余録:人は異常な状況に直面しても・・・
毎日新聞 2013年08月29日 00時25分
人は異常な状況に直面しても、「大変だ。これは非常事態だ」という心のスイッチがなかなか入らない。
災害の専門家が「正常化の偏見」と呼ぶ心理で、目の前の危険も「たいしたことはない」と考えてしまう平常時の心の惰性である
▲災害心理学の広瀬弘忠(ひろせ・ひろただ)さんの実験では、人のいる部屋に軽い刺激臭のある煙を徐々に充満させても7割の人が部屋にとどまり続けた。
逃げなかった1人は「体にいい煙と思った」と、心の中で異常を正当化していたという
▲この心理による津波からの避難の遅れが犠牲者を増やしたと見られる東日本大震災だった。
また同じ年の紀伊半島豪雨でも警報が避難につながらず、多くの人命が失われた。
これら痛恨の体験をふまえ、迫る危険を人々の心に刻みつけてもらう新たな取り組みである
▲気象、津波などで重大災害が予想される場合に気象庁が発表する「特別警報」の運用があすから始まる。
これまでの注意報、警報に加え、気象ならばその地域で数十年に1度の現象が起こりそうな場合、津波は高さ3メートルを超える波が予想される場合に特別警報が出る
▲そういえばすでに「経験のない大雨」の言葉を何度か聞いたこの夏である。
7〜8月の山口、島根、秋田、岩手の豪雨は特別警報に相当したという。
発令の際は避難も危険な切迫した状況がありうるため、気象庁は「直ちに命を守る行動をとって」と呼びかけている
▲何しろ「数十年に1度」が相次ぐ昨今の荒々しい気象である。
今度はそれが普通という「正常化の偏見」が心配になるが、ここは特別警報を心の非常スイッチにしっかりと連動させたい災害列島の住人だ。
2013年08月29日
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