東北を忘れない、応援続けたい=鎌田實
毎日新聞 2013年09月10日 東京朝刊
この夏は猛暑が続いた。
東北の仮設住宅で暮らす人たちには、つらい暑さだろう。
東日本大震災の悲劇から、あす11日で2年半。
なかなか進まぬ復興に、心も体も疲れているに違いない。
先週、ぼくは岩手県陸前高田市を訪ね、心と体の健康法について講演した。
同時に、新著「鎌田式健康ごはん」(マガジンハウス)に掲載した料理を振る舞うことにした。
缶詰や総菜を使うため、簡単でおいしく、体にいい。
話を聞くことと食べることで、頭と胃袋の両方から健康法を納得してもらおう、という戦略だ。
調理は、市内の栄養士さんたちが、ボランティアで協力してくれた。
だが、ぼくの講演に来る人は女性が大半。男性を引っ張り出すにはどうしたらいいか、考えた。
陸前高田は漁師町。
やっぱり演歌だな、と思った。
女性の演歌歌手に来てもらえれば、男性が集まるに違いない−−。
神野美伽さんに連絡した。
神野さんは、ぼくが理事長をしているJIM−NETが、イラクや福島の子どもたちを支援するため実施している「チョコ募金」に賛同し、びっくりするほどの数のチョコを買ってくださった。
感激してお礼の電話をした。
その後、ぼくが出演している文化放送「日曜はがんばらない」にゲスト出演してもらった。付き合いといえば、この2回だけ。
ぼくは本当にずうずうしい。ダメもとだったが、何と、神野さんは二つ返事で快諾。デビュー30周年を迎え、新しいCDの制作やコンサートの準備が忙しいなか、駆けつけてくれた。
陸前高田に着いた神野さんは、がれきが積み上げられたままの光景に、うっすら涙を浮かべた。
この町では、震災関連死も含めれば、2000人近い人が亡くなっている。
介護老人保健施設「松原苑」に行くと、250人を超す人たちが待っていた。
認知症の人も、近所の人も、いっぱい集まっていた。
ぼくの話の時には眠りこけていた人たちも、神野さんの歌が始まると、顔を上げ、目を輝かせた。車いすの上で手拍子を打つ姿もあった。
神野さんがお年寄りの中に入っていくと、握手を求めて、手を伸ばしてきた。
ある認知症の人は「すごい」「きれいだ」と何度も声を上げていた。
介護スタッフによると、その人のこんなに生き生きとした顔を見たのは初めてだという。
その後、地域の人が集会場として使っている「朝日のあたる家」へ。
神野さんと鎌田のトーク・アンド・コンサートを聴くために、入りきれないほどの人が集まっていてくれた。
神野さんがヒット曲「男船」を歌うと、割れるような拍手が起き、会場は興奮の渦に包まれた。
吉幾三さんの「酔歌」と、ロック調にアレンジしたソーラン節を歌った時は、ついにおばあちゃんが舞台に立って踊り出した。
みんなが歌い出した。笑い転げていた。
歌のパワーを見せつけられた。
韓国でも歌手活動している神野さんは、韓国の親のいない子どもたちの支援活動を続けている。
チョコ募金に賛同してくれたこともそうだが、普段から困っている人のことを助けたい、という思いがあるのだろう。
こういう人は「共感する力」が強い。
被災地でもすぐに溶け込み、被災者の心をつかむ。
見事だなと思った。
会場では、ボランティアが用意してくれたご飯も好評だった。
「鎌田式健康ごはん」の具だくさんみそ汁と、うの花ごはん、サバ煮缶を使ったキャベツ炒め……。
みんなに「良かった、おいしかった」と喜ばれた。
こちらの狙い通り、男性もたくさん参加してくれた。
家族を亡くして1人暮らしの男性も多い。
これを機に、食生活をはじめ、もっと自分の健康に気を使うようになってもらいたい。
町が復興するまでには、もう1、2年はかかる。
それぞれが仮設住宅から出ていくのにも、かなりの時間が必要だ。
その間に脳卒中で倒れないように、心が折れないように、みんなで応援していかなければいけないと思う。
それにはまず、東北のことを忘れないこと。
東北を旅行し、仮設商店街でご飯を食べるだけでも応援になる。
東北の食べ物を「お取り寄せ」するのもいいと思う。
自分にできる方法で、応援を続けることが大事だ。
(医師・作家)

