毎日新聞 2013年05月14日 東京地方版
オランダ王室の行事に出席し、無事に帰国された雅子さま。
海外での公務は11年ぶりだったがテレビ映像で見るかぎり、いつも笑顔でお元気そうだった。
よく知られているように、雅子さまは「適応障害」というストレス性の不調を抱え、長い間療養生活を送っている。
その中でも長女の愛子さまの登校に付き添ったり、東日本大震災の後は被災地を訪問するなど「自分でなければできないこと」を中心に、いろいろな活動に取り組んでいる。
その都度、私のように不安と期待が入り交じりながらテレビなどを見て「体調も安定なさっているみたい」とか、「もしかしてお疲れぎみかも」などと思っている人もいるのではないだろうか。
考えてみれば、これはご本人にとっては大変な負担だと思う。
診察室でも時々、「夫の実家や職場から毎週、体調を尋ねる電話がかかってきます。
ありがたいのですが『そんなに注目しないで』と言いたくなることも」という声を聞くことがある。
「早く治さなきゃ」と一番感じているのは本人なのに、周囲から「どうですか? まだ来られませんか?」「この間ちょっと会ったときは元気そうだったけれど、あと何週間くらいで薬をやめられそう?」などと言われると、余計に焦りを感じてしまう。
結果的には、そのプレッシャーが回復を遅らせてしまうこともあるのだ。
雅子さまの場合も、医師団や皇太子さまは「温かく見守って」と繰り返し、国民やマスコミに呼びかけている。
しかし、「関心を持ちすぎずに見守る」ということには限界もある。
特に自分自身もストレス性の症状を抱える人にとっては、「雅子さま、公務にお出かけしたみたいだから、私もあきらめずに外に出てみます」と、雅子さまの行動が直接、参考になることもある。
診察室で「あんなに素晴らしい方でも心身のバランスを崩されるんですね。
だとしたら私が病気になっても当然かも、と思えました」と語った女性もいた。
ご本人には伝わっていないかもしれないが、雅子さまの存在は多くの人のなぐさめ、励ましになっているのだ。
回復ということだけを考えれば、みんながあまり注目せず、ご自分のペースでリハビリしていただくのが一番望ましい。
とはいえ皇太子妃という立場上、誰も見ない、報じない、ということはほぼ不可能。
難しい環境の中で治療を続け、今回大きな仕事をクリアすることができた雅子さま。これからも一歩ずつ、回復に向けて歩んでいっていただきたい。