毎日新聞 2013年10月01日 東京地方版
いくつかの雑誌などから、いつもとはちょっと毛色の違う取材申し込みがあった。
「国民的人気の連続ドラマが終わって、心にポッカリ穴が開いてしまった人たちのために効果的な乗り越え方を教えてください」
特にNHKの朝のドラマ「あまちゃん」は、半年にわたって月曜から土曜まで毎朝8時から15分間放映され、それを見ることがすっかり生活の一部になっていた人もいたようだ。
「あの軽快なテーマ曲で一日の活動が始まっていたのに、これからはどうすればいいのか」と、かなり深刻に悩んでいる人もいるという。
岩手県の北三陸では新米の海女さん、東京の芸能界ではアイドルを目指す元気で素朴な少女を中心とした人間模様を描いた「あまちゃん」は、一言で言えば全ての人生を肯定する物語だ。
誰もがそれぞれ、いろいろな事情や過去、わだかまりなどを抱えながら、この生きづらい社会を精いっぱい生きている。
その名が広く知られている人、全国を飛び回って活躍する人もいれば、地方の小さな町で一生を過ごす人、ほとんど誰とも交わらないで暮らす人もいる。
しかし、人生には本当の意味では勝ちも負けもない。
どちらの人生がより充実し、どちらがむなしいかという差もない。
どの人生にも等しく悩みや苦しみがあり、それ以上に、どの人生もキラキラと輝きを放っているのだ。
そして、「あまちゃん」では、多くの“許し”が描かれていたのも印象的だった。
誰かとぶつかったり憎しみあったりしても、時がたてばお互いを許し、笑顔で語り合うこともできる。
また、ずっと目を背けてきた自分の過去も、いつかはやさしく許して受け入れられるかもしれない。
他人を許し、自分を許す。
どんな人生も誰にも負けないくらい。
ドラマでそれを味わったら、今度は自分でそれを実践する番だ。
「私くらい運が悪い人間はいない」「私を苦しめた家族のことは一生、許せない」と決めつけずに、毎日の暮らしの中にすでにある輝き、きらめきを探してみる。
行き違いが続く人と和解のチャンスが訪れたら、「どうせダメだろう」とあきらめずにまずは対話を試みる。
それなら、ドラマの主人公でなくてもできるはず。
いや、「結局、連続ドラマは全然見なかったな」という人にだってできると思う。
よい物語は、私たちを励まし生きる力を与えてくれる。
そのことを実感した秋だった。
さあ、次はどんな物語に出会えるだろうか。
時々の選択で 違ったドラマになりうるから、喜怒哀楽が生じるのですね。
あの時の選択はただしかったか・・・と。
ただ 人生の終焉の時は 自分でシナリオを作りたいなぁ・・。