2013年01月24日

香山リカのココロの万華鏡:新しいプライド

香山リカのココロの万華鏡:新しいプライド
毎日新聞 2013年01月22日 東京地方版

 話題の本、「新幹線お掃除の天使たち」を読んだ。
停車中の7分間で新幹線の車内清掃を完璧に仕上げる会社の現場リポートだ。この会社のすごさは、清掃の速さや仕上がりの丁寧さだけではない。
清掃の前後にはスタッフたちは一列に並んで深々とお辞儀、ホームで困っている乗客がいれば進んで手を貸す。


 笑顔を絶やさず、ミドルからシニアの清掃員たちも制帽に季節の花のアクセサリーをつけるなど、とてもおしゃれで楽しそう。
一度でも仕事ぶりを見た人たちは、「すごい!」「どんな会社なの?」と驚き、気になるに違いない。
実は私も長いあいだ、「どうしてこんなにイキイキと働けるんだろう」と不思議に思っていたのだ。


 今回、このリポートを読んで、その秘密が少しわかった。
経営者は現場の声を何より大切にする「全員経営」を目指し、スタッフからの提案、アイデアをすぐに実行する。

何よりすごいのは、現場の主任がスタッフの“よいところ”を見つけ、それを「エンジェル・リポート」という壁新聞のスタイルにまとめ、張り出すことにしているのだ。
全スタッフの7割以上がこの「エンジェル・リポート」の対象となって、誰かに自分の良さを見つけられ、ほめられている計算になるそうだ。


 本には、エンジェル・リポートに基づいたスタッフたちの体験談が紹介されている。60歳をすぎてから働き出した女性は、仕事はすぐ好きになったが「お掃除のおばさん」をしていることをちょっと恥じていた。
しかし、荷物運びを手伝った乗客から「ありがとう」と言われたり、偶然、自分が清掃した車両に乗っていた義妹から「新幹線のお掃除はすばらしい、ってニュースでも見た。
すごいじゃない」と言われたりしているうちに、こう思うようになる。
「私はこの会社に入るとき、プライドを捨てました。でも、この会社に入って、新しいプライドを得たんです」


 新しいプライド。
いい言葉だ。
それはお金や地位、世間からの称賛で得られるものではない。
まわりの人たちに「おっ、今日もがんばってるね」と認められ、自分でも「けっこう楽しいな。
やってよかった」とうれしくなる。
それだけで十分、「そう、これでいいんだ」と自分に自信と誇りを感じることができるものなのだ。

 そして、この会社に勤めなくても、ふだんの生活の中でも私たちは、この「新しいプライド」を手に入れることができると思う。
失敗しても挫折しても、だいじょうぶ。
まわりの人たちと自分の笑顔のため、胸を張って生きていけるはずだ。

posted by 小だぬき at 05:38 | Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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