毎日新聞 2013年07月17日 東京地方版
精神科医としての仕事のほかに、大学の人文系学部で教員もしているが、医学部と一番違うのは「ゼミ」があること。
比較的少人数で学生たちが自主的に発表を行うスタイルの授業だ。
そのゼミで先日、ある学生が「理想の笑い方」について発表した。
自分のアルバイト経験や文献などをもとに、具体的に「口のはしをこう上げて、上の歯をこれくらい見せて……」などと「理想の笑顔」を指導してくれたのだ。
学生たちは教員である私の講義とは比べものにならないくらい真剣に聴き入り、盛んに練習していた。
他にも「コミュニケーションの決め手は表情」「ダイエットをいかに成功させるか」など、人間の「外側」に注目し、その重要性を強調するような発表を行う学生は多い。
「見た目も確かに大事だけれど、学生があまりに外見重視になるのは問題だな」と、複雑な気持ちになっていたのだが、参院選のポスターや候補者のホームページを見て「そうか」と膝を打ちそうになった。
今回の選挙は国政で初めての「ネット選挙」ということもあってか、候補者が自分の視覚的イメージにいつも以上にこだわっている気がする。
中には、「あれ、この政治家ってこんな人だっけ」と目を疑うほど、ガラリとイメージチェンジした候補者もいる。
地味なスーツにネクタイから、青年実業家か作家のようなカジュアルなファッションへ。
硬い表情での演説から、あふれる笑顔でのソフトなトークへ。
おそらく誰かアドバイスをする人がいると思われるが、有権者たちは本当にその変身ぶりを見て「この人、感じいいじゃない」と好感を持つのだろうか。
もちろん、中にはそういう声もあるはずだが、変身前と後の変貌を知って、逆に「いったいどうしたの?」と疑問を抱く人もいるのではないだろうか。
また、変身の方向性が、みな似ているのも気になる。
診察室でも時々、同じことを感じる。対人恐怖症などで悩み、「自分を変えたい」とコミュニケーション講座などに通う人がいるのだが、「そのままでいいのに」というケースがほとんどなのだ。
小さな声、伏し目がちな表情などにこそ、その人の魅力が隠れている。
講座で身につけた満面の笑み、抑揚たっぷりの話し方に感心しながらも、「正直言って前のほうがよかったのに」と残念な気持ちになることもある。
さて、イメージチェンジした候補者たちの当落はいかに。別の視点からも、今回の選挙に注目したいと思う。
私から見ると、その精神科医も精神患者に見える
何故だろう?
客観的 第三者でいることの難しさをいっていました。私も その点は納得です。
教育でも同じで「子どものため」が行き過ぎると 規制や枠・強制に陥る恐れがあるからです。