2013年04月05日

特集ワイド:殺伐とした時代だからこそ、雑談力 あなたはある?

特集ワイド:殺伐とした時代だからこそ、雑談力 あなたはある?
毎日新聞 2013年04月04日 東京夕刊

 人間関係の潤滑油、上達法に注目

 新しい職場や電車、バスの中などで、初対面やあまり親しくない人に、どう声をかけたらいいのか。
雑談力の上達法が今、注目されている。
かつては「しゃべってないで仕事しろ!」と上司に叱られたものだが、今はビジネスにも有益との考えが広がっている。
雑談力が重視される時代とは? 【大槻英二】


 観光シーズンの箱根。乗り合いバスは超満員だった。
バス停では、降りようとする人が無言のまま肩をいからせ、通路に立つ人を手で押しのけ出口に向かう。車内には冷ややかな空気が広がる。


 出口に近い通路に立っていた臨床心理士の武藤清栄(せいえい)さん(61)は次のバス停で止まったとき、車内後方に声をかけた。
ちょっぴり声のトーンを落とし、にこやかな表情で「あの〜、すみませ〜ん。降りる方がいらっしゃいましたら、ひとつ声をかけていただければ、私はうれしいんですが〜」。
すると後方にいたおばちゃんが「は〜い、私、降りま〜す」。応えるように通路に立っていた人たちが自然と道をあけた。


 これは一声かけるだけでその場の空気がいかに変わるかの例。
雑談力の応用編だ。武藤さんは「今、日本人は見知らぬ人に声をかけることが非常に苦手になっています」と指摘する。
「言葉には用件を伝える『事実言葉』と、あいさつや気候などのちょっとした話で人間関係をつくったり、関係を調整したりする『関係言葉』があるんですが、最近は関係言葉が使えない人が増えています」という。


 そのせいなのか、通勤ラッシュ時の駅では、ぶつかっても無言で立ち去る人が多くなった。
「同じ空間にいながら、人々の心はここにあらずの乖離(かいり)社会。
効率が求められ、自分にとって利害があることや興味関心があること以外には手を出さない、口を出さない『見ざる』『言わざる』『聞かざる』に『関わらざる』という四つの
サルが増えている。
大地震などの非常時にしか、見知らぬ人とコミュニケーションが取れないなんてちょっと寂しくありませんか」と武藤さんは問いかける。

   ■

 10年4月に出版された「雑談力が上がる話し方」が今なお大手書店のビジネス書ランキングで上位に入る明治大教授(コミュニケーション論)の斎藤孝さん(52)。「世の中、無駄なものが省かれすぎて殺伐とした感じになってきた。

人間関係の潤滑油が欲しい時代なのに、用件だけを伝えて、雑談をするのは苦手という人が増えています。
ところが、ビジネスの現場などでこれまで無駄と思われていた雑談に意外と問題解決のカギがあると認識されてきたのでは」と話す。
同著は20万部を超えている。

「東日本大震災の影響かはわかりませんが、昨年ミリオンセラーになった阿川佐和子さんの『聞く力』のように、今は人と気持ちを通わせることが大事だと思われるようになってきています。

実は雑談は一方的な話ではなく、気持ちを通い合わせることそのものなんです」


 著書では雑談のルールについて「『中身がない』ことに意味がある」「『結論』はいらない」「訓練すれば誰でもうまくなる」などと提唱。大学では学生を2列に並ばせ、各自目の前にいる相手と雑談させて、30秒たったら相手を変えてまた雑談させるといった雑談力養成ゲームを講義に取り入れている。
最初は戸惑っていた学生も次第に「人慣れ」し、効果テキメンという。


 「雑談の極意は相手本位です。初対面でも話題を二、三振ってみて、関心のありそうな話を見つける。
お互いに好きなものとか日本の運命とか共通の基盤のある話が盛り上がりやすいですね」と斎藤さん。
「『ノー雑談、ノーライフ』。雑談のない人生なんて考えられない。
昔の雑談は気心が知れ合っている人同士が腰を据えて話すものでしたが、今は人間関係がより広く浅くなっており、すれ違ったときなどに30秒程度ササッとするスタイルがフィットします。
より高度な雑談力が求められているんです」

   ■

 ビジネスではどう役立つのか。
名古屋市の自営業、野本ゆうきさん(35)は営業職だった会社員時代、商品の知識を徹底的に仕込んだが、営業成績は振るわなかった。
あるとき先輩に「商品知識より大事なものがお前に欠けている。
それは仕事以外の話で心と心を通わせることだ」とアドバイスされた。

人と接するのが苦手で雑談は無駄だと思っていたが、以来、商品説明に入る前に、天気や昨晩のプロ野球結果などの雑談から始めてみたところ、険しい表情だった相手が笑顔になり、契約に至るケースが増えた。


 もっと雑談力をつけたいと本を読みあさり、試行錯誤を繰り返す中で体得したテクニックを自ら開設したウェブサイト「雑談力のきいろわ」で公開している。
「きいろわ」には幸福の黄色と、人の輪をつくってほしいという願いを込めたといい、1日に約5000件ものアクセスがある。
野本さんは「本やサイトに書いてあることをそのまま実践しても、相手によって反応が違うので最初はうまくいきません。
根気よく続けていくうちに空気を読めるようになるんです」と上達のコツを説く。

   ■
冒頭の武藤さんが所長を務め、職場のメンタルヘルス研修への講師派遣などを行っている「東京メンタルヘルス」では、まずは自らの社内のコミュニケーションを図ろうと、昨年10月から2週間に1回、午後7時から2時間、会議室で飲食しながらスタッフ同士で雑談を交わす会を始めた。
「話題はちょっといい出来事や持ち寄った料理についてなど。
各自が業務上抱えている課題も自然に相談でき、手応えを感じています」(担当の熊崎正樹さん)

 「顔を知っているだけと、ちょっとでも雑談したことがある関係はまったく違います。雑談したということは人間関係があたたまった状態になっているということ」と斎藤さん。
「人生の喜びというのは人と関わって気持ちが通じ合うことだと思うんです。雑談できる相手が身の回りに何人かいて過ごせれば、それは幸せな人生なんじゃないかな」としみじみ話す。

 雑談に結論はいらず、突然終わっていいらしい。ならば、この記事もこう締めくくろう。
 「じゃあまた!」
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 ◇雑談力チェックシート

 次の項目についてどの程度当てはまりますか?
 かなり当てはまる(2点)、まあ当てはまる(1点)、当てはまらない(0点)


 1)その場の雰囲気や非言語のメッセージを読める

 2)素直に自分の気持ちや本音を言葉にできる
 3)話のネタや引き出しが豊富である
 4)ユーモア、冗談、だじゃれなどをとばす
 5)人と向き合うのが好きである
 6)臨機応変に対応できる
 7)自分と違う考え方や価値観も認められる
 8)自分の失敗談も話せる
 9)相手の話を聞くのも楽しい
10)話の間や沈黙が苦にならない


 合計7〜11点は「雑談力がある」、12点以上は「雑談力がかなりある」

※東京メンタルヘルスの資料をもとに作成
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posted by 小だぬき at 00:00 | Comment(2) | TrackBack(0) | 教育・学習 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私は、とってもお喋りなの
心と心を通わせる
それは人間だけが出来る言葉があるから
人間が言葉を持たない時代
どんな生活をしてたのか映画を観た事があったけど、無駄な人殺しは、言葉があってもなくても、やっぱり・・・って感じです
知能が高い人は、無駄な殺生はしないって言ってる
人間はまだまだだね。
Posted by みゆきん at 2013年04月05日 14:42
お互いに おしつけにならない自然な会話ができると もっと穏やかな人間関係ができるのにね。
知識の高い人の「無駄な殺生はしない」という考え方が怖いですね。「有意義な殺生」なんて認めたくないね。
Posted by 小だぬき at 2013年04月05日 15:02
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