2012年01月22日

どうか中庸の寒であってほしい

天声人語
2012.1.22   朝日新聞

 「冷たい」という言葉は「爪が痛い」から来ているのだという。

国語学者の故・金田一春彦さんによれば、「爪」とは今の爪ではなく、昔は指先全体を言ったそうだ。

たしかに、冷たさは、寒さと似ているようで違い、指の先から伝わってくる

▼東京郊外に積もった雪は、きのうの朝には消えていた。続く氷雨は冷たかったが、この程度の雪でニュースになるのが雪国に申し訳ない。わずか数センチなど、豪雪の地ならちりが舞ったほどだろう

▼北海道の岩見沢市では先日、観測史上最高の194センチの積雪を記録した。旭川市郊外では一昨日に零下30度を下回った。季節は二十四節気の大寒を過ぎて、冬将軍の吐く息はいよいよ白い。次の週も日本海側は雪の予報が連なっている

▼この国では、陽光に恵まれた冬晴れ地帯と雪国とが背中を合わせている。たとえば上越国境を抜けるのに列車で1時間とかからない。そのわずかな距離で、人々の暮らしも、雪を見る目も一変する

▼古典をひもといても、〈いざさらば雪見にころぶところまで〉と江戸の芭蕉は雪で童心に帰る。片や雪国の一茶は「白いものがちらちらすれば、村人らは、悪いものが降る、寒いものが降ると口々にののしりあう」と雪を憎む。〈雪ちるやおどけも言へぬ信濃空〉といった句も詠んだ

▼この意識の差は、今も根っこでは変わらないように思う。冬のきびしさに磨かれた北国の民俗風土は美しいが、それとて暖地の感傷かもしれない。どうか中庸の寒であってほしい。
posted by 小だぬき at 07:33 | Comment(0) | TrackBack(0) | 雑記 その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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