2012年01月25日

香山リカのココロの万華鏡:力を過信する危険 

香山リカのココロの万華鏡:
力を過信する危険 
毎日新聞 2012年1月24日 東京地方版

 精神科医としてはまだまだ半人前の私は、よく先輩精神科医たちが一般の読者のために書いたエッセーを読む。

そこには「自分自身のこと」が書かれているからだ。

私の場合、いつも「私と同い年で国際ボランティアに! すごい」と驚いたり、「私より百倍、真剣に診療してるんだな」と落ち込んだりしてしまうのだが。


 最近、読んだ中での圧巻は、精神科医にして作家の加賀乙彦さんの半生記ともいえる「科学と宗教と死」であった。

戦後、精神科医となって犯罪学の研究や臨床に打ち込んだ加賀さんは、死刑囚の心理などに取り組む中で、ある真実に気づく。本文から引用しよう。 

「その頃わかってきたのは、心理学というのは非常に重要な学問ではあるけれども、限界があることです。ある程度人間を、心理学用語で分類し整理しないと診断がつきません。
ところが人間にはそういう既成の概念では整理できない、海の底のような深みがある。
それは『心理』という言葉では言いあらわせません。『魂』というような、もう少し複雑なものが心理を支えているのではないかと思うようになったのです」


 科学や医学をきわめた人の言葉だけに、そこにはたいへんな重みがある。その後、加賀さんは、次第に小説の世界やキリスト教を中心とした宗教の世界に接近していく。


 本書の中で加賀さんは繰り返し、人間が自らの力を過信して傲慢不遜になることの危険性を訴えている。それは震災からの復興に際しても同様だ、と言う。


 「祈りの気持ちを忘れて、自分たちの、人間の力だけで頑張るんだということでは、私は今回の震災の復興はおぼつかない気がするのです」


 もちろん加賀さんは、「何をしても無駄、頼みは神だけ」などと言いたいわけではない。

ただ、どんな優秀な専門家でもリーダーでも「私の知っていること、できることはほんのわずか」と自覚して謙虚になり、自然、自分以外の人々や命に対して謙虚にならなければならない。
そうしなければとんでもないカン違いに陥り、結局は世界を巻き込むたいへんな失敗をしでかす危険性がある。

自らの戦争体験も踏まえつつ、加賀さんはそう警告したいのだろう。


 「まったくその通り」とうなずきながら、私は思った。


 「精神科医としてこれからやって行く中で、私もいつかこれほど重要なメッセージを発することができるだろうか」。とてもムリだと思うが、こうして大先輩の言葉を伝えられるだけでもまあ合格にしておこう。

posted by 小だぬき at 11:33| Comment(0) | TrackBack(0) | うつ病について | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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