毎日新聞 2012年07月13日 福井地方版
いじめられている君へ。
おじさんの名前は伊藤雄一といいます。46歳で、新聞記者をしています。
君に伝えたいことがあって、この手紙を書きます。
学校に行くの、いやだよね。毎日毎日いじめられてさ、物を隠されたりたたかれたりするし、そのうち「家からお金持ってこい」って脅されるかもしれない。
でも、勉強しなきゃって思うから学校休むのもいやだよね。
だけど、いじめられていることって、絶対にお父さんやお母さんに言えないんだよな。「いじめられてる」って言うなんて 自分のプライドが傷つくし、それにいじめられてるなんて親が知ると悲しむと思うもんね。
「いじめられてる」って言っていじめられなくなるなら、ほんと、すぐにそうしたい。でも言えないんだ。
あいつら、先生の目が届かない学校の隅っこの方とか、先生が黒板に向いているときにちょっかいかけてくるよね。
ばれたらまずいってわかってるんだよ。怒られるし、内申点も悪くなるかもしれない。
悪いことやってるってわかってる。ひきょうだよな。
同じクラスや学校の生徒たちは君がいじめられているのを見てるかもしれないけど、どうしたらいいのかわからないのかもね。
もしかしたら、君の代わりにいじめられるかもって思ってるかもしれない。
先生はあいつらが君になにかしてるってわかってるかなあ。
いじめてるのかふざけ合っているのかわかんないかもしれないね。
君がけがしたり 泣いたりしてたら気づいてくれるかもしれないけど、それでもっといじめられるようになったらいやだから、えへへって笑ってみせたりしちゃうのかもね。
「あっ、ふざけ合ってるんじゃないんだ」って先生が気づいてくれたらいいんだけどな。
君が生まれるずっと前、「このままじゃ生きジゴグになっちゃうよ」と遺書を残して自殺した男子中学生がいました。
いま生きていれば40歳くらいのオジさんになってて、いい家族がいて働いてただろうね。
でも彼は、子どものうちに自分で死ぬことを選んだ。
おじさんはこの事件にびっくりしたし、日本中も大騒ぎになったんだけど、こないだも滋賀県でおんなじようなことが起きたね。
死んじゃった子たちは、それしか考えられなくなるまでに追い込まれてしまったんだね。
だからもし、君も「死んじゃいたい」と思ってるならちょっと聞いて。
いじめるあいつらと、いじめられてる自分と、見てるけどあんまり助けてくれない周りの人、そんな世界はちっぽけなもんだよ。それを知ってほしい。
学校って、子どものうちはそこと家とが自分の世界のほとんどなんだけど、それはとっても狭い世界だ。
一生、あんなつまんないことやるやつらと同じ学校に通うわけじゃない。
いまよりももっと広い世界が待っているんだよ。
先生や大人に「いじめられてる」って言うと、チクったって言われるかな。
でも考えてごらん、君をいじめるやつらは君の友達じゃないよ。
長い人生の中で、たまたま同じ学校に通っているだけなんだよ。
卒業して会わなくなったらそう思えるようになるよ。
もし大人の会社でいじめがあれば、それをする方を加害者、された方を被害者って呼ぶ。
学校でだって同じさ。他人に害を加えるのは加害者であって、友達なんかじゃない。チクったっていいさ。死んじゃうよりずっといい。
いじめているやつらは 君からなにか行動を起こさないかぎり、いじめることをやめないと思う。
君の周りの大人には、いじめたり いじめられたり傍観したりと立場は違うけど、いじめの現場を知っている人って結構多いんじゃないかと思うんだ。
だから思い切って誰か大人に話してみたら、「そんなんなら学校行かなくていいよ」って言ってくれるかもしれないし、先生に話してくれるかもしれない。
どうしても誰にも相談できない、言えないから死にたいと思っているとしたら、逃げちゃいなさい。不登校とか家出とかね。
おじさんがこんなふうに書くと「そんなことそそのかさないで」って怒る人がいるかもね。
でもね、死ぬよりいい。
おじさんは親より先に死ぬのは最大の親不孝だと思ってる。
学校に来ない君を捜して大騒ぎになって、その結果、あいつらが君をいじめていることがわかって、君をいじめることがなくなれば万々歳だ。
もしかしたら、いじめるあいつらから離れるために君が転校することになるかもしれない。
加害者じゃなくて被害者が出て行くなんておかしな話だけど、いじめから逃れるには、そういう方法だってあるかもしれない。
おじさんの手紙を読んで「そんなことができるならとっくにしてる」って思うかもね。
でも、おじさんの経験や聞いた話からすると、卒業してそいつらと離れたらいじめられなくなるのは本当だよ。
最後にもう一度言うよ。逃げてもいいんだよ。死んじゃだめだよ。
ito‐yu@mainichi.co.jp