2013年08月14日

香山リカのココロの万華鏡:副作用の恐怖

香山リカのココロの万華鏡:副作用の恐怖
毎日新聞 2013年08月13日 東京地方版

 精神科医には、いろいろな意味で恐ろしい映画を見た。

「オーシャンズ」シリーズなど娯楽作も手がけるソダーバーグ監督の新作「サイド・エフェクト」だ。


 家族を愛する精神科医の前に、ちょっとミステリアスなうつ病の女性患者が現れる。
精神科医は、ある新薬を優先的に使用する契約を製薬会社と交わしており、彼女にもその薬を処方する。
たちまち彼女を悩ませていたうつ症状は改善するがある日、自宅から夫の刺殺体が発見される。


 警察は、彼女が新薬の副作用で夢遊病のような状態になって夫を殺害した、と断定。
そんな恐ろしい薬を処方した精神科医の社会的信用は地に墜(お)ちる。
家族にも見放された彼は「本当に自分が出した薬の副作用による殺人か?」と、独自の調査に乗り出す……。


 ここから物語は、社会派サスペンスの様相を呈し始める。
その詳細は語らないが、平凡な精神科医の背後にうごめく巨大企業や学界の欲望の恐ろしさに気持ちが重くなった。

一般の人たちは「うつ病の薬にはこんな副作用があるの?」と心配になるに違いない。
診察室でも「この間先生に出してもらった薬。ネットで調べたら副作用がすごいみたいで飲むのが怖くなりました」という話を時々聞く。


 かつて、うつ病の薬の副作用といえば「口の渇き、ふらつき、だるさ」などだった。

最近の薬にはそういった副作用はほとんどなくなったが、まれにイライラしたり衝動的に行動したくなったりすることがある。

睡眠障害の薬で、この映画のように夢遊病が起きることも。
いずれも頻度はとても低いのだが、いったん出現すると本人にとってもかなりショッキングな副作用だ。


 ほとんどの人は恐ろしい副作用なしに、その薬本来の効果で症状を抑えることができる。
私たち精神科医は「ほとんど可能性のない副作用を恐れて、せっかくの薬を使わないのは損」と考え、服用を勧める。
しかし、患者さんにしてみれば「たとえ1万分の1の確率でも、恐ろしい副作用が出るのは絶対にイヤ」と思うのも当然だ。

 この映画を見る人には、「ほとんどの精神科医は、製薬会社のためにではなく患者さんのために医療を行っているんです」と言いたい。

しかし、その一方で精神科医はしっかり自分の胸に聞いてみるべきだろう。
「私は本当に『患者さん本位』の医療をしているか? 患者さんの副作用の恐怖を理解しているか?」。

「患者さんにとって、ハッピーな心の医療」のあるべき姿
をもう一度考えてみたい

posted by 小だぬき at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック