毎日新聞 2013年01月16日 00時11分
それは「体罰が暗記学習の成績向上に有効かどうか」という実験だった。
教師役が被験者の生徒役に問題を出し、できねば電気ショックを与える。
間違えるとだんだん電圧を上げるというものだった。
今から半世紀前の米国の実験である
▲「そんな、乱暴な」と驚かれようが、実はその実験目的も電気ショックもうそで、本当の被験者は教師役だった。
偽の電圧操作盤を回すと生徒役は壁越しに悲鳴をあげ、実験停止を懇願してみせる。
一方、実験の監督者は大丈夫だから実験を続けるよう教師役に命じた
▲では最後に見かけの電圧が400ボルトを超えても実験を続けた教師役は全体の何%だろうか。
これが実験の真の目的だった。
事前の学者らの間の予想は2%未満だったが、実際は65%が最後まで実験継続を拒まなかった(岡本浩一(おかもと・こういち)著「社会心理学ショートショート」)
▲主導した学者の名前から「ミルグラム実験」と呼ばれるこの実験である。
それが示すのは、権威者の命令があれば容易に人はその支配下にある者にどこまでも残酷になれるという事実だ。
「権威者の命令」が大義名分や正義の感情に置き換えられる場合もあるだろう
▲大阪市の高校の部活での常軌を逸した部員への暴力も、部活の体罰への学校幹部らの見て見ぬふりの中で歯止めを失ったようだ。
一般に部活では珍しくないとされる体罰だが、いったん正当化された密室内の暴力がはらむ危険に教育者が鈍感であっていいはずがない
▲指導に体罰を用いる先生方は生徒らを試しているのだろう。
だが実は試されているのは自身の人間性だったと後から分かっても、失われたものは戻らない。