毎日新聞 2012年07月17日 東京地方版
大津市の中学の男子生徒が自殺した問題で、ついに滋賀県警による強制捜査が入った。
学校や市教委への家宅捜索や教師への任意の聴取が行われ、今後、生徒への聴取も予定されている。
この中で、男子生徒の父親は県警本部に、「突然、警察から聴取を受ける生徒のケアを心がけてほしい」と要望を行った。
もちろん父親は当初から「自殺の原因はいじめ」と確信し、それが調査や今回の捜査で明らかになることを望んでいるはずだが、聴取などで生徒たちがいたずらに心の痛手を受けることは本意ではないのだろう。
事実は明らかにしてほしいが生徒たちへの配慮は忘れないで、と申し出たこの父親の気持ちを、私たちは重く受け止めるべきだ。
そして配慮が必要なのは、聴取を受ける生徒に限ったことではない。
同じ学校の仲間が自殺しただけでも大きな衝撃を受けているはずの生徒は、今回、大勢の報道陣が学校に押しかけ、さらに制服をまとった警察官が職員室に踏み込んで書類などを持ち出す姿を見て、かなり動揺していると思われる。
「誰がどんないじめをしたのか」「先生は知っていたのか」といったウワサに振り回されたり、いつもとは違う教員や保護者の様子にさらに不安を感じたりしている生徒もいるのではないか。
県の教育委員会はスクールカウンセラー2人を緊急派遣して「心のケア」にあたっているというが、事態が動いている中では落ち着いてケアをするどころではない。
もし私が派遣されたとしても、不安定になっている生徒に「少し休んだら」「ゆっくり寝てね」と言うのが精いっぱいだろう。
ここで大切なのは、学校が「いちばん大事なのは生徒」という態度を貫くことだ。
もちろん「いじめや自殺が起きたのに、何が“生徒が大事”だ」という声もあるとは思うが、それでも原理原則は「私たちの学校の子どもは私たちが守る」。
「自分たちにはお手上げです、捜査は警察に、ケアはスクールカウンセラーにお願いします」では、子どもたちは本当に学校から見捨てられたように感じ、二度と教師やおとなを信頼することができなくなる。
もう教員に期待してもムダだ、と言う前に、もう一度、言いたい。
「先生たち、いま学校にいる子どもたちを守ることができるのは、あなたたちだけなのです」