=共産党委員長・志位和夫さん
毎日新聞 2012年06月18日 東京朝刊
物理学と音楽に熱中した高校時代でした。
通った千葉県立千葉高は自由な校風で、とても気に入っていました。
物理は稲葉正先生の影響です。
学校の近くにある川崎製鉄(現JFEスチール)の工場からの粉じんを問題視した川鉄公害訴訟(92年に和解)の原告団長として有名ですが、授業は、ノーベル物理学賞を取ったファインマンの理論に沿って、根本の原理から教える。
原理が分かれば公式を暗記しなくてもいい。それが「学者になろう」と思うほど面白かった。
それ以上に熱中したのが音楽です。
クラシックの和音というのは原則があり、実はとても数学に近い。
休部になっている部活を復活させ、ピアノを弾き、作曲をし、最後はOBまで動員したオーケストラコンサートをやるほど入れ込み、一時は本気で作曲家になろうと思ったんです。
しかし、こればかりは才能がないと分かってくる。
泣く泣く断念したわけです。
一方の物理学の方は、東京大工学部で勉強を続けましたが、これも才能が必要と分かってくる。
一つの方程式を見て、10個くらい飛ばして次の答えが頭に浮かぶやつがいる。ああこういうのできない、って感じなんです。
小学校教員だった父も影響を受けた「先生」です。
幼稚園か小学生のころ、父から「1も割れるんだよ。知ってる?」と聞かされました。
新しい教育法を試したのかもしれませんが、よく覚えています。
父は「わかることとできることは違うんだ」とよく話していました。
「わかる」というのは暗記して点数を取るのではなく、本当に深く理解することです。
東大時代、田中角栄内閣の小選挙区制実現に向けた動きに反対するストライキなどに参加するなかで共産党に入党しましたが、一生の仕事にすべきか物理学にこだわるべきか、卒業時には正直、悩みました。
消去法でいまの仕事を選んだわけではないのですが。
振り返ると、自分の世界の見方や考え方には、あのころ物理と音楽に打ち込んだ経験が役立っている。
真理を分かる喜び、楽しさ。
「できること」より「わかること」。
2人から、学ぶこと自体の大切さを学んだと思っています。
【聞き手・田中裕之】
■人物略歴
◇しい・かずお
1954年、千葉県四街道市生まれ。
東大在学中の73年に共産党入党、90年に書記局長に抜てきされ、93年衆院選で初当選。
現在6期目(比例南関東ブロック)。00年から委員長。