が壊れないように、また私の最低生活が守られるように、私の意に反して扶養照会をすることは、絶対にやめてください。

姉の個人情報は一切開示できませんし、私の個人情報も姉に絶対に開示しないでください。
行政から姉に文書を送るようなことも、絶対にしないでください」

さらに、以下のように、扶養照会をする理由・必要性に関する説明を書面で求める旨の文言を明記することも多いです。

「上記の扶養照会を拒否する意思表示があるにもかかわらず、扶養照会を強行しなければ、私が生活保護を受けられないということが万が一にもあるのでしたら、書面にて根拠法令の条文と共に理由を説明してください。

勝手に扶養照会の通知を送付してしまった、では取り返しがつかないので、くれぐれもそのようなことのないようにお願いします」

血の通った運用を

こうして申請書に扶養照会を拒否する意思を明記したケースで、勝手に扶養照会がなされたことは、私が申請書を作成したケースでは、上述の通り1つもありません。

なお、過去に1度だけ、申請書に記載した扶養照会を拒絶する意思を無視して、扶養照会を強行しようとした福祉事務所がありました。

要保護者の70代女性、その息子さんである申請者から「生活保護申請するなら親戚に連絡すると何度も言われ困っている」との相談を受けました。

福祉事務所と何度も電話でやり取りしましたが、一向にらちが明きません。

そこで、事実経緯と、扶養照会を強行しないよう求める文書を提出したところ、扶養照会はされないまま、生活保護決定となったことがあります。

実際のところ、福祉事務所によっては、マンパワーが足りていないなどの事情により、最新の通達や判例などが現場の職員にまで周知されていないケースもあります。

明らかに福祉事務所の対応がおかしいときは、都道府県(または政令市)の生活保護課に問い合わせてその旨を伝え、福祉事務所に連絡を入れてもらって、解決したことがあります。

生活保護という人命に関わりかねない制度について、自治体ごと、あるいは福祉事務所ごとに対応が異なるというのは、決して望ましいものではありません。
すべての自治体が、扶養照会の判断基準を緩和した2021年の厚生労働省通知の趣旨に沿った、血の通った運用をしてくれるようになることを、切に願います。

三木 ひとみ

posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする