2024年12月28日

緊張する場で平常心が保てる人・保てない人の差

緊張する場で平常心が保てる人・保てない人の差
焦る・不安な気持ちになるときの「心の仕組み」
和田 秀樹 : 精神科医
2024/12/27  東洋経済オンライン


真面目な人や繊細な人ほど、人前に出ると緊張したり、アガってしまったりして、本来の実力を発揮できないことがあります。
男女を問わず、こうした悩みを抱えている人はたくさんいると思います。

どうすれば緊張せずに、本来の自分でいられるのか?
どうしたら焦らずに、本領を発揮できるのか? 

精神科医の和田秀樹氏が、精神医学や心理学の視点から、新刊『仕事も対人関係も 落ち着けば、うまくいく』をもとに、3回にわたり解説します。

平常心を保てない理由とは?

平常心とは、普段通りの落ち着いた心の状態を指します。
平常心を保てれば、緊張するような場面でも、リラックスして本来の実力を発揮することができますが、平常心でいるというのは、意外に難しいことです。

私たちの日常には、感情を高ぶらせる要素があふれているため、ほんの少しのことで、気持ちが落ち着かなくなるからです。

どうすれば、平常心を保つことができるのか?
 ここでは、緊張したり、不安な気持ちになる「心の仕組み」(心理メカニズム)に焦点を当てます。
平常心を保てないのは、周囲の人たちではなく、実際には自分の考え方に原因があることがほとんどです。

私が精神科医として用いている治療法のひとつに「森田療法」があります。
森田療法とは、精神科医の森田正馬先生によって創始された精神療法で、不安や恐怖を排除するのではなく、「あるがまま」に受け入れることによって、症状の安定化を目指すという療法です。

森田療法では、不安が強い人というのは、「欲望」が強い人と考えられています。

会社の健康診断を受けて、何かの項目で引っかかったら、あなたはどうしますか?
 血圧が少し高いとか、尿酸値がわずかに上がったときの反応は、大きく2つに分かれると思います。

「これは大変だ!」と慌てて病院に駆け込む人もいれば、「少しくらい数値が高くても大丈夫だろう」とノンビリと構えている人もいます。

大慌てで病院に行く人は、「健康でなければならない」とか、「すべての数値が正常であるべきだ」と考えていますから、少しの数値の変化に動揺して、すぐに不安な気持ちになります。

「多少の問題があっても、気にする必要はない」と考える人は、気持ちが焦ることはなく、不安になることもありません。
森田療法では、この違いを「生」に対する欲望の差……と考えています。

「生」に対する欲望が強ければ強いほど、「死」に対する不安が強くなります。
「まだ死にたくない」とか、「死ぬのは怖い」と考えるから、健康診断の結果に動揺して、不安な気持ちになります。

極端なことをいえば、「いつ死んでもいい」と思っている人であれば、死の不安を感じることはないのです。
「生」に対する欲望が極端に強いことが、不安になる原因の1つといえます。

人に嫌われてもいいと思えば、緊張は和らぐ

入学試験のケースで考えてみると、試験に落ちるのが不安で仕方がない人というのは、絶対に合格したいと思っている人です。
「合格したい」という欲望が強いから、「不合格になったら、どうしよう……」という不安を抱え込むことになります。

同じ学校を受験しても、それが「記念受験」(合格する見込みがない、記念のための受験)であれば、緊張や不安を感じることなく、気楽に臨むことができるのです。

健康でありたいとか、希望する学校に合格したいという思いは誰にでもありますから、緊張したり、焦ってしまうことを良し悪しで考える必要はありません。
大事なのは、自分の欲望が強いから、不安になるのだな……という心の「仕組み」を理解して、前向きな気持ちで不安と向き合えばいいのです。

その不安にどうしても耐えられなければ、欲望のテンションを意識的に下げることによって、その不安から解放されます。

日本人の場合は、「周囲から嫌われてはいけない」という強い欲望があるため、少しのことで不安になったり、焦ったりします。
「少しくらい、人に嫌われてもいい」と考えることができれば、それに応じて、緊張や不安を和らげることができます。

欲望のテンションを下げるとは、これまでとは違う視点で物ごとに向き合って、少しだけ考え方を変えることを意味しています。

インターネットやSNSの普及によって、現代は情報過多の時代になっています。
便利になった一方で、新たな問題も起こっています。
情報を知りすぎることで、考えることが多くなり、どうしても不安になってしまう傾向があることです。

例えば、ネット上には無数の健康情報がアップされていますが、間違った情報や、最新の科学で否定されている古い情報がアップデートされないまま掲載されていることが少なくありません。
そうした情報に振り回されて、不安を抱え込む人が増えているのです。

ネット上では、海外の医学論文や数値データなどを引用して「エビデンスがある」などと紹介されているため、多くの人が知識として知っているものの、その大半は新たな研究成果が追加されていないのが現状なのです。

現在の日本には、「これを食べたら身体に悪い」とか、「これを飲んだら害がある」という情報が氾濫しているため、情報が少ない時代であれば、心配しなかったようなことまで気にするようになり、情報を知った途端に心配になって、不安を高めているといえます。

理系の人が文系の人より焦らない理由

人の考え方には、「文系思考」と「理系思考」の2種類があります。
文系思考とは、人間関係やコミュニケーションを重視して、言葉の意味を深くとらえ、物ごとの背景や感情的な部分にも目を向ける考え方を指します。

一方の理系思考とは、データやエビデンス(客観的な根拠)を重視して、論理的に筋道をハッキリさせる考え方のことをいいます。
私は文系の人よりも理系の人の方が不安になったり、焦ったりすることが少ない傾向にある……と考えています。

仕事も対人関係も 落ち着けば、うまくいく

その理由は、理系の人には、「実験は失敗するものだ」という考え方が前提があり、いくら失敗を重ねても、最後に成功すればいい……という発想ができるからです。

例えば、ロケットの発射実験に失敗した映像がテレビで放送されると、理系の人は、「成功に向かって歩みを進めている段階だな」と解釈しますが、放送では「日本がまた失敗した」という深刻なトーンの扱いになります。

これはテレビ局のスタッフの大半が、私立文系出身者であることが関係しているように思われます。

理系と文系という区分けに明確なエビデンスがあるわけではなく、あくまでも性格的にどちらかの傾向が強いか……ということですが、文系思考の人よりも理系思考の人の方が、失敗やアクシデントに対する「耐性」があるといえます。
posted by 小だぬき at 00:00 | 神奈川 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする