2012年4月6日 東京新聞社説
新しい学校生活がスタートしている。身の回りの顔触れも入れ替わる。
でも、東日本大震災が残 した重い教訓は忘れまい。きっと来る「いざ」に備え、子どもの生き抜く力を最優先で育みたい。
最近相次いで公表された首都直下地震や、東海、東南海、南海の巨大地震の予測データにはぞっとさせられる。揺れの強さや津波の高さが大幅に上方修正され、これまでの想定がことごとく塗り替えられたからだ。
学校や家庭、地域の防災意識を今以上に高め、子どもを守る手だてを見直す契機にしたい。
大震災では六百七十人を超える子どもたちが犠牲になった。
文部科学省の中央教育審議会が三月に答申した「学校安全推進計画」はその反省に立ち、子どもの死者を出さないことを目標に掲げた。
肝心なのは、ピンチを切り抜けて生き延びる知恵や工夫だ。どうすれば危ない目に遭わないか自ら考え、素早く動く。子どもがそんな主体性を身につける安全教育が必要だと答申は提言した。教科としての創設を検討すべきだ。
手本とされるのが岩手県釜石市の取り組みだ。小中学生三千人のほぼ全員が津波から逃れ、無事だった。
指定の避難場所では危険とみてさらに高台に上った。小学生の手を引いたり、ベビーカーを押したりして走った中学生もいた。
釜石市の防災教育に携わる群馬大大学院の片田敏孝教授は、普段の想定にとらわれず「率先避難者たれ」と教えた。子どもが逃げると知っていれば周りの大人も避難を優先し、大勢が助かる。“奇跡”を生んだ考え方に学びたい。
大震災の津波は、明治と昭和の三陸大津波を教訓に造られた防潮堤さえ突破した。
災害予測や避難方法の固定観念にかえって足をすくわれかねないことを物語る。
東京都調布市は、毎年四月の第四土曜日を「防災教育の日」と定めた。
初めてとなる二十八日には全公立小中学校で保護者や住民が参加して防災訓練をする。
学校ごとのシナリオに従って一斉避難や保護者への子どもの引き渡し、避難所開設を試みる。人命を守るのに最善の動きや約束事を確かめる。
専門家の協力を得て、地域ぐるみでシナリオを検証し、安全教育を練り上げることは望ましい。
子どもを通して家庭や地域へと臨機応変の防災力を押し広げたい。