2012年11月28日

香山リカのココロの万華鏡:威勢のよい話より生活 

香山リカのココロの万華鏡:威勢のよい話より生活

毎日新聞 2012年11月27日 東京地方版

 病院にいると、「選挙など、どこの国のできごとか」という気がしてくる。
あたりまえかもしれないが、患者さんたちは自分の症状や日々の生活や仕事、身近な人間関係のことで頭がいっぱいなのだ。


 私には苦い思い出がある。
それは94年、今から20年近く前のことだから、個人が特定されないような形でここに書くことにしよう。
その頃、勤務していた病院の診察室はなぜかオープンな作りで、待合室のテレビの音声もよく聞こえた。

それは、パート先の対人関係からうつ状態になった中年の女性を診察しているときのことだった。
外のテレビから、「たったいま入ったニュースです。
北朝鮮の最高指導者・金日成氏が死去しました」という音が聞こえてきたのだ。


 私はびっくり仰天し、つい「いま金日成死去って言ってましたよね。これはたいへんな国際問題ですよ」と大声を出してしまった。

すると、目の前の患者さんはまったく表情も変えずに、こう言ったのである。「はあ、そうですか。でも先生、そんなことより先週パート先でトラブルが起きて、また頭痛がひどくなっちゃって……」


 当時まだ若かった私は、「アジアに混乱が起きるかもしれないのに、“そんなことより”と自分の問題を話し続けるなんて間違ってるんじゃないか」と思った。

しかし、その後、自分もさまざまな痛み、悲しみなどを経験して50代になった現在では、つくづく思う。
社会的な問題も重要だけれど、それよりもまず自分が直接、関係しているからだのことや身近な生活のことのほうが気にかかるのは当然だよなあ、と。


 そして今、世の中には政治や広く社会全般に関心を持ちながらも、「そんなことより私の問題を」と思わざるをえない人たちが大勢いる。

彼らは「いま解決しなくてはならない問題」をあれこれ抱えており、「日本の行く末は」などと言われても考える余裕がないのだ。


 そんな中で行われる今回の総選挙。各党は「日本再生」「誇りある国」と勇ましい言葉を連呼しているが、口に出すかどうかは別にして、「そんなことより」と言いたい人は少なくないはずだ。

いま目の前にある私の暮らし、仕事、医療や学校の問題、あるいは被災地の復興を少しでもなんとかしてほしい。

大がかりな話、威勢のよい話は、それからゆっくり考えればよいのではないか。
病院にいるとついこう思ってしまうのだが、これは間違っているのだろうか。

posted by 小だぬき at 14:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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