“ポンコツ”マイナ保険証に医療側と製薬会社はひと安心?【医療のミカタ 医療のフシギ】
2025年04月05日 日刊ゲンダイDIGITAL
【医療のミカタ 医療のフシギ】#1
患者さんによく聞かれます。
「マイナ保険証にした方がいいんでしょうか?」
知りません。ただし、もし病院でちゃんと認識されなかったら大惨事です。
このままだと「マイナ保険証」は、「大阪万博」「リニア新幹線」と同じく、「令和のプロジェクトNG」へまっしぐらだと思います。
ところで、私は「個人番号カード(正式名称)」なら持っていますが、そのカードには「マイナンバーカード」などとは書かれていません。
ふつう、学校の卒業証書には「卒業証書」、運転免許証には「運転免許証」と大きくはっきりと書かれています。
どこにも「マイナンバーカード」と書かれていないのに、「個人番号カード」は「マイナンバーカード」と世間では言われているようです。ここでは「別姓」が認められているのですね。いや「通称の拡大利用」というべきでしょうか。
デジタル・トランスフォーメーションという「お題目」のもと、なかば強制的に導入された「マイナ保険証」によって、いろいろな変革があると想像していました。
例えば、現在、「センセイ、睡眠導入薬とシップ薬を処方してください!」と言われても、「出せる量や日数が限られていますよ」と説明すると、「じゃあ、近所の病院でも処方してもらえますから、出せるだけ出してください」という会話がかわされています。
こんなふうに、ひとつの医療機関で処方できる日数や量が制限されている薬剤も、病院を「はしご」すれば保険診療でいくらでも処方してもらえる状況なのですが、デジタル情報でデータが1カ所で管理されれば、それはかなわなくなるものと思っていました。
が、マイナ保険証はそういう仕組みにはなっていないようです。
実はCT検査や心電図もひとつの医療機関で保険診療で行えるのはひと月に1回だけ、となっていますが、こちらも「はしご」が可能です。
国民の医療費がかさんで健康保険の制度がパンクする、というのであれば、「高額療養費助成制度」を「御用学者会議」に諮問して改悪するのではなく、デジタル・トランスフォーメーションで一元管理して医療行為の重複があるとすれば制限すればいいのに、と誰でも思うはずです。
ただし、そんなことをすれば、とある職業団体は猛反対するでしょうし、つぶれる病院や製薬会社が続出するでしょう。
でも、現行のマイナ保険証にはそんな機能は全くなく、医療側や製薬会社は安心していることでしょう。
心臓手術を受ける患者さんも、このヘボな制度にひと安心です。
「前の病院で心臓手術を受けろと医者に言われたんですが、『今この病院で心臓手術はゼッタイに受けない方がいいですよ! 命が惜しければ』って担当の看護師さんに耳打ちされたんです」(看護師さんは、いつも患者さんのミカタなんですね)──という患者さんがいます。
受けた医療の情報が1カ所ですべて管理されることになれば、こうした患者さんの命がけの“脱出”も、元の病院にバレてしまうかも知れません。
首都圏の患者さんはたくさん病院があるので困りませんが、病院が少ない地方の患者さんは災難です。
「よそで手術を受けるんなら、もうあんたなんか一生、この病院では診ないから」
現実にこう言われた患者さんを私はたくさん知っています。マイナ保険証が間の抜けた制度で本当に良かったです!
▽南渕明宏(なぶち・あきひろ)心臓血管外科専門医、医学博士。