2024年12月23日

加速する高齢化、救急態勢見直し…地方が悲鳴を上げる「医師の偏在」の実態

加速する高齢化、救急態勢見直し…地方が悲鳴を上げる「医師の偏在」の実態
12/22(日) 産経新聞

都市部など一部地域に人材が偏る「医師の偏在」を巡り、医療現場が苦悩を深めている。
地方では医師の高齢化が加速しており、救急態勢の見直しを迫られる医療機関も。
「このままでは地域医療を守り切れない」。
砦(とりで)を守る現場医師たちの思いは切実で、偏在の是正に向けて厚生労働省は年内にも、総合対策をとりまとめる。

■70代が月8回の当直勤務

「当直勤務は昔、55歳くらいになると免除されていたが、今は60代以上にもお願いしなければ回らない。
月8回ほど当直に入る70代の産婦人科医もいる」

16診療科と約400の病床を持ち、地域の中核病院として多くの急性期患者を受け入れる「阿南医療センター」(徳島県阿南市)の前田徹院長(66)は、こう打ち明けた。

約45人いる常勤医の平均年齢は53歳。前田院長も朝7時半ごろには始動し、外来診療のほか週平均で5件の手術も担う。
帰路につくのは夜9時ごろが多く、自身も月1回ほど、当直にも入る。

徳島県は医療機関で働く人口10万人当たりの医師数が令和4年末時点で335・7人と、全国トップ(全国平均262・1人)。だが人材の52・22%は徳島市に集中し、医師不足が深刻な他地域では人材の高齢化が著しい。

同センターは徳島大病院から医師派遣を受けるが、近年は同大の医学生は国家試験合格後、県外に出ていく傾向にある。
派遣してもらえる若手・中堅医師は少なくなっており、県南部では勤務医のみならず、開業医の高齢化も進む。
後継者がなく、閉院を模索する動きも広がっているという。

「10年先には地域医療を支える人材がいなくなるかもしれない」。前田院長は危機感を隠せない。

■引退の理事長も復帰

地域だけでなく「診療科の偏在」も影を落とす。

医療機関で働く人口10万人当たりの医師数が4年末時点で全国最少(180・2人)の埼玉県。
特に深刻なのが、1市4町からなる秩父医療圏(人口約9万2千人、同年末時点)だ。

同医療圏は夜間・休日に入院が必要な救急患者を交代で受け入れる輪番制を導入。かつて7病院の参加があったが、医師不足を背景に離脱が相次ぎ、今は3病院で回している。

こうした中、3病院の一つで民間病院の「秩父病院」(同県秩父市)が来年度、夜間・休日の輪番制から撤退することに。
「現場にこれ以上の負担を強いることはできない」。同院の花輪峰夫理事長(76)は、苦渋をのぞかせる。

15診療科がある同院は年間約500件の手術を担う。52ある病床の稼働率は9割近いが、常勤医7人中外科医は2人だけ。外科医を志す若手の減少も指摘される中、人材集めは困難を極めてきた。
2年半前に引退した花輪理事長は復帰し、今も外科医として働いている。

宿直は開業医らの助けも借りながらなんとか回すが、週1回以上のペースで入ってもらわなければ立ち行かない。
「ぎりぎりの状態」(花輪理事長)は続く。

■「実効性ある対策を」

全国の医師数は令和4年時点末で約34万人。
40年で約2倍に増加したが、近年は都市圏での就職を希望する者が多く、激務とされる外科や救急科、産婦人科などでは人材不足が深刻化している。
収益を上げやすい美容外科に人材が流れ、医師の偏在に拍車をかけているとの指摘もある。

各地では、大学の医学部入試に卒業後一定期間の地方勤務を条件とする「地域枠」を設けるなどして偏在の解消を模索。
同枠の定員は昨年度、全国で約1700人に上った。

取り組みは一定の効果をあげるが、地方で専門性を高めることや私生活の両立に難しさを感じる人もおり、人材定着の決定打にはなってはいない。

埼玉県では医師免許取得後、特定地域の公的医療機関などに一定期間勤務すれば、返済が免除される奨学金制度を用意。ただ、人材を欲する秩父病院などは制度の恩恵を受けれていない。公的・民間の区別のない偏在対策を求める声も上がる。

花輪理事長は「行政は各病院が置かれる窮状をしっかりと見て、実効性ある対策を講じてほしい」と話している。(三宅陽子)
posted by 小だぬき at 14:00 | 神奈川 | Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ホームレスはどうやって「ホームレスになる」のか。誰であろうと、その可能性はある

ホームレスはどうやって「ホームレスになる」のか。誰であろうと、その可能性はある
12/22(日) ニューズウィーク日本版

盗難、病気、倒産......何がきっかけとなり、ホームレスになるかは分からない。
しかし、荒川河川敷のホームレスを取材し続けてきた在日中国人ジャーナリストの趙海成氏は、ホームレスは「絶望ではない」とも言う

日本の元国会議員である知人が、私がホームレスに関するルポを書いていると言うと、次のようなネタを話してくれた。

――ある政治家が自分のイメージを良くするために、思い付きでホームレスの集まりに行き、自らの宣伝を始めた。

「私は国会議員の○○○○です! 皆さんに会いに来ました!」

その場にいたホームレスたちはほとんど、彼をぼんやり見るだけで何の反応もしなかったが、1人だけ、年老いたホームレスが彼に微笑んだ。政治家はすぐに駆け寄って「おじいさん、こんにちは! 私は○○○○です」と言った。

老人は少し耳が遠いようで、「あなたはさっき何だと言っていましたか」と尋ねた。
政治家はもう一度大きい声で「私は国会議員です!」と言った

「国会議員? ハハハ! ハハハ!」老人は笑いが止まらなかった。

政治家は首をかしげ、老人に尋ねた。「なぜ国会議員に会って喜んでいるのですか」

「わしもホームレスになる前は国会議員だったんですよ。ハハハ!」

この話が本当かどうか考証はしていないが、おそらくは誰かが政治家をからかうために作ったジョークだろう。

ジョークとはいえ、ここには2つの真理が示されていると思う。
1つは、ホームレスは玉石混交であり、ホームレスになる前はいろいろな種類の仕事をしていた人がいること。
もう1つは、誰であれ、いつかホームレスになる可能性があることだ。

ホームレスはどうやって「ホームレスになる」のか。
以前に述べたように、倒産や失業、家賃が払えなくなること、あるいは家庭関係や人間関係の悪化などがきっかけという人が多い。

ホームレスは一人ひとり異なる事情とストーリーを抱えているが、それぞれがホームレスになった理由を知れば、きっと「誰であれ、いつかホームレスになる可能性がある」という真理が実感できる。

落とし穴はどこに潜んでいるか分からない。4つの例を紹介しよう。

一夜にしてホームレスになる可能性もある

当時、建築現場の下請け仕事をしていた彼は、何人かの作業員を連れて埼玉県某所の現場に行った。
最終日の夕方に請け負った仕事が完成し、その夜、工事現場の寮から退去するよう言われた。
疲れていたが、手に入れたばかりの数十万円の工賃を見て心が浮き立っていたという。

まず東京に戻るが、深夜になるのでみんなでホテルに泊まり、翌朝、電車やバスでそれぞれ家に帰るというプランだった。

泊まったのは池袋のカプセルホテルだ。
まず貴重品をホテルの鍵付きロッカーに入れて、お風呂に入り、それからカプセルに入ってぐっすり寝た。
この夜、災厄が降りかかった。
翌朝そのロッカーを開けたところ、中にあった数十万円の現金とたくさんの免許証が全部消えていた。

警察によれば、密航してきた不法滞在の外国人がやったのだろうという。
この連中はあちこちで犯罪を犯しており、当時、社会問題になっていた。捕まえるのは難しい。

最も痛かったのは、建築工事に関する各種の免許証や許可証で、大型トラックやクレーン運転、溶接関係、建築施工管理士資格など、すべてを失ってしまったと彼は話す。

これらを再発行してもらうにも、時間とお金がかかる。
手元には、仕事の関係者に公衆電話をかけるお金さえない。生きる道をすべて断ち切られたように感じたそうだ。

彼には、全財産を盗まれた後、首を吊って自殺した友人がいた。
いま自分は同じ窮地に立たされている、どうすればいいのか――。
結局、彼は借りていた家に戻らず、仕事の取引先との連絡も途絶え、荒川河川敷で野宿生活を始めることになった。

体が弱くて労働ができず、ホームレスを選ぶ人もいる

私が荒川河川敷で会ったホームレスの1人は、病気がきっかけだった。

中高生の頃は不自由のない生活を送っていたが、学業は疎かだった。
歌が好きだったので商店街のカラオケ大会に出たり、刺激が欲しくて車を飛ばし、警察に追いかけられたりしたこともあった。
たばこも吸ったし、酒も飲んだ。高校を中退し、働いてお金を稼がなければならなくなると、まず専門学校の食堂に就職し、皿洗いや掃除をした。

しかし、幼い頃から喘息を患っていて、8時間連続で働くことができなかった。
その仕事を辞め、派遣会社に登録した。毎日働く必要はないが、彼に与えられた仕事の多くは建設現場の肉体労働だった。

しばらく経つと、体が悲鳴を上げるようになったそうだ。
仕事中、喘息がよく出て、休まなければならなかった。
加えて彼はヘビースモーカーで、たばこをたくさん吸うのだが、そのたびに喘息がひどくなり、正常に仕事ができなくなった。

そして彼は、生きていくにはホームレスになるしかないと考えた。この時まだ32歳だったという。

もちろん、彼も公的な支援をあおいだり、他の道を選んだりすることができたかもしれない。
しかし、若くても体が弱くて普通の人のように労働ができない人にとっては、ホームレスになることが現実味を増してしまうのだろう。

会社の倒産、リストラ......それぞれの理由

私が取材をしているのは荒川河川敷に暮らすホームレスだが、他の地域のホームレスたちも当然、それぞれに事情を抱えている。

「下町ぶっとびTV」というドキュメンタリーのYouTubeチャンネルには、給料をもらえず、会社を転々として、ホームレスになった江戸川河川敷のホームレスが登場する。

最初は大工に弟子入りをしたが、親方に借金があって、弟子に給料を払えなくなった。
次に入った会社の社長は元暴走族で、いろいろと問題があり、会社がつぶれた。
転職して型枠大工の仕事を始めたが、今度は社長が酒を飲み過ぎて死んでしまったそうだ。
その後は再就職をあきらめ、ホームレスになることを選んだという。

一方、20年以上前の日本のテレビのドキュメンタリーで、新宿の親子ホームレスを取り上げたものがあった。
親子は栃木県のホテルで一緒に働いており、父はそこの副支配人も務めていたが、息子は軽い知的障害があった(母は息子が3歳の時に離婚しており、家を出ている)。

親子は共にホテルにリストラされ、家賃が払えなくなって、やむなく上京する。
東京の親戚を頼ったが、結局、夜はシャッターが降りた後の階段の踊り場で過ごし、昼は飲食店の裏に捨てられていた食べ物で空腹を満たす生活になったという。

絶望から希望への「緩衝期」が得られるはず

日本人が他人に迷惑をかけないことを重視しているのは、よく知られている。
自分が困っていて、生活を維持できないような場合でも、他人に助けを求めるより自殺を選んでしまう人がいる。
本当に他に選択肢はないのだろうか。

そんな時は、ホームレスになろう――。
極端な意見に聞こえるかもしれない。もちろん、路上生活を誰にでも推奨するわけではないが、これまで荒川河川敷で交流と取材を続けてきた私は、それも1つの道だと信じている。
ホームレスになることで、絶望から希望への「緩衝期」が得られるはずだ。

キリスト教には「神は扉を一つ閉じれば、必ず窓を一つ開けてくださる」という教えがあるという。日本ではこの窓が「ホームレスの窓」なのではないか。
窓の向こうには、お金がなくても、生きていける世界が広がっている。

私が言いたいことは、ホームレスという存在は、さまざまな理由で人生に行き詰まった人々の貴重な命を延長することに直結しているというものだ。

趙海成(チャオ・ハイチェン)
posted by 小だぬき at 10:00 | 神奈川 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

日本の評価を落とす「薄っぺらい商売」…観光地で「日本人が食べたことがないメニュー」を提供する歪さ

日本の評価を落とす「薄っぺらい商売」…観光地で「日本人が食べたことがないメニュー」を提供する歪さ
2024年12月21日 SPA!

 外食産業専門コンサルタントの永田ラッパと申します。
「日刊SPA!」では、これまで30年間のコンサルタント実績をもとに、独自の視点から「食にまつわる話題」を分析した記事をお届けしていきたいと思います。今回のテーマは、「インバウンド向けの外食・中食産業」です。

◆インバウンドを意識するのは良いのだが…

 新型コロナウイルスの影響で激減していた訪日外国人の数も、2022年ごろから回復傾向にあり、インバウンドビジネスも好調のようです。
とくに日本の食べ物は外国人に人気があり、インバウンド向けに展開している日本の外食・中食産業も好調を維持しています。

 多くの外国人が日本の食文化に触れ、それを満喫してくれるのは私たちにとっても嬉しいことです。
しかし日本の食を提供する側の飲食店などの動きを見ていると「それでいいのか?」と、疑問に感じることもあります。

 外国人に人気の日本の食スポットは、東京ならば豊洲千客万来や築地場外市場、大阪ならば黒門市場、京都なら錦市場などがあります。どこもインバウンドを意識しているのですが、何か勘違いをしてはいないかと感じることがあるのです。

◆「千客万来と築地場外市場」で外国人客の表情が全然違う

 先日、豊洲千客万来に行ってみたのですが、楽しそうにしている外国人客がほとんどいないという印象を受けました。
例えば3階はフードコートになっていますが、買ってきたものをそこで食べている人よりも、疲れた顔で休憩している人のほうが圧倒的に多かったのです。
そしてそのあと、今度は築地場外市場に行ってみました。
するとそこにいる外国人客の多くはとても楽しそうにしていたのです。この差は何でしょうか?

 また、京都の錦市場に来ている外国人がとても楽しそうにしていたのに比べて、大阪の黒門市場に来ている外国人はそうでもない……。そんな印象でした。一体それはなぜなのでしょうか。

◆ニーズに応えていないインバウンドビジネス

 一番重要なのは、お客さんが楽しんでいるかどうか、ということです。
飲食業に限らず、サービス業に携わる者は、お客さんが何を望んでいるか、どうすれば楽しんでもらえるかということを大切に考えなくてはなりません。

 私たちも外国へ行ったときは「せっかく来たのだから」と、そこでしか味わえないもの、その土地ならではのものを食べたいと思います。
来日する外国人の多くもそれと同様に、日本の歴史や文化に触れたいと思っています。
食についても、いままで知らなかった日本の伝統的な家庭料理や屋台料理を味わいたいと思ってやってくるのです。

 ところが昨今のインバウンド向けの飲食店のメニューを見ると、串に刺さった鰻の上に牛肉やウニやイクラがのっかっている……といったような、日本人すら食べたことがないようなものを提供しているところが多いのです。
それは果たしてお客さんの立場に立ったものなのでしょうか。
外国から来たお客さんに、それが日本の伝統食などと思われてしまっても困るというものでしょう。

◆「外国人が本当に触れたかった日本食」は簡単なものが多い

 価格を上げるために、日本人が食べたこともないようなものを作って提供する。そこからヒット商品が生まれる可能性は否定しません。しかしそれは外国のお客さんで“実験”するべきではありません。

 私は高価格のものを提供すること自体を否定するつもりはありません。
しかし鰻に牛肉をのせてインバウン丼……などという名称で提供するような、安っぽい小手先のものであってはならないでしょう。

 ではどんなものならばいいのか。
例えば、日本人も憧れる神戸牛などの和牛。
それがステーキでもすき焼きでも楽しめる、和牛の楽しみ方がすべて詰まったゴージャスなコースを設けるのです。
そして「これは日本人にとっても贅の限りを尽くした和牛コースです。
せっかくいらしたのですから日本の和牛料理を存分にお楽しみください」と、客単価1万円のお店が2万円で提供するというのは、私はアリだと思っています。

 またこの1〜2年で、日本に来た外国人にとって満足度の高い日本食は、ネットなどからもある傾向をつかむことができます。
それは意外にも簡単なものが多いのです。
寿司や刺身、鰻はもともと人気がありましたが、トンカツ、ジャパニーズカレー、煮魚、クリームコロッケなどは最近、外国人の評価が高まっています。
こういったことをしっかり調べれば、奇をてらうことなく、ニーズに応えることはできるのです。

◆日本の価値を下げる「浅はかなインバウンドビジネス」

「せっかく日本に来たのだから」というお客さんの動機に寄り添うことをせず、「売れるから」というだけで日本人が食べたこともないものを提供する点に、いまのインバウンドビジネスの薄っぺらさを感じずにはいられません。

 前出の豊洲千客万来と築地場外市場、黒門市場と錦市場。なぜお客さんの笑顔に差が生まれてしまうのか。
例えば築地場外市場には古くからやっている老舗の寿司店や惣菜店があります。そういうところは昔から変わらない本質的なビジネスでインバウンドに向き合っています。

 錦市場は近くに祇園や四条河原町などがあり、エリア全体が観光地になっています。
錦市場はその中の“ワンシーン”であり、お客さんにとってのウェイトは小さいのかもしれません。
お祭り感覚で錦市場の屋台グルメを味わい、昼食や夕食は別のところですませているというケースもあり、それで差別化ができているのでしょう。

 自分たちはどんな環境でどんなビジネスでお客さんのニーズを満たしているのか、もっとしっかりと考えて取り組む必要があります。浅はかなインバウンドビジネスでは、かえって海外での日本の評価を落としてしまいかねないと危惧しています。

<TEXT/永田ラッパ>
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする