2024年12月19日

国民の声を無視した「マイナ保険証」で露呈…政府の「狂気の沙汰」を後押しする"大企業利権"の存在

国民の声を無視した「マイナ保険証」で露呈…政府の「狂気の沙汰」を後押しする"大企業利権"の存在
2024年12月18日 PRESIDENT Online

2024年12月から、マイナンバーカードと健康保険証が一体化した「マイナ保険証」の本格運用が始まった。
戦史・紛争史研究家の山崎雅弘さんは「以前からトラブルが多発し、国民が不安を抱いているシステムを事実上強制する政府方針は狂気の沙汰に見える。
その頑なな姿勢の背景には、大企業の利権が見え隠れしている」という――。
※本稿は、山崎雅弘『底が抜けた国 自浄能力を失った日本は再生できるのか?』(朝日新聞出版)の一部を再編集したものです。

■マイナ保険証から見える大企業の利益

さまざまなトラブルが続出し、それが原因で普及も進んでいないにもかかわらず、自民党政権が異様な頑なさで推進を強行する、マイナンバーカードと「マイナ保険証」についても、自民党と大企業の互助関係や大企業の利益追求という角度から光を当てると、今まで見えなかったメカニズムが可視化されて、浮き上がってきます。

マイナンバーカードは、2015年10月に住民票のある国民と外国人全員に付与された個人番号「マイナンバー」に基づき、個人の本人確認手段や行政サービスなどに使用するためのICカードで、2016年1月から交付が開始されました。

その後、2021年3月からマイナンバーカードに保険証の機能を持たせた「マイナ保険証」の試験運用が始まり、2022年10月13日には自民党政権の河野太郎デジタル大臣が、2024年秋に従来の健康保険証を廃止し、「マイナ保険証」に一本化するとの発表を行いました。

■トラブル頻発で医療界から疑問の声

しかし、マイナンバーカードと「マイナ保険証」は、それぞれの運用開始直後からトラブルが頻発し、特に命と健康に関わる「マイナ保険証」の医療機関でのトラブルについては、各地の医療従事者からも「診療に支障を来している」「従来の健康保険証の廃止は拙速ではないか」との声が上がりました。

2024年1月31日、全国保険医団体連合会(保団連)は「マイナ保険証」の利用をめぐるトラブルの実態調査についての結果を公表しました。

同日付の東京新聞記事(ネット版)によれば、調査は2023年11月から24年1月にかけて全国約5万5000の医療機関に調査票を送付する形で実施され、回収された8672件(全体の16パーセント)から集計されました。

しかし、試験運用の開始から2年半以上が経過したこの時期になっても、医療機関の6割(59.8パーセント)で「読み取り不具合」や「名前や住所の表示の不具合」、「資格情報の無効」などのトラブルが発生していました。

■欠陥だらけでも強行するなんて狂気の沙汰

これらのトラブル発生により、医療費をいったん10割請求(保険外扱い)した事例は、403の医療機関で少なくとも753件に上りました。
また、トラブルが発生した医療機関の83パーセントは、その日に患者が持っていた従来の健康保険証で資格確認を行ったと回答しました。

都内で記者会見した保団連の竹田智雄会長は「政府はマイナ保険証利用率アップのために巨額の予算を投入する方針だが、システムが不完全なまま保険証をなくせば、医療現場が大混乱することは明白だ。(従来の)保険証はなくすべきではない」と訴えました。

普通に考えれば、いまだ完成度が低く「バグ(原因見落としによる欠陥)」があちこちに存在するシステムを、国民の命と健康に関わる健康保険証の代替物として事実上強制する政府の方針は「狂気の沙汰」に思えますが、その背景には何があるのでしょうか?

■自民党に献金した企業が得た「見返り」

2023年7月13日付のしんぶん赤旗は、政府のマイナンバー事業を計123億1200万円で受注した企業5社のうち、日立製作所と富士通、NEC、NTTデータの4社が、2014年から2021年までの間に計5億8000万円を、自民党に献金してきたと報じました。

そして、自民党に高額献金した各企業には、内閣府や総務省、財務省、経済産業省、国土交通省などの幹部が多数「天下り(退官した官僚の再就職)」したと伝えました。

2023年5月31日付の東京新聞によれば、「マイナ保険証」の資格確認はNTTの光回線が独占した状態にあり、ある歯科医院院長の「すべてが決められた回線や高い価格で進められており、ぼったくりでは」とのコメントも記事で取り上げました。

また、「マイナ保険証」の普及に伴う従来の健康保険証廃止について、経団連と並ぶ経済団体「経済同友会」の代表理事を務める新浪剛史代表幹事が、2023年6月28日の記者会見で次のように述べると、国民から大きな批判が湧き起こりました。

「(政府が健康保険証廃止を目指す2024年秋は)納期、納期であります。
民間はこの納期って大変重要で、必ず守ってやり遂げる。
これが日本の大変重要な文化でありますから、(政府は)ぜひとも保険証廃止を実現するよう、納期に向けてしっかりやっていただきたい」

■新浪発言の裏に見え隠れする「利権」

国民の命や健康を支える健康保険証の代替システムが、現状でトラブル山積にもかかわらず、居丈高に「納期」というビジネス用語を使って、政府に廃止を「指図」するかのような新浪代表幹事の態度は異様です。

彼が社長を務めるサントリー(ホールディングス)は、毎年500万円前後を自民党に政治献金しているほか、新浪社長自身も2014年8月から現在まで、政府の経済財政諮問会議で民間議員を務めています。

また、サントリーは安倍首相主催の「桜を見る会」に、2017年から2019年の3年間で計400本近い酒類を無償で提供していました(2022年5月28日付東京新聞)。
政治資金規正法は、企業の政治家個人への寄付を禁じていることから「違法な企業献金に当たる可能性がある」との指摘もなされました。

■長年、政府と歩調を合わせてきた経済界

サントリーの公式サイトを見ると、「事業紹介」のページに「食品事業」「スピリッツ事業」「ビール事業」「ワイン事業」と並んで「ウエルネス事業」という項目があり、健康食品やサプリメントの製品紹介と共に、次のような説明があります。

「サントリーは長年にわたる食の科学的研究や品質管理技術を礎として健康・ライフサイエンス分野の事業に参入しました。(略)2001年からは、従来からの健康関連の研究開発を一層強化することを目的に『サントリー健康科学研究所(現、サントリー生命科学研究所)』を設立。
(略)また、商品だけではなく、会員向けサービス『サントリーウエルネスクラブ』や無料の健康行動アプリ『Comado』などのご提供を通して、人生100年時代のお客さまのトータルウエルネスの実現をサポートしています」前記した「新浪発言」の問題点を報じた2023年8月15日付の東京新聞は、名古屋大大学院の稲葉一将教授(行政法)の以下のようなコメントを紹介しました。

「2000年代から、経済界が求める要望と政府のデジタル化政策とは、歩調を合わせてきた。
(略)個人情報を資源とみなしたこの段階(2013年6月に閣議決定された「世界最先端IT国家創造宣言」)で、医療や福祉、教育といった分野での情報収集や活用がすでに想定されている。マイナンバーの情報を連携すればその履歴から人物像を人工知能(AI)が解析し、製薬や教材づくりといったビジネス利用も可能となる」

■健康保険証廃止をめぐる公的記録がない

このように、国民の命と健康に大きく関わる健康保険証の運用が、大企業の営利追求という目的によって大きく歪められている疑惑がある中、東京新聞は2024年9月25日、河野デジタル大臣とデジタル庁、厚労省への取材に基づき、健康保険証の廃止という重大な政策決定がどのような議論を経て行われたのかという公的記録が政府内に「残されていない」との驚くべき事実を報じました。

「いつ、どんな議論を経て、誰が決めたのか。現行の健康保険証の廃止がどのようにして決まったのか、その経緯が分かる記録を政府は残していなかった。決定に至るまでの手続きも異例で唐突だった。国民が納得するだけの説明もない」

■公文書管理法が課している記録義務

2009年6月24日成立、2011年4月1日施行の「公文書等の管理等に関する法律(公文書管理法)」の第一条には、「この法律は、国及び独立行政法人等の諸活動や歴史的事実の記録である公文書等が、健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用し得るものであることにかんがみ、国民主権の理念にのっとり、(略)国及び独立行政法人等の有するその諸活動を現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにすることを目的とする」とあります。

また、同法の第四条は「行政機関の職員は、第一条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、処理に係る事案が軽微なものである場合を除き、次に掲げる事項その他の事項について、文書を作成しなければならない」との文言で公文書の作成を義務づけています(「次に掲げる事項」の一は「法令の制定又は改廃及びその経緯」であり、健康保険証の廃止という決定はこれに該当します)。

■健康保険証の廃止は誰のための政策なのか

こうした義務を課せられているにもかかわらず、健康保険証の廃止という国民の生死にも関わる重大な決定についての公的記録を「残していない」と平然と言い放つ河野デジタル大臣とデジタル庁、厚労省の態度は、公文書管理法の第一条に示された理念をあざ笑うかのような暴挙であり、法的にも道義的にも許されないものです。

河野デジタル大臣は、2022年10月13日に健康保険証廃止を発表した際、岸田首相への報告内容と首相から受けた指示について、手元の資料を見ながら7分近くかけて説明していましたが、東京新聞の取材に対し、デジタル庁はこの「河野大臣が会見で見ていた資料」についても「首相への報告や首相からの指示を記録した文書も作成していない」として、開示を拒みました(同記事)。

国民の命や健康に関わる健康保険証の廃止という重大な政策決定について、廃止に至る議論で交わされた閣僚や官僚の発言内容が、公文書管理法に基づく形で議事録や会議録に残されず、「口頭のみで議論されたから記録はない」というのは、近代国家としてあり得ない説明です。まさに底が抜けています。

この異様な状況を俯瞰的に観察すれば、よほど「国民に知られたら困るような、公益に反する発言」がそこ(議論の場)で交わされたのだなと、推測するしかありません。

健康保険証の廃止という自民党の政策は、誰のためになされているのでしょうか?

そこに「国民の命と健康を守る」という政府の責任を土台とする観点はありますか?

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山崎 雅弘(やまざき・まさひろ)

戦史・紛争史研究家
posted by 小だぬき at 06:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

高齢者はサービス「無人化」は悪い印象…人手不足ニッポンで「これから起きていくこと」

高齢者はサービス「無人化」は悪い印象…人手不足ニッポンで「これから起きていくこと」
12/17(火) 現代ビジネス

この国にはとにかく人が足りない!個人と企業はどう生きるか?人口減少経済は一体どこへ向かうのか?

なぜ給料は上がり始めたのか、人手不足の最先端をゆく地方の実態、人件費高騰がインフレを引き起こす、「失われた30年」からの大転換、高齢者も女性もみんな働く時代に……

話題書『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』では、豊富なデータと取材から激変する日本経済の「大変化」と「未来」を読み解く――。

(*本記事は坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』から抜粋・再編集したものです)

論点4 デジタル化に伴う諸課題にどう対応するか

今後、人件費コストの増大によって財やサービスの価格が緩やかに上昇していけば、人手を用いたきめ細かいサービスを大量に消費することは少しずつ難しくなっていく。

働き盛りの労働者が持続的に減少していく未来において、日本の消費者が引き続き豊かな暮らしを送るためには、日本経済のデジタル化を進めていくことは不可欠である。
そして、デジタルの技術が浸透していく過程においては、機械によるサービス提供の限界にも一定の理解を示していくことや、情報技術がもたらすリスクに適切に向き合っていくことも必要になるだろう。

人手不足下におけるデジタル技術の活用に関して、朝日新聞は2024年世論調査を行い、その実態を明らかにしている。同調査においては、デジタル化に伴うサービスの無人化について「これまで人がしてきた仕事やサービスが、デジタル技術の進歩によって無人化されていくことに、よい印象を持っていますか。悪い印象を持っていますか。」という設問を設け、回答を聴取している。
そして、その結果は「よい印象」と答えた人が50%、「悪い印象」と答えた人が36%となった(図表3-8)

この設問の賛否は年齢が大きく影響している。
年齢別に回答結果を見ると、20代ではよい印象があると答えた人の割合が74%に上り、若い人にとっては無人化に伴うサービス水準の低下は抵抗なく受け入れられる様子が見て取れる。
一方で、70歳以上ではよい印象が33%、悪い印象が53%になっており、相対的に抵抗感が強い結果となった。

こうした結果をみると、歳を取った消費者ほどデジタル技術の活用に伴う潜在的なリスクへの意識が高いのかもしれない。
あるいは、スマートフォンでのアプリ操作などの負担感や、無人化に伴うサービス提供者とのコミュニケーションの喪失といった実際のサービス水準の低下を強く感じる傾向があるのだと考えることもできる。

実際に、これらデジタル技術を用いたサービスの多くは経済の効率化に大きく貢献するものの、それでもやはり従来のように人手を介したきめ細かいサービスを享受したいという消費者の欲求は強いのだと思われる。

デジタル技術を用いたサービスの提供には一定のリスクも伴う。
昨今においても、企業側がAIなどを用いて個人情報を情報提供側の意図せぬ形で活用したことが問題になるケースも発生している。
あるいは、ロボティクスや自動運転技術がビジネスの現場に浸透していくにあたっては、事故等の発生に伴って、人に身体的な危険が及ぶこともありうる。

こうしたリスクに関して、欧州ではAI規正法が成立するなど実際のサービスの適用にあたっての規制を導入する動きも広がっている。
デジタル技術の活用には一定のリスクが伴うなかで、こうした規制を導入することによってサービス提供者に認められることとそうでないことを明確化することは今後重要になってくるとみられる。

こうしたなか、今後は何よりも消費者側が、新しい技術の有用性を広く認識し、ロボットフレンドリーな社会風土を形成していくことが重要である。
人口減少が本格化していく日本は、先進技術による機械化・自動化の恩恵を最も受けやすい環境にある。
さらに、日本はロボットに関する大衆コンテンツが幅広く普及しているなど文化的な観点でみても、諸外国と比べればAIやロボットなどの技術が浸透しやすい風土が整っていると考えることもできる。

新しい技術を活用するにあたっては、何か事故が起こったときに、社会がどのような対応をするかがその技術の浸透に大きな影響を与える。
新しい技術を浸透させるためには、それを活用することに伴って顕在化したリスクに対して、技術の有用性自体を否定するのではなく、どうすればより良い活用の仕方ができるかなどを建設的に議論できるような社会風土を形成していく必要がある。デジタル技術を生活の豊かさにつなげていくためには、消費者側の新しい技術に対する寛容度を高めることが重要なのである。

労働力が減少していく未来においては、これまでのような豊富な人手をいくらでも使ったきめ細かいサービスを大量に消費することは許されなくなっていく。
逆に言えば、現代日本は世界の中でもAIやセンサーなど先進技術を使った省力化のメリットを最大限享受できる環境にあるといえる。
新しい技術に寛容な社会風土を醸成することができれば、日本は世界でも有数のオートメーションが進んだ高度な経済社会を構築することも不可能ではない。


坂本 貴志(リクルートワークス研究所研究員・アナリスト)
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする