毎日新聞 2013年04月02日 東京地方版
いよいよ4月。
大学では「人権・ハラスメント対策委員」の私は、例年、新入生オリエンテーションなどで学生たちに「ハラスメントを受けない、しない」というガイダンスを行う。
パワハラ、セクハラというと会社の話だと思う人もいるかもしれないが、残念ながら大学にもさまざまなハラスメントがあり、まとめて「アカデミックハラスメント」、通称アカハラと呼ばれることもある。
たとえば、教員が「明日の朝までに3冊、本を読んでこなければ単位はやらないぞ!」などとムチャなことを言ったり、サークルの先輩が後輩をこき使ったりするのもアカハラ。
そして最近、最も問題になっているのは「授業中の学生どうしの私語」というアカハラだ。
ちょっとしたおしゃべりはどこの大学にもあるかもしれないが、度を越すと「他の学生が授業を受ける権利と、教員が授業を行う権利を侵害するハラスメント」になる。
毎年、学生にアンケートを取ると、「私語がひどくて先生の説明が聞こえない」「ノートを取りたいのにうるさくて気が散ってしまう」という苦情がけっこうあるのだ。
また、後輩から先輩、学生から教員へのハラスメントもある。
「バアサンのくせに」「オヤジはダサイ」といった年齢を理由にした中傷、エージハラスメントがそうだ。
もちろん外見や方言などを笑いのタネにするのは、大学の中でなくても人格の侵害といえよう。
さらに、恋人どうしで相手を必要以上に束縛し合い、学生としての活動を妨げるのは「デートDV」と呼ばれる特殊なハラスメントだ。
学生の中には、「そんなこと言われたら、ギャグも言えなくなっちゃう」という声もある。
ゼミなどで議論を戦わすだけで「それってアカハラ」と言われたら、自由な発言もできなくなる。
ただ、やはり直接、相手の人間性を傷つけたり、不快感を与えたりすることはハラスメント、という原則を忘れてはならないだろう。
大学で人権やハラスメントの意識をしっかり身につけた学生は、社会に出てからもきっと新入社員や異性の同僚たちともうまくやって行けると思う。
また、自分が被害にあいそうなときに、堂々と「それはノーですよ」と指摘することができるはずだ。
新入生たち、「ハラスメント対策委員っていちいちウルサイな」などと言わずに、私の話をしっかり聞いてもらいたい。
もちろん、そこで「なに、あのオバハン」などと言うのは立派なハラスメントということをお忘れなく。
私は 授業参観時の父母の私語に迷惑を受けたことを思い出します。