2013年11月19日

風知草:秘密との、つき合い方=山田孝男

風知草:秘密との、つき合い方=山田孝男
毎日新聞 2013年11月18日 東京朝刊

 敵に漏れれば国の安全が脅かされる情報を、国が秘密にするのは当然のことである。

国を守るため、情報漏れの処罰法を整えるという政府の意図が本質的に暗黒だとは思わない。


 政府が特定秘密保護法案の成立を急ぐ理由の一端は、第1次安倍内閣の2007年に起きたイージス艦情報漏れ事件にある。

出入国管理法違反容疑で神奈川県警に逮捕された中国人の女性(当時33歳)宅からイージス艦の構造図面、レーダーの捕捉距離など最高度の機密を含む外付けハードディスクが見つかった。


 イージス艦は強力なレーダーとミサイルで同時多発の敵襲を迎え撃つ高性能の護衛艦だ。
イージス(Aegis)はギリシャ神話に登場する神の盾。

米海軍にあっては空母の用心棒、海上自衛隊の6隻は日本のミサイル防衛の要である。


 その最高機密が中国へ流れた可能性が浮上、日米両国政府はあわてた。


 情報の流出元は横須賀基地でコンピューターのプログラム管理に携わる3等海佐だった。
先輩に当たる広島県江田島の術科学校(教育機関)教官が、アクセスする資格がないのに3佐に頼んで入手。

教官の部下が無断で大量コピーして仲間に配り、自慢した。
受け取った一人が中国人女性の夫の2等海曹だった。


 スパイ事件ではなく、中国政府に流れたわけではないが、漏らした3佐は逮捕され、懲役2年6月(執行猶予付き)が確定。
3佐を含む3人が懲戒免職という自衛隊史上最悪の情報漏れ事件になった。

イージス艦に守られながら、イージス艦の秘密保持には無頓着という日本の矛盾を、この事件は浮き彫りにした。


 3佐は日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法違反に問われた。
同法は自衛隊にのみ適用される。
仮に情報が経済産業省(ここも武器を扱う)から漏れても刑事責任は問えない。

 そもそも、法律と規則が整った自衛隊さえ、ゆるフン状態なのである。


 軍事情報史の労作「インテリジェンス」(12年ちくま学芸文庫、小谷賢著)によれば、アメリカも昔はゆるゆるだった。
東西冷戦で鍛えられた。

イギリスの007の伝統は、第一次大戦以来、ドイツとの確執を通じて培われたものである。
日本にも旧軍の伝統が残っていたが、1970年代を境に絶えた。


 これらの歴史を顧みることは時代錯誤だろうか。
イージス艦無用、日米安保無用、渡る地球に敵などいないと考える人々にとってはそうかもしれない。

 私はそうは思わない。
国際社会の波風はますます強く、しかもアメリカが警察官役から退いていく。日本の自立・自衛が問われている。
軍事は邪悪、秘密は暗黒という過度の思い込みを改める必要がある。


 秘密保護法案の最大の論点は、官僚が秘密を乱造し、闇へ葬るという不信だ。
その恐れは十分にある。
アメリカは秘密も多い(多過ぎて流出が続く)が、2500人を擁する国立公文書館の権限が大きく、管理が分権的だ。

日本の公文書館はわずか40人で、霞が関の抵抗を覆す力はない。


 秘密保護法案の問題は多いが、規制が緩いままではかえって社会の安全が脅かされる側面もある。


 日本で活動し、日本を観察した旧ソ連のスパイに警句がある。
「確かに民主主義は開放的な制度だが、民主主義そのものを損なうほど開放的であってはならないのだ−−」(「KGBの見た日本/レフチェンコ回想録」84年)

 味わうべきだと思う。(敬称略)
posted by 小だぬき at 00:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 社会・政治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
外からの攻撃から身を守ることはもちろん必要です。(その前に、攻撃を受けなくて済むように理性的にやっていくことが一番ですが)
民主主義も大事。
問題は、政府が本気で民主主義を貫こうとしているか、本気で戦争を回避しようとしているか、
権力と欲、エゴに負けない高い精神があるかどうかだと思います。
本当に国民一人ひとりの身になっているか、一人ひとりを大事だと思っているか(自分の為、自分の党や自分たちの権威の為になってないか)だと思います。
日本の為と信じてやっているのだとは思いますが、それが絶対だと思わず、謙虚にやってもらいたいと思います。日本だけでなく、世界のみんなの為になることを考えてほしいと思います。
でないと、こわいです。
Posted by まる at 2013年11月19日 09:16
まるさんの意見が 一番妥当だと思います

恣意的秘密指定と同時に 恣意的情報公開で世論誘導も可能なことが怖いのです。

本当に 民主主義にたつならば もっと慎重に論議を深めて 誰が政権をとっても 通用するような厳格な法案にすることが 本来大事です。
Posted by 小だぬき at 2013年11月19日 12:21
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