2012年04月25日

「孤立死」の時代に 命への想像力をもっと

「孤立死」の時代に 命への想像力をもっと
2012年4月25日    東京新聞社説

 人知れず息を引き取り、気づかれない「孤立死」が相次ぐ。行政に対策をすべて任せても孤立は防げない。私たちに突きつけられた難問なのだ。

 東京都江東区内の都営住宅で独り暮らしの女性の救出劇があった。八十六歳で認知症が疑われたが、介護される身ではなかった。


 三月下旬の夜八時すぎ、旧知の間柄の主婦北沢紀子さん(68)宅の電話が鳴った。団地の住人が玄関先のポストに新聞がたまっているのを不審に思い知らせてきた。

 慌てて車で自宅を訪ねたが、返事がない。だが、室内からはテレビの音が漏れてくる。近くの交番で警察官の協力を仰ぎ、隣人に事情を告げてベランダ伝いに部屋に入ると、女性は倒れていた。


◆都営住宅での救出劇

 脱水症状に陥り、意識を失いかけている。救急車で病院に担ぎ込み、一命を取り留めた。転んで腰の辺りを骨折し、身動きが取れないまま三日もたっていた。


 以前、女性は風呂の水をあふれさせ、階下の住人に迷惑を掛けた。一緒に謝りに出向いた折、気がかりな点は連絡を、と頼んでおいた。
都営住宅が当たったからと近所から引っ越した後も、孤独な女性を気遣ってきたのだ。

 孤立死対策に取り組んでいる行政の担当者は、せめてこれくらいの気配りを持ってほしいものだ。


 身の回りの問題を抱えていそうな高齢者や障害者、ひとり親家庭、困窮者への配慮を怠らない。見守りの担い手を増やす工夫を忘れない。
異変情報が入れば警察や消防と共に素早く動く。


 プロ集団のはずの行政がなぜ後手に回りがちなのだろうか。「人間味が感じられない」という北沢さんの言葉が本質を突いている。


◆人間味に欠ける行政

 例えば、一刻を争う安否確認のありようだ。

三月初めに立川市の都営住宅で息絶えた母(95)と娘(63)が見つかった。自治会が「応答がない」と都住宅供給公社に通報してから一週間もたっていた。


 都営住宅には、安否を確かめるのにどんな場合に入室するかを定めたマニュアルがある。これまで六十五歳以上の単身者にのみ備えてきた。
今度の問題は想定外だったため先週になって中身を見直し、全世帯に対象を広げた。


 異臭がしない場合は、住人が部屋にいるのを確かめることが立ち入りの条件だ。
判然としなければ電気メーターや音、照明、ポストの様子を探ることなどが決められている。


 しかし、緊急事態に知りたいのは命に別条がないかどうかだ。「管理者が危ないと思ったら合鍵で入って確かめる」。そう石原慎太郎知事が言うように、マニュアル以前の人として当たり前の判断と行動だ。


 元気でいれば「無事でよかった。心配しました」で気持ちは通じるだろう。
それには地域の信頼を得る不断の努力と北沢さんのいう人間味がなくてはならない。


 行政の縦割り意識は住民の実像を見えにくくする。二月中旬に立川市のマンションで亡くなっているのが見つかった母(45)と知的障害のある息子(4つ)は、役所の四つの窓口と接点があった。


 自ら病気を患い、女手ひとつで障害児の面倒を見ることがどんなに大変か。窓口で得られた情報を互いに交換すれば綱渡りの暮らしぶりが容易に浮かぶ。想像力を働かせなくなっていた。


 立川市は役所に散在する情報を共有し、サービスの利用状況を点検したり、緊急事態に対応したりする手だてを考えるという。


 孤立死の経験から北九州市では行政が外に飛び込んでいる。地域ごとに担当者を決め、見守りや手助けが要りそうな住民の情報を足で稼ぎ、役所につなぐ。地域と二人三脚で寄り添う。


 全国的には行政が独占する弱者の個人情報を地域に提供し、見守りや安否確認に生かせないかと論議もされている。


 しかし、これほど行政に頼りきってしまう社会でいいのだろうか。孤立死は、それを防ぐのは本来、地域社会の役割ではないのかという問いを突きつけている。


◆優しい“おせっかい”

 マニュアル、合鍵、個人情報は孤立死を防ぐための道具でしかない。それを有効に機能させるのは人間だ。一人ひとりの気遣いや思いやり、そんな地域の再生こそ大切なのではないだろうか。


 北沢さんは「人間の命は情報のようなもので救われるわけではない」と言う。

 助けた女性の先行きに気をもんでいる。足腰が弱り、退院しても独り暮らしはもはや無理かもしれない。老人ホームを探さなければならないと考えている。


 地域再生は大きな課題だ。心温まる“おせっかい”を増やすことかもしれない。

posted by 小だぬき at 08:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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