都内ではスギ花粉の飛散がピーク入り 今年の傾向と対策を紹介
2025年03月01日 集英社オンライン
春めき始めた都内ではスギ花粉の飛散がピーク入り。今や国民病とも言える「花粉症」、今年の傾向や対策について、花粉症治療に詳しい日本医科大学学院医学研究科の大久保公裕先生に話を聞いた。
■花粉症が低年齢層で増えているのは外遊びをしなくなったから
くしゃみ、鼻水、鼻詰まり、目のかゆみなどつらい花粉症の症状。花粉症とは、スギやヒノキなどの花粉が体内に入った際に起こるアレルギー性の症状のことを指す。
花粉が鼻や目の粘膜に入ると、体が異物(アレルゲン)と認識し、ヒスタミン等のアレルギー症状の原因物質が生成される。原因物質が神経や血管に作用、くしゃみや鼻水、目のかゆみなどが引き起こされるのだ。
環境省による「花粉症環境保険マニュアル2022」(10年毎に調査を実施)によると、全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした鼻アレルギーの全国調査では、花粉症の有病率は、1998年は19.6%、2008年は29.8%、2019年は42.5%で10年ごとにほぼ10%増加している。
特に低年齢層で有病率が増加している理由のひとつに、生活様式や食生活の変化が関わっているようだ。大久保医師が解説する。
「子どもの花粉症が増えたのにはさまざまな原因はありますが、一番は生活様式の変化です。今の子どもたちは外遊びの時間が減って、砂場で遊んだり、土のグラウンドでドロドロになって遊んだりということは少なくなっています。外の細菌と触れる機会が少なくなり、免疫に変化に生じてしまい、花粉に免疫反応を起こす子が多くなったと言われています。
今後ますます花粉症の子どもは増えていくので、全体的に花粉症の有病率は上がっていくことは確実です」(大久保公裕先生、以下同)
■温暖化により高止まりする飛散量
東京都が発表している令和6年度東京都花粉症対策検討委員会の飛散花粉数の経年変化(図1)によると、2023年からほぼ横ばいになっているのがわかる。
「夏が暑かった翌年はよく飛散する」「表裏がある(飛散量が多かった翌年は少ない)」と言われているが、近年異常な暑さが続く影響で、飛散量は高止まりしてしまっているのだ。
「花粉症の大きな原因となっているのは、1960年頃に最も多く植えられたスギとヒノキの人工林です。これらの木が生長し、成木の割合が増えていて、花粉がたくさん飛ぶのです。極端な話これらのスギが花粉を出すのをやめる2100年頃には花粉症患者は減るのではないでしょうか(笑)。
つまり今、日本で生きる我々にとって花粉から逃れる術はありません」
■加湿器を活用して室内の花粉の飛散を防ぐ
では気になる対策だが、外出時はマスクやメガネなどで体内に入り込むのは防ぐ、外出から帰ったら玄関先で花粉を払い室内に持ち込まないようにする以外に、できることがあるのだろうか?
「花粉は気をつけていても室内にも入り込みます。ただし加湿ができれば花粉は地面に落ちて飛散しません。室内が乾燥していると花粉が舞い、症状が出やすくなります。朝起きてすぐに花粉の症状がつらい人にはまず加湿器の使用をオススメします」
食生活では、腸内環境を整え免疫機能を正常なバランスに保つ食品を摂ることが花粉症対策に有効と言われている。
「研究でわかっているのは、腸内環境を整えるもの、例えば乳酸菌を含む食べ物、納豆などの発酵食、抗酸化作用のあるポリフェノールを含むココアやべにふうき茶などを摂ることで花粉症の予防につながります。免疫機能を正常なバランスに保つことが大切です」
■市販薬は第2世代の抗ヒスタミン薬を
一度発症すると、ずっとつきあっていかなければならない花粉症。
レーザー治療などさまざまな治療方法がある中で注目されているのが「舌下免疫療法」だ。
アレルギーの原因物質(スギ花粉など)を含んだ錠剤を1日1回、舌の下に1分間保持した後、飲み込むという治療法で、3年くらい継続しての治療が必要だ。
「3年以上と時間はかかり、薬を飲み続けないといけませんが、アレルギー症状のある人は試してみる価値はあると思います。特に子どもの頃から始めれば大人になってから症状に悩む時間を減らせるため、小さなお子さんにはオススメです。」
舌下免疫療法は花粉が飛散するシーズンの前に治療を始める必要があり、時間がかかるため、季節中の花粉症の対策としては、やはり薬の服用や点眼薬が一般的だ。
特に鼻水がとまらない、ムズムズするなど鼻の症状は、生活クオリティの低下や仕事のパフォーマンスに影響する場合があるので、内服薬に頼りたいところ。
「根治を目指すなら舌下免疫療法、重症患者は病院に来ていただきたいというのが大前提です。だけど花粉症に悩む全国民が耳鼻咽喉科に来られても困るのも本音。国としても軽症の患者はOTC薬(市販薬)で対処してほしいという思惑があり、第二世代の抗ヒスタミン薬を市販薬として解禁しました」
では市販薬では何がいいのだろうか。ドラッグストアにはさまざまな薬が並んでいる。
筆者の同僚に話を聞くと、
「鼻水を止める薬ってなんだか口の中が乾くイメージがある」(50代男性)
「花粉症の薬を飲むと、眠気が襲ってきて、午後の会議などで仕事にならない」(40代・男性)
というマイナスなイメージをもっている人が多いのだが、だが実際にはこれらの症状は、第1世代の抗ヒスタミン薬の特徴だ。
「アレジオン、アレグラ、クラリチンEXなど第2世代の抗ヒスタミン薬は眠くなりにくく、口も乾きづらいので、学校や仕事などがある現役世代にとっては第2世代が抗ヒスタミン薬のほうがいいと思います」(大久保先生)
実際に「花粉や黄砂など刺激の多いシーズンやじんましんが出そうなときの対応として、抗ヒスタミン薬を取り入れています。なので、以前は処方箋だったのが薬局で購入できるようになったのはうれしい限り」(50代・男性)という声もある。
「服用は症状がひどくなってからではなく、早めに飲み始めてください。また、もちろん症状がつらい場合は専門のクリニックを受診しましょう」(大久保先生)
花粉症は春に限らず、夏や秋も発症する。自宅は加湿をきちんとして、食生活は腸内環境を整える食事を心がけ、日中は花粉症薬を服用し、花粉症に負けない体づくりを心がけよう。
取材・文/百田なつき