電子カルテの弊害
私のカルテが病院から消える
2014年1月14日 読売新聞yomiDr.
(人間の頭脳はコンピューターを超えるものであると、よく分かりました)
年明けからテンヤワンヤです。
研修先の心療内科のカルテが、今年から電子カルテに変わることになりました。
心療内科が特別な所なのかもしれませんが、患者さんの過去から現在までの経過は、とても大事な情報なのです。
そして今日の診察にすぐに使えなくてはなりません。
例えば今日、4年前と同じ心理検査をしたとき、その方がどういうコメントをしたかについて知りたいときは、先生が分厚い紙のカルテを勘に頼るような速さでページをめくって過去に戻り、何秒後かには何月何日にこう言っていたが今はどうですか? なんて質問を患者さんにすることができていました。
患者側も先生も覚えていない事実なんて多々ありますから、紙のカルテに先生の直筆で書かれてあることは非常に重要な情報なのです。
人間の能力って、ものすごいものがあるなと、私は常々その光景を見ながら感じておりました。
ところが、年明けからやっている電子カルテに移行する作業をしながら、
紙カルテの事実がどこに消えてしまうのだろうかという不安を感じています。
実際、紙カルテの情報をどのように整理するかに追われながら、同時に患者さんの診察を行っています。
電子カルテを考案した会社のスタッフが終日、我々の後ろに背後霊のように立って技術的な質問を受けてくれるのですが、ほとんどの場合、「会社に問い合わせてみます」で、即効性のある回答は得られません。
当然、先生方はイライラの連続で、「ここにあるものが印刷されて出てきてほしいのに、なんで出てこないのですか」なんて質問ばかりでした。
私の質問は、同じ患者さんの情報を入れる際に、逐一スキャナーの種類の登録からやり直さなくてはなりませんか? とか、クリアネスのところは100%最初からセットしておいてくださいませんか、と言っても、時間をかけて本社に連絡をしたあげくが、「今後の検討課題とさせていただきます」という答えでした。
電子カルテにすることによって紙媒体などの無駄な消費を少なくするという大義があるのですが、
紙カルテにある問診票をスキャナーで電子カルテに入れるためには、まずコピー機で紙カルテを1枚1枚コピーしなければならないのです。どこが節約なのでしょう。
先生やカウンセラーが長年、その患者さんの経過を書きこんだ詳細にわたる病状はどのように電子カルテに移行されるのですか? の質問には、「先生方にサマリーとしてあらためて書きこんでいただきます」が会社側の答えでした。
一体誰がそんな仕事をするのでしょう。
特にめんどうくさい保険会社関連や介護関連の申請や情報については、パソコンの文字に三文判を押しただけでは信用はもらえませんから、当然、先生方の直筆のものが必要になってきます。
我々は一体なにをしているのか、だんだん分からなくなってきました。
ましてや、患者さんにしてみれば、自分のこれまでの人生の病気の歴史やカウンセラーとの会話がデータ上から消えてなくなるわけです。
私の研修先の先生は来年で定年退職されます。
最も多い患者さんの質問は「先生がいなくなられたら、私はどうすればいいのですか」です。
その答えが「他にもいい先生はいっぱいいらっしゃいます。
私である必要はありませんよ」なのですが、「いい先生って、どなたかご紹介いただけるのでしょうか」とか「誰が先生のように私のことを真剣に考えてくださるのですか」という質問が多いのです。
お気持ちは痛いほど分かりますが、どうしようもないのかもしれません。
電子カルテには初診時の情報はありますが、現在のご自身の状態は自分でしっかりと把握し、他の医師にどこから治療を再開してもらうかは自分で考えなければならない時代になりました。