理系女子の発想が常識覆した
2014年2月1日付・読売新聞社説
理化学研究所の小保方晴子さんのほか、米ハーバード大などのチームが新たな手法で、様々な組織や臓器の細胞に育つ「万能細胞」を作り出すことに成功した。
マウスの細胞(リンパ球)を弱い酸性の液に漬けた。毒素を加えたり、細いガラス管に通したりと別の刺激でも作製できた。
ヒトの細胞でも成功すれば、傷んだ組織や臓器を蘇(よみがえ)らせる再生医療に応用できる。
幅広い可能性を開く成果を称(たた)えたい。
研究チームは、こうして作り出した万能細胞を「STAP細胞」と呼んでいる。STAPとは、「刺激によって引き起こされた多能性の獲得」という意味だ。
生物は、受精卵から始まり、組織や臓器に分化していく。
分化後は受精卵に逆戻りしないとされてきただけに、STAP細胞に世界が注目するのはうなずける。
意外な手法に、研究チームが一昨年、科学誌に論文を初投稿した時は「細胞生物学の歴史を愚弄している」と突き返された。
だが、研究リーダーの小保方さんたちは粘り強く実験を重ね、データを補強して発表にこぎ着けた。
万能細胞には、ES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)がある。
作製には遺伝子操作など複雑な工程を経る。
これに対し、「第3の万能細胞」であるSTAP細胞は、生物の細胞にもともと備わった能力を生かして作られる。
刺激を加えたことで細胞に何が起きたか。
その詳しい仕組みの解明が今後の重要課題だ。
生物の成長と老化、病気の仕組みの探求にも貢献するだろう。
今回の成果の背景には、政府が再生医療研究を重点支援してきたことがある。
小保方さんが所属している理研発生・再生科学総合研究センター(神戸市)も政府が整備した再生医療の研究拠点だ。
この分野の国際競争は激しい。引き続き支援が必要だ。
小保方さんはまだ30歳の若い研究者だ。
発想力に加え、ベテラン研究者と協力関係を築く行動力など若手研究者の模範となろう。
女性研究者や、研究者を目指している理系女子「リケジョ」の励みになるかもしれない。
日本の女性研究者の比率は14%にすぎず、先進国で最低だ。
政府の科学技術基本計画は30%を目標に掲げるが、出産などを機に研究現場を去る女性は多い。
家族の協力はもちろん、リケジョの活躍を後押しする政策が重要だ。