2012年10月25日

記者の目:労組と若者=山下智恵(北海道報道部)

記者の目:労組と若者=山下智恵(北海道報道部)
毎日新聞 2012年10月25日 00時12分

◇働き方は自ら変えられる

 サービス残業、ワーキングプア、過労死・過労自殺、非正規雇用−−。
労働者を取りまく環境は悪化の一途をたどる。

札幌市東区の消防車などの特殊車両を製造・整備する会社の従業員が、先月21日、初の24時間ストライキを決行した。
20〜40代の男性24人で平均年齢29歳。
4カ月前に労働組合を結成したばかりだった。
25歳の私と同年代の若者が「おれたちは奴隷じゃない」と未払い賃金の支払いなどを求め立ち上がった姿をみて、働き方に悩みや疑問を抱えた時、自らの手で守るすべがあることを、働く若者はもっと知るべきだと痛感した。


 厚生労働省や総務省の統計によると、北海道は、非正規雇用者が雇用者に占める割合が10年で37.4%(全国平均34.3%)と高く、11年の固定給与額は27万9000円(同32万3000円)で47都道府県中31位。
全国平均以下の厳しい労働環境にある。


 労組メンバーによると、この特殊車両製造・整備会社では、残業代は定額しか出ない。
ある20代前半の組合員は月200時間近い残業をこなしても残業代は6万円ほど。手取り給与は約20万円で、時給換算すると道の最低賃金(時給719円)ぎりぎりの金額だ。繁忙期には35時間連続勤務もあったという。

 ◇地域労組が支援 有給取得も増加

 労組結成のきっかけは若手社員の行動だった。
今年3月、インターネットで残業代の仕組みを調べているうちに、中小企業の労働者を支援する札幌地域労組を知り、駆け込んだ。
同労組のアドバイスを受けながら、労働3法や労使交渉のルールを学び、5月に同労組の支部を結成。

団体交渉で会社側が管理してきた2年分のタイムカード開示に成功した。
有給休暇の取得率は約10%から約50%に伸びた。
残業代も会社側が一部未払いを認めた。
労組支部長の橋本良太さん(33)は「苦しんでいる20〜30代はたくさんいるはず。若い世代に権利の守り方を示すためにも頑張りたい」と語る。


 社内に労組がなくても組合に加盟する若者がいる。
札幌ローカルユニオン「結」は業種、雇用形態に関係なく、誰でも加盟できる。
札幌市内の女性(32)は不動産会社に勤めていた際、持病が悪化し有給休暇を取ったところ解雇された。

結に加盟し、解雇を取り消す仮処分を申請し認められた。現在は給料をもらいながら解雇無効を求める裁判の準備を進める。
05年に20人で始まった結のメンバーは現在、約500人に増えた。

厚労省の11年度の統計によると、精神障害での労災申請は1272人(03年比2.8倍)で3年連続、過去最高を記録した。
過労自殺の申請は202人(同1.7倍)、脳や心臓疾患の申請が898人(同1.2倍)と、こちらも急増している。
連合などは07年以降、中小零細企業や非正規雇用の支援を最優先する方針を決め、33年連続で減少していた組合の組織率は09年に上昇に転じ、10年も同率だ。


 一方、正社員の権利を守るため、「派遣切り」など、非正規雇用の問題に口を閉ざす労組がある。
労働問題に詳しい北海学園大(札幌市)の川村雅則准教授(労働経済)は「非正規雇用を受け入れる労組でも、会社側の立場に立って、不満を抑え込むための組織となる可能性がある。大切なのは労働者本人が権利を主張できると認識していること」と指摘する。


 厚労省は09年に「今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方に関する研究会報告書」をまとめた。
「労働者にとって、労働関係法制度の基礎的な知識を学ぶことは、自らの身を守るために最低限確保しておくべき手段」とし、学校などで労働者の権利の教育を徹底する重要さを説いている。
だが、実現は容易ではない。
 
NPO法人「職場の権利教育ネットワーク」は07年から、高校のキャリア教育や進路指導の一環として、道などと協力して弁護士や社会保険労務士などを学校に派遣する「出前授業」をしているが、代表の道幸哲也(どうこう・てつなり)・北海道大名誉教授(労働法)は「高校生は就職活動に興味はあるが、労働ルールには無関心」と語る。

◇事態の悪化招く労働者側の沈黙


 労働者が異議を唱えなければ、会社側の不当な行為を許しかねない。
サービス残業や過労死などの増加は労働者側が声を上げてこなかったことも一つの要因だ。
特殊車両製造・整備会社の労組員は争う理由を「これから生まれる子どものために」「家庭を築いた時のために」と話した。

 将来を担う若者が長時間労働、低賃金に苦しむ日々が続けば、日本社会全体の将来設計ができなくなる日が来る。声を上げることをためらう必要はない。
posted by 小だぬき at 07:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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