2013年10月05日

岩見隆夫:老化現象早見表26カ条で思う

サンデー時評:
老化現象早見表26カ条で思う
2013年10月02日 
◇岩見隆夫
(いわみ・たかお=毎日新聞客員編集委員)

老化現象早見表のことを知ったのは、亡くなった作家、小島直記さんの本である。
『人生まだ七十の坂』(新潮社・一九九〇年刊)を頂戴した時は私もまだ五十代なかばで、そのうちに、と本棚に収めておいた。


 病を得て暇ができたというのもおかしいが、生前何かとお世話になった小島さんのこの本を取り出してみると、男性の老い方徹底研究のような内容で、いまの私にはフィットする。
面白いだけでなく、人生勉強になる。なかに次の記述があった。


〈『サンデー毎日』に市川三郎という人の「只今商談中」というのが二十年間も連載されていたことがあり、私も愛読したものです。

その昭和五十五年五月十一日号にのった老化現象早見表とでもいうべき二十六カ条の老人性症候群は……〉


 市川さんの人気コラムは私も記憶が鮮明だ。洒脱(しやだつ)でワサビが利き、それでいてどこかとぼけたような文章の味が忘れられない。
さっそく、毎日新聞社にお願いして、市川コラムのファクスを送ってもらった。


 二十六カ条を一読してみて、失笑、苦笑なのだが、昭和五十五年と言えばいまから三十三年前、従って通用するものもあれば、しないものもある。

この年は、たしか大平正芳首相が急死して、衆参ダブルとか奇妙な選挙が行われ、政情騒然としていた。
しかし世相はそうでもなく、なんとなく浮ついていた記憶がある。


 まあ、二十六カ条の早見表をとりあえずご覧いただこう−−。


 (1)二日酔いするほど飲まなくなったとは、思いませんか。

 (2)近所の娘さんをお見それするようなことは、ありませんか。
 (3)駅の改札口で、駅名を三度ぐらいいわなければ、係員に通じないことはありませんか。
 (4)買い物に出かけて、何を買いにきたのか、忘れてしまうようなことはありませんか。
 (5)電話のダイヤルをまわしきらないうちに、指をはなしてしまうことはありませんか。
 (6)おしゃべりしているBGたちも、あなたの顔を見るとピタリとやめるようなことはありませんか。
 (7)会社のあなたのデスクの引き出しに、竹製の耳かきが入っていませんか。
 (8)憎まれ役を買って出ようと思ったことは、ありませんか。
 (9)奥さんに注意されるまでツメののびているのに、気がつかないことはありませんか。
 (10)きのうの新聞を、きょうの新聞だと思って読むようなことはありませんか。
 (11)あなたのシャレがバーのマダムにも通じないようなことはありませんか。
 (12)バスつきのルームでは温泉へきたような感じがしないと、思ったことはありませんか。
 (13)立ち上がるとき「どっこいしょ」と思わずいうようなことはありませんか
 (14)おでん屋のオヤジに「ダンナ、お気をつけなすってッ」とかえりぎわに、いわれたことありませんか。元気な人には絶対にいわないコトバですからね。
 (15)「新喜劇でも見に行くか」と、思ったことありませんか。
 (16)しかろうと思いながらも「まァいいさ、いいさ」というようなことはありませんか。
 (17)「愛情」ということばより「情愛」ということばに心ひかれるようなことはありませんか。
 (18)乾杯の音頭取りをたのまれたことありませんか。
 (19)よく気がつく女のコが相手だと、くたびれるようなことはありませんか。
 (20)パーティーへ行って、イスがほしいとは思いませんか。
 (21)バーやキャバレーに行っても「さァ、ボチボチ引きあげようか」と口火を切って、いちばん先に腰を浮かしたい衝動にかられませんか。
 (22)出張費を浮かすよりいい宿でゆっくり休みたくはありませんか。
 (23)だまされた経験ばかりだったと、ふと思うようなことはありませんか。
 (24)駅のベンチで、ヒトリゴトをいうようなことはありませんか。
 (25)宴会に出席しても、芸者に「まァ、ここへすわれ」といわなければ、芸者が素通りしてしまうようなことはありませんか。
 (26)「まァ、めずらしく甘いモノをほしがるのね」と、奥さんにいわれることありませんか。


〈以上、自分は達者だと思っていても、老化現象はソコハカトナクしのびこんできたのですぞッ〉

 というのが市川さんの締めの言葉。

◇高齢社会を生きる知恵〈老人らしさ〉を教えて

 小島さんによると、
高名な英文学者の中野好夫さんも、この二十六カ条を見ていて、
『私の消極哲学』というエッセーのなかで、(1)(5)(13)(16)(18)(20)(23)(25)の八カ条をピックアップし、

〈まことにドンピシャリである。もっとも市川氏によれば、これらはすべて老化現象の初期徴候だそうだから、すでに齢(よわい)喜寿を過ぎた筆者が、一針チクリと刺されるのはむしろ当然かもしれぬ〉

 と呑気に書いたそうだ。

このうち(5)だけは、いまの若い人にはわからない。

だが、中野さんはこの時すでに七十七歳(一九八五年八十一歳で死去)。
老化の初期徴候どころか、老人そのものである。
それがどうも曖昧なまま自覚されていなかったらしい。


 二十六カ条まで引用させてもらいながら恐縮だが、市川さん、小島さん、中野さんら先輩世代は、あのころ、〈老人〉という年齢的線引きのわきまえがなく、ぼんやり老化現象として眺めていた。
だから、早見表を見て楽しむ、日本はまだ結構な時代だった。


 いまは人口構成の状況がガラリと一変、六十五歳以上の高齢者(老人)が総人口のうち三千万人を超えてしまったのだ。

老化現象などと言ってる暇はない。高齢社会を上手に円満に生き抜くには、〈老人らしさ〉のほうが問われているように思う。

どなたか、〈らしさ〉の早見表をつくっていただけませんか。


<今週のひと言>

 ことのほか、秋がいい。あの夏のあとだから。
(サンデー毎日2013年10月13日号)
posted by 小だぬき at 06:00 | Comment(2) | TrackBack(0) | 健康・生活・医療 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
何個か当てはまりますΣΣ┏(|||`□´|||;;)┓
Posted by みゆきん at 2013年10月05日 11:01
青線のところが 今の私の当てはまる点かな・・
昔から「老い」を感じる点に共通項があるみたいですね。
私が付け加えると「歩道橋があっても 車道の信号で下を歩いていませんか??」「数か所 訪ねる予定ででかけても 忘れる所はありませんか??」
Posted by 小だぬき at 2013年10月05日 12:11
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック