なぜ現代人の読解力は低下しているのか?「ちゃんと読めない・聞けない人」が急増する”7つの”
山口 拓朗 : 伝える力【話す・書く】研究所所長
2025/04/11 東洋経済オンライン
年代を問わず、日本人の「読解力」が落ちていると言われています。
文部科学省が毎年実施する全国学力・学習状況調査の令和6年度(2024年)調査では、小学6年生の国語の読解問題の平均正答率70.8%に対し、中学3年生の平均正答率は48.3%で、前年より15.7ポイントも低下しました。
これは、学年が上がるにつれて読解力の伸びが停滞、または低下している可能性を示唆するものです。
では、なぜ今、日本人の読解力は落ちているのでしょうか?『読解力は最強の知性である』より一部抜粋・編集のうえ、7つの要因を解説します。
本は読解力を養う「超実践の場」
@読書量の低下
本というのは、大量の「言葉」で構成されています。
「本を読む」とは、一つひとつの言葉や文を理解し、数万文字からなる文脈を読み解いていく行為です。
また、その本に書かれているテーマ・内容について、既存の知識(=言葉)を使いながら深く考える機会でもあります。
本は読解力を養う「超実践の場」なのです。
さらに、読書は「新しい言葉」を獲得する絶好の機会でもあります。
読解には言葉を読み解く作業が含まれるため、「新しい言葉」を獲得すればするほど、読解力は向上していきます。
ところが、文化庁の調査によると、月に1冊も本を読まない人が62.6%にのぼるとのこと。
現在、日本人の多くは本を習慣的に読んでいないのです。
読書をしなければ、大きな文脈を読み解く機会は失われ、新しい言葉の獲得も途絶えやすくなります。
読書量の低下がそのまま読解力の低下につながっているのは明らかです。
A会話量の低下
会話というのは、その場で相手の話を理解し、適切に言葉を投げ返すことで成り立つ、まさしくラリーの応酬です。
会話を通じて新しく言葉を獲得するほか、自分が持っている言葉や表現を積極的に使うことによって、読解力はもちろんのこと、言語化力全般が伸びていきます。
ですが、会話の機会が減れば、言葉のインプットとアウトプットが減るため、おのずと読解力は低下していきます。
スマホ(スマートフォン)依存、会議のオンライン化、対面での集まりの減少、テキストベースのやり取りの増加、地域コミュニティの衰退、マスク装着の普及──などの影響で、昨今、人々が直接会話をする機会が減ってきています。
家庭においても、スマホを持って(イヤホンをして)一人ひとりが自分の世界に閉じこもるような傾向が強まっています。
こうした環境の変化により、多くの人が読解力低下の危機に瀕しているのです。
Bスマホの受動的使用【思考停止】
スマホで提供されるコンテンツやサービスは、多くの場合、ユーザーに「思考させない」よう設計されています。
ユーザーを動画やゲームやアプリに没頭させることで、提供企業は利益を得ることができるからです。
また、ウェブサイトやSNSを見ていると、ユーザー一人ひとりに最適化した関連動画や関連広告が表示されます。
一見便利な「思考しなくてもよい生活」の危険
私たちは、何かを買ったり選んだりするときでさえ、自分の頭で考えていない可能性があるのです。
A地点からB地点に行く際、以前であれば、公共交通機関の時刻表、乗り換え方法などを調べ、移動中も細心の注意を払っていました(いつでも思考していました)。
しかし今では、瞬間的に移動の最短ルートや交通手段などがスマホに表示されるため、考える機会が減ってきています。
人間は思考する際、例外なく言葉を使っています。
「思考しない=言葉を使わない」です。
思考しなくてもよい生活は一見すると便利ですが、読解力という観点では危惧すべきことだらけです。
最近では、識者の間で「だらだらスマホ」や「ながらスマホ」によって脳疲労が起き、認知能力──思考力や集中力、記憶力、情報処理能力など──が低下する、いわゆる「スマホ認知症」も増えてきています。
目的なくスマホを見続けることが、読解力に悪影響を与えているのです。
C認知機能の低下
読解力と認知機能の関係は、切っても切り離せません。
認知機能とは、五感(視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚)を通じて得た情報を基に、物事を認識したり、言葉を使いこなしたり、計算・学習・記憶を行ったりする機能のこと。
この機能が低いほど、現状認識が難しくなります。
認知機能が高ければ、物事を多角的に見られる(=全方位からスキャニングできる)ため、より正確に状況を読み解くことができます。
一方、認知機能が低ければ、(自分勝手な解釈を含め)ある特定の見方に限定してしまうため、正確な状況把握ができなくなってしまいます。
加齢や病気によるものを除くと、認知機能の低下には、複数の要因が絡み合っています。
スマホの長時間使用、不規則な生活や過度なストレス状態、(マルチタスクの影響などで)ひとつの物事に集中して取り組む時間の減少、(テクノロジーの発達などで)「情報を受信し→処理し→理解し→活用する」という認知プロセスを踏む機会の減少などなど。
読解力を高めることは、衰えつつある認知機能を高めることでもあるのです。
D個人が書くチャット&SNSの文章に触れる機会の増加
普段あなたがよく読んでいるのは、チャットやSNSの文章ではないでしょうか。
残念ながら、一般の人が書くチャットやSNSの文章は、言葉としてまとまりのないものが少なくありません。
略語やスラングも多く、おかしな論理や文法、真偽が不確かな情報なども散見されます。
チャットでは、雰囲気頼りの絵文字やスタンプも多用されています。
また、SNS上の文章の場合、その物事に隠れている背景や前提などが抜け落ちていることが多く、大きな文脈を読み解く機会がありません。
「なんなん、◯◯の主人公スパダリきしょ。メンブレの身には無理ゲーすぎたwww」などというつぶやきを受動的な態度で読み続けることは、読解力アップの対極にある行為とも言えます。
E世代間コミュニケーションの減少
核家族化が進む中、異なる世代とコミュニケーションを図る機会が減りました。
たとえば、お年寄りがいる家庭では、お年寄りと話す際に、相手に伝わる言葉を使おうと工夫するほか、お年寄りの話を聞くときは、その言葉を理解しようと、一所懸命に耳を傾けるでしょう。
自宅に固定電話を持つことが主流だった時代には、家族への〈電話の取り次ぎ〉もありました。
あれなども、突発的に世代を超えて人と会話をする機会だったと言えます。
もちろん、世代が違えば、興味・関心が異なるので、話題も違います。
世代を超えて行われるコミュニケーションというのは、同世代とのやり取りには登場しない言葉や情報、価値観などに触れる絶好の機会でもあるのです。
世代間のコミュニケーションが減少し、今まで日常会話の中で自然と行われてきた読解力の鍛錬の機会が減ってきているのです。
Fアウトプット不足
いくら情報(言葉や知識)をインプットしても、それをまったくアウトプットしなければ、その情報を自分のものにすることはできません。
「書く」「話す」というアウトプットによって、私たちは、その知識や学びを「使える言葉」として自分の血肉にすることができるのです。
借り物ではない「自分の言葉」でアウトプットを
自分の血肉になっていなければ、次回以降、同様の情報を読み解く際に苦戦を強いられます。
たとえば、SNS上では、流れてきた投稿を「なんとなく良さげだから」とシェアし、物事を読み解いた気になってしまっている人も大勢います。
しかし、残念ながら、それはアウトプットではなく、情報の受け売りにすぎません。
そこからは、文脈を論理的に読み解くプロセスが抜け落ちており、思考力も使われていません(思考停止しながらシェアボタンを押している状態です)。
読解力を高めたいなら、目の前の情報を咀嚼し、自分の頭でその意味や意図について考え、借り物の言葉ではなく「自分の言葉」でアウトプットすることが重要です。
山口 拓朗 伝える力【話す・書く】研究所所長