2012年09月23日

早寝早起きで生活改善、心と体の活力アップ

東海大学 小澤治夫 教授
毎日新聞インタビュー 2012.9.3

「早寝早起き朝ご飯、テレビを止めて外遊び」。
東海大学体育学部の小澤治夫教授は、元気で意欲的な子供を育てるために、規則正しい生活習慣を身につけることが不可欠だと説く。

クラーク博士の「Boys, be ambitious like this old man.(少年よ大志を抱け。この年をとった私のように)」を座右の銘に掲げ、率先して体を動かす。
63歳の今も「腕相撲は高校生に負けない」ことが自慢だ。
体力低下が言われて久しい現代の子供たちが小澤教授のような元気な大人になるにはどうすればいいか、小澤教授に聞いた。
【聞き手・毎日新聞社デジタルメディア局 岡礼子】
 

子供たちの変化に気づいたのは、どのようなきっかけですか。

90年代半ば、高校でサッカー部を指導していて、生徒がすぐに「バテる」ことに気づきました。
例えば、スタミナもスピードもあるはずの2年生の男子生徒が試合で走れない、動けない。
最初は怒ったのですが、本人は「一生懸命やっている」と言う。
ふと頭をよぎったのは、「貧血ではないか」ということでした。
病院で検査をすると、血中ヘモグロビン値が低く、貧血でした。
それでは走れないのも無理はない。
まず体を治さないとだめだと話しました。

同時に、ひょっとしてほかにも貧血の生徒がいるのではないかと考え、検査してみると部員の約4割がヘモグロビン不足。
貯蔵鉄と言われるフェリチン、血清鉄の値が低い生徒も含めると、貧血または貧血予備軍が約6割に上りました。

貯蔵鉄は、いわば「銀行預金」で、ヘモグロビンが「手持ちのお金」です。
運動する時は、ヘモグロビンがあれば使い、なくなると「キャッシュディスペンサー」で下ろします。
預金がないのに、ハードトレーニングをするとヘモグロビンを使い果たして貧血を起こしますから、預金があるかどうかが大事なのです。

この時、貧血の生徒があまりに多くて驚いたので、もっと調べてみようということで筑波大学の鈴木正成教授(当時、2011年に死去)とチームを組み、脳の温度に近いといわれる鼓膜の温度を測りました。
生徒が何時に寝て、何時に起きているかといった生活アンケートと併せて分析すると、朝食を食べた生徒は温度が高く、食べていない生徒は低いことが分かりました。また、体温が高い生徒で、通学意欲があるのは約6割でしたが、低体温の生徒では25%でした。


 なぜ、貧血や低体温の生徒が増えたのでしょうか。


 子供たちが成長するための社会、生活環境が崩壊しているのです。
それが体に影響しています。
2008年に約1万5000人の小中高生に調査したところ、高校生の2人に1人は午前0時過ぎに寝ていました。
私が高校生だった45年ほど前は、平均して午後10時半に寝て、午前6時25分に起きていました(日本学校保健会調査)。
早寝早起きで8時間の睡眠時間です。

今の高校生は平均して午前0時05分に寝て、午前6時55分に起きています。遅寝遅起きだけでなく、睡眠時間も7時間と1時間少ない。


 減った分の1時間、画面に向かっている生徒が増えていると考えています。
画面といっても、テレビだけではありません。
パソコン、電子ゲーム、携帯電話などで、今はスマートフォンです。

睡眠時間が減れば、朝起きられなくなり、朝食が食べられなくなります。栄養が足りず、貧血になっても不思議はありません。
放課後に甘い清涼飲料水を飲んだり、菓子を食べたりして血糖値だけがあがり、ご飯が食べられないことも影響しています。

疲れやすく、眠くなりやすく、気力もわいてこない。「体がだるい」「なんとなく」という理由で学校に行きたくない子がたくさんいるのです。


 宿題は面倒で、予習復習もしませんから、今の子供たちの勉強時間がいかに少ないことか。
近隣のアジア諸国はもとより、あらゆる国に置いていかれてしまいますよ。
今はまだ、家庭と社会に教育力があって、学校が教育機関としての機能を果たしていた時代に育ったわれわれがタフで、経済力がありますから、日本は大丈夫です。

でも20年後については危機感を抱いています。30年後はきわめて厳しい状況になっているのではないかと心配です。学校、家庭、社会に、これからの子供たちを健康に育てる責任があります。


 学校や家庭で、どのような対策をすべきでしょうか。


 一番主張したいのは「とにかく早く寝なさい。携帯電話やスマートフォンを見る時間を短くしなさい」ということです。
しかし、焼け石に水でしょう。携帯電話を使わないと、子供たちはコミュニティーで生きていけません。

ひとつの家庭だけで使わないようにするのは難しい状況になってしまいました。
学校や地域、自治体単位で取り組まなければ無理だと思います。
改善できた学校は複数ありますよ。

例えば、山形県の高校では、校長先生を中心に、学校が一丸となって食育、健康教育、体育に取り組んだ結果、女子で約半数、男子で約3割いた貧血の生徒が、女子1割、男子ゼロに激減しました。


 学校では、最低限、体育の時間に思いっきり体を動かすことです。
生徒たちが没頭して、汗だくになり、小競り合いが起きるくらい夢中になることが、良い授業の条件です。
夢中になれば、技術やフェアプレー精神が身につき、気づいたら体力抜群です。
跳び箱や鉄棒、マット運動などは、日本では「克服種目」で、皆さん、嫌いでしょう。
子供を跳び箱嫌いにするような授業はだめです。

「先生、楽しかった。できるようになった」。子供がそう言うような授業にしなければいけません。
学校の授業がそうあること、放課後の部活動でも保障されることが大事です。授業づくりは大事です。学校の責任は重いのです。

子供の体力低下も、生活習慣が原因ですか。


 画面を見る時間が長くなった一方、外遊びは減りました。
原因の一端には、遊ぶ時間がなく、場所(空間)もなく、仲間もいない「サンマ=3間」の減少があり、子供たちの歩数が激減しているデータもあります。
背筋力を測ると、今の高校生より、私の方が高いです。
体格は大きくなりましたが、見合った筋力がないのです。

私はいろいろな高校に講演に行って、男子生徒と腕相撲で対戦しますが、負けたことは一度もありません。
そのくらい、今の子供たちは筋力がない。
原因は、鍛えていないという直接的なものだけでなく、栄養不足、低体温、自律神経失調などです。

 一方で、福井県、秋田県の子供たちの体力は高いです。
文部科学省の2008年全国体力テストの結果を見ると、福井県の子供たちは、握力は全国平均と変わらないですが、20メートルシャトルランは小学生男子が61回、小学生女子が51回で、全国平均の同男子49回、同女子38回を大幅に上回っています。
特に女子は、全国平均の男子より高い。
福井県では、毎日運動をして、朝食を食べる子が多かったことが関連していると思われます。


生活習慣の大切さは、大人も同じでしょうか。


 生活習慣は大人も子供もみんな共通しています。人間の体内で起きる生理学的な変化ですから。
8時間の睡眠を取っている人の鬱スコアがもっとも低くて、元気で明るく、あいさつもできます。
逆に、寝不足も寝過ぎも、鬱スコアは高いのです。

夜更かしをすれば、メラトニン(就寝前の1〜2時間前から分泌され、目覚めを抑えるホルモン)サイクルが狂って、朝になってもメラトニンが出てしまう。

その状態で大人も子供も生活していますから、大人の元気がない。

それを見ている子供も元気が出ないのは当たり前です。
皆が規則正しい生活をすれば、日本国民はもっと元気なはずなのです。


 私は、札幌農学校でクラーク博士が言った本当の言葉とされる「少年よ大志を抱け。
この私のように」を座右の銘にして、「夢を持って、元気よく」を実践しています。
自分が元気ではないのに、学生に元気になれとは言えないでしょう。
大人がモデルにならなければいけません

学生は「小澤先生の授業はきつい。でもめっちゃおもしろい」と言ってくれます。

私の授業を受ければ、鉄棒もマット運動も「やりたい!」となりますよ。

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東海大学体育学部体育学科教授
大学院体育学研究科 研究科長

小澤 治夫(おざわ・はるお)

1949年8月25日生まれ。1975年、東京教育大学大学院体育学研究科修了。
筑波大学付属駒場中・高等学校教諭等で勤務したのち2003年より北海道教育大学教授。
2007年より現職。2010年より東海大学大学院体育学研究科長。
専門は、保健体育科教育学・トレーニング科学・発育発達学・教師教育。医学博士。
日本発育発達学会理事、日本フィットネス協会代表理事、埼玉県スポーツ推進審議会会長。
文部科学省 「子どもの体力向上プロジェクト」「子どもの生活リズム向上プロジェクト」研究代表。
「全国体力・運動能力・運動習慣等調査に関する検討委員会委員」など。
第4回秩父宮スポーツ医科学奨励賞受賞、東海大学2007年度・2010年度ティーチングアワード受賞(優秀教員)   

posted by 小だぬき at 06:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 教育・学習 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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