2012年12月30日

年のおわりに考える 「未定」で生きている

年のおわりに考える 「未定」で生きている
2012年12月30日   東京新聞社説

 東日本大震災から二度目の年の瀬です。
復旧復興はままならず、生活再建に遠い厳冬です。
被災者たちの「希望」の声に政治は応えねばなりません。


 浜辺にある巨大な白い漆喰(しっくい)壁は、山を背に、青い海に向かっています。氷点下の風が鳴り、打ち寄せる波が轟音(ごうおん)を立てます。

石巻市雄勝町(宮城)にある「希望のキャンバス」は、高さ四メートル、長さ四十メートルもあります。
がれきの木材などを骨格にして、地元の土が塗られています。
岐阜県の左官職人・挟土(はさど)秀平さんらが今月初めに作りました。


 <父さん 大波 小波に負けず頑張ります><じいちゃんから学んだこと(中略)生きる姿勢 継いでいきます>


 きっと家族を亡くした人なのでしょう。被災者たちの思いの言葉が墨で書かれています。

宮城県の左官業・今野等さん(45)も手伝いました。
石巻市にあった自宅は、大津波に流され、母親を亡くしました。
大勢の児童が犠牲になった大川小学校から約五百メートルの距離でした。


 「津波の後、船を出したら、周りは遺体ばかりでした。
中にはまだ生きている子どももいて、おんぶして、搬送しました」


 仙台や石巻のアパートから妻と子で、同県内の家に移ったのは今年五月です。父親はまだ仮設住宅に住んでいます。


 「約百四十人いた地区住民の半分は亡くなりました。
仮設の人の望みは何といっても、住む所です。
自立したいのに、代替地がない。
何年、待ったらいいのか…。海の人たちは強く、前向きですが、今は足踏み状態です。ストレスがたまっています」

 

◆心が「難民」の状態で

 今野さんは「みんな『予定』がなくなり、『未定』になった」と言います。

確かにわれわれは「予定」の世界で生きています。学校を卒業したら、結婚したら、定年を迎えたら…。将来を描き、予定を立て、日々を営んでいます。


 大震災はそんな「予定」をぶち壊し、先の読めない「未定」の世界に放り込んでしまったのです。


 福島第一原発の被災者たちも同じです。原発のある福島県大熊町の人々の96%は「帰還困難区域」に家があります。

「ほとんどの人は家に帰るのは、もう無理だと思っています」と語るのは、同町でただ一人の司法書士・菅波佳子さん(42)です。
各地に散りぢりになった町民の相談にのっています。


 相続登記や賠償金の案件が多いそうです。
不動産の所有者が誰かはっきりしないと、賠償金の支払いが受けられないからです。

 「問題は今後、自分がどこに落ち着いたらいいのか、わからないことです。
多くは役場機能にくっついて、会津若松(福島)やいわき(同)の仮設住宅に入っているだけです」


 大熊町の役場は出張所が会津若松市、連絡事務所がいわき市にあります。
でも、そこが自分の場所とは考えられないのです。


 「心が『難民』の状態なのです」とも菅波さんは言いました。
「自立したくとも、見つかる仕事は多くはアルバイト程度です。先が見えません。
これからどう生きていっていいのか、誰もが心が定まらないのです」


 原発被害の精神的損害への賠償がなされています。
その五年分を一括払いし、不動産も事故前の公示価格で買い取る案があります。
でも、「町民は誰も納得していない」と聞きました。

「なぜ公示価格なのか」「町ごと買い取ってほしい」などの声が上がっているそうです。根本はお金の問題ではありません。
むしろ、「今までの生活に戻してほしい」という気持ちが強いのです。


 原発事故の恐ろしさは、生活も環境もすべて根こそぎ壊したことです。
古里を喪失した理不尽さから逃れられないまま、「仮設」という中ぶらりんの空間で暮らしています。
だから、心が「難民」状態なのでしょう。

 菅波さんは「私自身も心が定まりません」とこぼします。

◆浜辺に書かれた古里

雄勝町の浜辺にある漆喰壁には、こんな言葉もありました。

 <ふるさと とわに>
 <現在・過去・未来。いつも いつでも 故郷はここ雄勝>

 お正月はとりわけ古里が恋しい季節です。
でも、大震災と原発事故は、古里の風景も、「予定」も奪いました。
いまだに避難者は約三十二万一千人もおり、約十一万四千人が仮設住宅で生活しています。
住宅や雇用、教育…。「未定」という空白を急いで埋める政策こそ、希望につながる道です。

posted by 小だぬき at 09:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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