ライバルに勝つには
2013年8月23日 読売新聞 yomi Dr.
(なんて考えてはいけないと講演しているのに、やっていることは真逆です)
夏休みを利用して、学校の先生たちを対象に「健康づくりセミナー」が各地で開催されているようです。
私も初めて講師になりました。
受講される方々は1日だけ参加するのですが、講師は合宿のように同じメンバーが同じ内容を講演するようにスケジュールが立てられていて、判で押したように連日で同じことをやらなければなりません。
これは初めての経験でしたが、私は2日目でまいってしまいました。
舞台と違って、相手は自分ひとりですから、簡単だろうと思っていたのですが、現実は逆でした。
ひとりで同じことを毎日話す。
これは大変なストレスがかかることを知りました。
にもかかわらず、私の講演タイトルは「ストレス社会を生きる〜ストレスコントロールと自己管理」なのです。
人にこんなお話をしている場合ではありません。私がストレスだらけの毎日になってしまいました。
今回、パワーポイントで資料作って準備をしたのはいいのですが、いざやってみると、パワポの間に余計な話を挟んでしまって1時間30分という時間をどうしても守れない。
いつも時間が足りなくなってしまうのです。
パワポの作成中は「これで足りるかしら?」と心配していたのですが、始まってみたら「すみません、時間オーバーしていますので」といって最後まで行かないうちに終了ということになってしまう。
2日目が終わったところで大自己嫌悪です。
あらかじめ時間を計ってパワポのリハーサルをすればいいのですが、大学院時代に論文発表で散々それをやらされ嫌な思いをしたせいか、やりたくない。
高齢者ほど「いいからオレの話を聞け!」とばかり時間オーバーしてもダラダラと話したがると、学会関係者から日頃、愚痴を聞いているのに自分がそうじゃないかと気が付きました。
小学生のころから予行演習が嫌いな悪い所が何も変わっていないのだと、ガツンと自己嫌悪に襲われました。
以前は、どの講演会でもアンケート調査をやっていて、以前は好評だったアンケートのコピーを私に郵送してくださる主催者もいらっしゃって、受講生の人数から計算して自分の講演結果が想像できたのですが、最近は「個人情報保護法」の余波なのかそうした事もなくなり、講演会の結果に触れることがなくなりました。
これは本当に恐ろしく嫌なことです。
試験なら点数、テレビなら視聴率、人気なら仕事のオファーの増減という目安がありますが、私の講演がどうだったのかは、さっぱり分からないわけです。
今回は私の他に2人の講師が、それぞれ健康について講演されていました。
2人とも私の前に講演されるスケジュールなので、初日は東京から自分の時間に間に合うように駆けつけましたが、2日目は早起きをして2人の講演を最初から聞いていました。
同じ受講者が3人の講師を1日で聴くのですから、2人はライバルということになります。
受講者の皆様は、朝からぎゅうぎゅう詰めの状態で、エアコンがあまり利かない教室で座っているのですから、私の講演がよほど魅力的でない限り、疲労で眠られてしまうか、ほとんど聞いてないという結果になりがちです。
初日は、怖いもの知らずで、ただ勢いよくやってしまいましたが、2日目は、他の講師たちの講演を聴いてしまったせいか、あれこれ余計な感想を思いつくまま入れてしまったりして、とうとうパワポを全部消化することができませんでした。
「ライバルに勝つためには、ライバルをよく知ることだ」と多くの人からアドバイスをされながらここまで年を取ってきましたが、もはやライバルは自分ひとりになってしまったと実感しました。
他の若い講師たちは伸びやかに自信たっぷりにやっていました。
評価なんか気にしていない。
これからいくらでも修正して将来に向かってやっていくんだという生き生きとした態度に、嫉妬心すら感じてしまったぐらいです。
自分の野心を醜いと感じてしまいました。
講師のおひとりが「みなさん、今の足の裏の色をみてみましょう」と、受講者の、靴から靴下まで脱がせるというパフォーマンスがあったのですが、
「ストレスがたまっている人は色が赤くなっていらっしゃいます、
ピンク色の方は健康です、
土ふまずの所が硬くて白になっていると緊張が強いです」の解説に、私の足の裏を見れば、真っ赤でカチカチ、しかも冷たくなっていました。
「ストレス社会を生きる〜ストレスコントロールと自己管理」の鍵は、自分自身をよく知り、自立することです。
これが私の講演の趣旨なのです。
頭を抱えるほど逆を行っている情けない自分自身の発見に、パワポを一晩で全部作り直すという攻撃的な姿勢で後半のセミナーを乗り切ってきました。