開催まで2カ月を切ったのに…巨額の公費をつぎこんだ大阪万博が盛り上がりに欠けるワケ
2025年02月20日 PRESIDENT Online
開催まで2カ月を切ったのに…巨額の公費をつぎこんだ大阪万博が盛り上がりに欠けるワケ
大阪・関西万博が2025年4月13日、ついに開幕する。
『ルポ 大阪・関西万博の深層 迷走する維新政治』(朝日新書)の執筆を担った朝日新聞記者の箱谷真司さんは「大阪への注目が高まるのは嬉しいことだが、巨額の公費をつぎ込んだからには成果は厳しく問われるべきだ」という――。
※本稿は、朝日新聞取材班『ルポ 大阪・関西万博の深層 迷走する維新政治』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
■シンボルは344億円の「世界一高い日傘」
海風の心地よさをかき消すような、強い日差しが注いでいた。
数分歩くとシャツに汗がにじみ、秋の訪れはまだ感じられない。
2024年10月11日午後3時。大阪湾に浮かぶ人工島・夢洲(ゆめしま)(大阪市此花区)では、開幕が約半年後に迫った大阪・関西万博の会場建設が急ピッチで進んでいた。
目を引いたのが、万博のシンボル・大屋根リング。
1周2キロ(直径675メートル)で、高さは12〜20メートル。世界最大級の木造建築物とされ、会場中心部を取り囲むように建つ。
建設費は344億円に上り、野党の国会議員が「世界一高い日傘」と批判するなど、物議をかもした。
リングの75段の階段を上がり、来場者が歩ける空中歩廊に着いた。
すでに1周はつながり、芝生を張る作業が続いていた。
そこから会場中心部を見渡すと、「万博の華」と言われる各国のパビリオン(展示館)を建てる現場が見えた。
完成した海外パビリオンはなく、大半は鉄筋の足場が組まれていた。
数十のクレーンが立ち並び、重機の鈍いエンジン音や「カンカンカン」と金属をたたく音が響く。
長袖・長ズボン姿の作業員らは、木製の板を運んだり、施設の外装をチェックしたりしていた。
■コンセプトは「未来社会の実験場」
「準備はこれから正念場を迎える。建設工事は順調に進んでいるが、開幕までにしっかり間に合うよう気を引き締めたい」
万博を主催する2025年日本国際博覧会協会(万博協会)の副事務総長・高科淳はリング上で、報道陣にそう話した。
2カ国のパビリオンが着工していなかったが、開幕までに工事が間に合わないと申し出た国はないという。
成功のために欠かせない前売り入場券の売り上げは、この時点で約700万枚。
開幕までの目標の半分ほどにとどまっていたが、「魅力的なコンテンツがたくさんあるので、ちゃんと届く形での発信もしっかりやりたい」と語った。
万博には大規模で総合的なテーマを扱う登録博(旧一般博)と、規模は比較的小さくて特定のテーマに絞った認定博(旧特別博)がある。
今回は登録博で、日本では1970年の大阪万博、2005年の愛知万博に次いで3回目となる。
テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」で、コンセプトは「未来社会の実験場」。
約160カ国・地域が参加して、自国の科学技術や文化、歴史を伝える。
パナソニックホールディングスや住友グループなど13企業・団体のパビリオンもある。
メディアアーティストの落合陽一ら8人のプロデューサーも、それぞれパビリオンを手がける。
半年の期間中に、350万人のインバウンド(訪日外国人客)を含めて2820万人の来場者を見込んでいる。経済波及効果は2兆〜3兆円とはじいた。
■「負の遺産」とも呼ばれた会場の夢洲
会場の夢洲は、人気観光地のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)や海遊館(水族館)から数キロ圏内にある。
広さは阪神甲子園球場約100個分(390ヘクタール)で、万博ではその約4割(155ヘクタール)を使う。
夢洲はかつて、大阪市が湾岸部に開発をめざした「新都心」の一部として位置づけられたが、バブル崩壊によって計画は頓挫した。
2008年に開催をめざした「大阪五輪」の選手村の建設予定地にもなったが、誘致合戦で北京に敗れた。
廃棄物などの埋め立て地として本来の役割は果たし続けてきたが、埋め立て後の本格的な活用策はなかなか定まらず、「負の遺産」とも呼ばれた。
そんな夢洲への万博誘致を推し進めたのが、大阪維新の会だった。
東西2極の1極を担い、成長する大阪をめざすべきだと訴える地域政党だ。
■大阪経済の起爆剤として浮上した一手
当初のかけ声は、「東京五輪後の経済の起爆剤に」。日本は1964年に東京五輪、70年に大阪万博を開き、国中が沸いた。
そんな高度経済成長期の夢を再び追うかのように、大企業の東京への流出などで衰退した大阪経済を底上げする一手として浮上したのが、今回の万博だった。
維新と「蜜月」を築いた安倍政権も、開催を後押しした。
2018年の博覧会国際事務局(BIE)総会で開催が決まると、祝福ムードが大阪を包んだ。
私は1991年に生まれ、大学卒業までの22年間、関西で暮らした。
朝日新聞の記者になってからは北海道、茨城、東京で計7年勤め、2021年4月から大阪を拠点にして、万博の取材を続けている。
久しぶりに関西に戻った当初は、コロナ禍のまっただ中。
「ステイホーム」「三密(密閉・密集・密接)の回避」が叫ばれ、社会活動の本格的な再開がまだ見通せなかった。
万博をめぐっては、コロナ禍の影響で参加国・地域を増やすための誘致活動の遅れが問題になっていたが、世の中の大きな関心事ではなかった。
■万博開催への相次ぐ疑問と批判
空気が変わったと感じたのは、2023年7月だった。
各国が独自に建てるパビリオンの建設遅れが表面化し、国民から大きな批判を招いた。
さらにその後、公費が3分の2を占める会場建設費の2回目の上ぶれが決まり、当初想定の2倍に近い最大2350億円に膨らんだ。建設の現場では爆発火災が起きた。
近年はインターネットが発達し、世界中の情報を手軽に知ることができる。
海外旅行も昔より普及した。そんな時代に万博を開く意義についても、疑問の声が相次いだ。
細胞(赤色)と水(青色)をモチーフにした公式キャラクター「ミャクミャク」が腕を突き上げるポスターは街中にどんどん増えたが、開催に向けた機運はなかなか高まらなかった。
大阪で強い地盤を誇る維新も、万博への批判が一因となって低迷する。
府内の首長選などでは、公認した候補が相次いで敗れた。
大阪維新の会を母体とする国政政党・日本維新の会は一時、野党第1党をうかがう勢いだったが、立憲民主党や国民民主党が躍進した24年10月の衆院選で、議席を減らした。
■巨額の公費をつぎ込んだ成果のゆくえ
大阪・関西万博は2025年4月13日、ついに開幕する。
有名歌手のコンサート、大相撲、花火大会……。パビリオンでの展示以外にもさまざまな催しがあり、「明るいニュース」を見聞きする機会も増えると思う。
関西出身の私にとっても、大阪への注目が高まるのは嬉しいことだ。
一方で、巨額の公費をつぎ込んだからには、成果は厳しく問われる。
人口減が急速に進むなか、お金や人材といった限られた資源の使い道は、これまで以上に真剣に考えないといけない時代だ。東京五輪をめぐる談合事件を受け、巨大イベントの開催に厳しい視線が注がれている状況でもある。
万博が終われば、主催側は「成功」をしきりにアピールするだろう。
だがそれを額面通りに受け取って良いのか、公費に見合うイベントだったのか、貴重な機会を十分に生かし切れたのかは、一人ひとりが考えるしかない。
(朝日新聞取材班)