2012年04月16日

開かれた地域基盤に 新しい共同体像を探る 内山節さん(哲学者)



開かれた地域基盤に 新しい共同体像を探る 内山節さん(哲学者)
2012年4月7日   東京新聞

 群馬県上野村は、険しい山野が面積の九割以上を占める。
上信(じょうしん)電鉄線の終点・下仁田(しもにた)駅から車で三十分余り。
哲学者内山節(うちやまたかし)さん(62)の家に向かう山道で、猿が数匹、のり面を駆け上るのが見えた。間もなく、八軒の集落が現れた。
 「猿はこの庭で二十匹ぐらい騒いでいることもありますよ。家に夜戻ると、カモシカが待っている。
動物の領地に人間が住まわせてもらっているんです」。
築百年という家の前で、愛車の冬用タイヤを汗ばみながら付け替えていた内山さんが、笑って出迎えてくれた。


 杉や楢(なら)の木が茂る裏山と約四百平方メートルの畑も自ら所有する。新年には、各地から集まる仲間と百臼近くの餅をつき、近所に配る。納屋には杵(きね)や臼、チェーンソーや農具が所狭しと並ぶ。自分の墓も庭に建てた。


 「私が初めてこの村に来た一九七〇年ごろは、『自然なんか飯の種にならん。開発して人間の役に立つようにする』という考えが主流でした。
『個の確立のために封建的な共同体は打破すべきもの』という思想も一般的だった。でも、自然と一緒にみんなで助け合いながら生きていくこの村の社会が、私にとっては非常に魅力的だったんです」


 都立高校を卒業後、組織に属さずに哲学を学んでいた二十歳すぎの内山さんは、たまたま釣りをしに来たこの村が気に入り、年間の三分の一を村で過ごすようになる。
東京の自宅と、ほかの移動先が残りの三分の一ずつ。そんな生活を長年送ってきた。


 内山さんの新刊『ローカリズム原論 新しい共同体をデザインする』(農文協)は、震災後の昨年四月から七月にかけ、立教大大学院で社会人学生らに語った講義録をもとにしている。
昨秋に刊行した『文明の災禍』(新潮新書)に続き「ポスト3・11」の日本を考える手掛かりとなる一冊だ。


 ローカリズムは、小さな地域や共同体の独自性を重視し、それを基盤として生きていこうとする考えを指す。市場経済を全世界に広げるグローバリズムの逆を意味する。上野村の生活を通じ、内山さんが身体で学んだ思想と言っていい。


 「震災後、社会の基盤は結局ローカリズムにあるということが、より強く感じられるようになったと思います。
日本のGDPが戻っても復興にはならない。それぞれの人たちの生きる地域が、再び確立されなければいけない」


 『ローカリズム原論』で内山さんは、周囲との「関係性」をつくることを人間の本質ととらえ、「共同体」が人間にとって持つ意味を問い直していく。


 「ヨーロッパと異なり、日本の共同体には死者と周囲の自然が含まれていた。
上野村の葬式は今でも半分ぐらい、家族ではなくて共同体がやる。それは共同体が死者の思いを受け継ぐということです。
人のつながりは、今の人間同士がつながる横軸のほかに、過去と現在と未来をつなぐ縦軸がある。共同体には縦軸をつなぐ役割があると思います」


 内山さんが考える新たな共同体像は、一つの地域に閉じたものではない。


 東京・丸の内に、仲間たちがつくった「とかちの」「にっぽんの」という二つの郷土料理店がある。一つには自ら出資した。各地の農産物が食材として活用されるこの店は、地方と都会、生産者と消費者が交流する拠点として機能する。地域を主体にした社会のこれからを考える場所でもある。


 「地域を超えた、ある目的意識に基づくつながりで、これも一つの結び付きのあり方です。
上野村の人口は千四百人ですが、自分にとって村が大事な地域だと思う人を五千人ぐらいつくろうとしている。『応援団』のほうが多い。

震災後には三陸を継続的に『自分の地域』として支援する動きも出ている。地域とは居住地ばかりではありません」


 日本の比較地と定めたフランスをしばしば訪れ、ローカリズムの動きなどを見つめてきた。
最近は近代化の渦中にあるベトナムが気になり「身体で雰囲気を感じたい」と四、五日訪れたばかり。


 「現実から始まって現実に出てくるのが哲学です。知性の領域だけでやろうとしても、限界をつくってしまう。
小さな村に行くとひどく哲学的なおじいさん、おばあさんがいます。その人たちは哲学的な知識があるわけではないけれど、身体で知っている。
だから僕も身体を動かすことを含め、関心を持ったことは何でもやりたい」


 修験道とマルクスの時代についての本もそれぞれ書き始める。内山さんの仕事を見ると、哲学が「総合学問」であることがよく分かる。 (石井敬)

posted by 小だぬき at 07:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
モッピー!お金がたまるポイントサイト